15 / 99
第一章 魔法学校のポンコツ先生
12 魔力供給
しおりを挟む午前の授業を終えて、生徒たちが我先にと教室の外へと飛び出す頃。
コレットも時同じくして保健室へと飛び込んでいた。今日は初めての魔力供給を受ける約束で、注射を打ちやすいようにシャツだって半袖のものを着て来ていたのだ。少しまだ肌寒いけれども。
「レイチェル……あ、ウィンスター先生!」
「はぁい。いらっしゃい、コレット。待ってたわ。年も近いしもうレイチェルで良いわよ」
その方が楽でしょう、とウィンクを飛ばすレイチェルに涙ぐみながらブンブンと頷く。昨日の今日でこんなに親しげな態度を許してくれるなんて、やはりプリンシパル王立魔法学校のマドンナは天使だ。
今日もまたレイチェル目当てに仮病を装って保健室のベッドを借りていた男子生徒が居たわけだが、コレットが来た瞬間あからさまにガッカリして部屋の外へと出て行った。
二つ年上のレイチェル・ウィンスターはそれはそれはモテる。しかし、当の本人はあまり恋愛に興味は無いらしく、一度目の人生でも様々な男子生徒が彼女に告白して玉砕していく様をコレットはよく目にしていた。
「血液型は二型で合ってる?」
「えっと、はい!」
「良かったわね。一型だったら供給数が少ないから。二型と三型は比較的楽に手に入るんだけど、なかなか一型って居ないのよねー」
「そうなんですね……」
「敬語も要らないわ。せっかくの若手同士だし、仲良くしましょうよ!」
「ありがとう!」
有難い言葉に素直な感謝を伝える。
曲者揃いのプリンシパル王立魔法学校は教師陣の年齢も幅広い。なにぶん校長先生がかなりの高齢なので「こんな年齢の方が教鞭を?」と驚くような教師もたくさん居る。
記憶を辿る限りおそらく最年少は、魔法大学を出てすぐに教員採用試験に合格した法学担当のリブラ・ガルシアだろう。スラリとした長身に耳下で切り揃えたブラウンの髪をした彼女は、確かまだ二十二歳だったはず。法に関することならば、本を調べるよりもガルシアに聞けと言うぐらいには知識が深い。
「それじゃあ、いくわよー」
レイチェルの綺麗な手がコレットの腕に触れる。薄らと浮き出た静脈目掛けて注射器がプスッと刺された。
「………ッい!?」
「大丈夫大丈夫、夕飯のことでも考えてるうちに終わるからね。そういえば、やけにニンニク臭いんだけど、貴女何か買って来た?」
「あ、お昼ごはんにガーリックトーストを……」
「っふ、はははっ!やっぱりコレットって変わってるわねぇ!もう良いわ、後で換気するから」
ケラケラと笑ったレイチェルはそう言って注射器を引き抜く。立て続けに別の注射器が突き立てられて、コレットは恐怖のあまり気絶しそうになった。
しかし、瞬時にその恐怖は別の感情に塗り替えられていく。今まで感じたことのない温かさ。これが、人の魔力が流れ込む感覚なのだろうか。痛みや苦痛というよりも、満たされる感じ。力がみなぎってくるような。
「ん、終わり!よく頑張ったわね!」
「ありがとう、レイチェル!」
「また来週ね。まぁ、何事も慣れだし、生徒たちの中でも魔力が低い子は授業で倒れてここで魔力の供給を受けたりするからさ」
「だけど教師でゼロよ……」
メソメソと溢すコレットを見てレイチェルはニッコリと笑う。不安を吹き飛ばす肯定的な笑顔。
「大丈夫よ。魔力は強ければ良いってもんでもない。現に供給者の中には、強過ぎる魔力を持て余して名乗りを上げる者も居るわ」
「持て余す……?」
「いくら強い魔力を持っていても、それを制御出来るだけの精神力が伴ってないとダメ。そうじゃなきゃ魔力は暴走して周りの人間を不幸にするから」
「………その通りね」
しんみりと頷くコレットの頭をポンポンと叩いて「コレットはコレットのままで良いの!」と言うとレイチェルは立ち上がった。
ぼけっと眺めていると、スタスタと歩いて行った彼女は窓を全開にして部屋の入り口の扉を引く。
「分かったら、はい退室!ニンニク臭い部屋の中じゃ生徒の気分がもっと悪くなっちゃう」
「ごめんなさい……」
コレットはパンの入った袋を掴んで、部屋の主人であるレイチェルに頭を下げると、すごすごと保健室を後にした。
69
お気に入りに追加
183
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
転生メイドは絆されない ~あの子は私が育てます!~
志波 連
ファンタジー
息子と一緒に事故に遭い、母子で異世界に転生してしまったさおり。
自分には前世の記憶があるのに、息子は全く覚えていなかった。
しかも、愛息子はヘブンズ王国の第二王子に転生しているのに、自分はその王子付きのメイドという格差。
身分差故に、自分の息子に敬語で話し、無理な要求にも笑顔で応える日々。
しかし、そのあまりの傍若無人さにお母ちゃんはブチ切れた!
第二王子に厳しい躾を始めた一介のメイドの噂は王家の人々の耳にも入る。
側近たちは不敬だと騒ぐが、国王と王妃、そして第一王子はその奮闘を見守る。
厳しくも愛情あふれるメイドの姿に、第一王子は恋をする。
後継者争いや、反王家貴族の暗躍などを乗り越え、元親子は国の在り方さえ変えていくのだった。
旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします
暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。
いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。
子を身ごもってからでは遅いのです。
あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」
伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。
女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。
妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。
だから恥じた。
「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。
本当に恥ずかしい…
私は潔く身を引くことにしますわ………」
そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。
「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。
私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。
手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。
そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」
こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる