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第一章 魔法学校のポンコツ先生

12 魔力供給

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 午前の授業を終えて、生徒たちが我先にと教室の外へと飛び出す頃。

 コレットも時同じくして保健室へと飛び込んでいた。今日は初めての魔力供給を受ける約束で、注射を打ちやすいようにシャツだって半袖のものを着て来ていたのだ。少しまだ肌寒いけれども。


「レイチェル……あ、ウィンスター先生!」

「はぁい。いらっしゃい、コレット。待ってたわ。年も近いしもうレイチェルで良いわよ」

 その方が楽でしょう、とウィンクを飛ばすレイチェルに涙ぐみながらブンブンと頷く。昨日の今日でこんなに親しげな態度を許してくれるなんて、やはりプリンシパル王立魔法学校のマドンナは天使だ。

 今日もまたレイチェル目当てに仮病を装って保健室のベッドを借りていた男子生徒が居たわけだが、コレットが来た瞬間あからさまにガッカリして部屋の外へと出て行った。

 二つ年上のレイチェル・ウィンスターはそれはそれはモテる。しかし、当の本人はあまり恋愛に興味は無いらしく、一度目の人生でも様々な男子生徒が彼女に告白して玉砕していく様をコレットはよく目にしていた。


「血液型は二型で合ってる?」

「えっと、はい!」

「良かったわね。一型だったら供給数が少ないから。二型と三型は比較的楽に手に入るんだけど、なかなか一型って居ないのよねー」

「そうなんですね……」

「敬語も要らないわ。せっかくの若手同士だし、仲良くしましょうよ!」

「ありがとう!」

 有難い言葉に素直な感謝を伝える。

 曲者揃いのプリンシパル王立魔法学校は教師陣の年齢も幅広い。なにぶん校長先生がかなりの高齢なので「こんな年齢の方が教鞭を?」と驚くような教師もたくさん居る。

 記憶を辿る限りおそらく最年少は、魔法大学を出てすぐに教員採用試験に合格した法学担当のリブラ・ガルシアだろう。スラリとした長身に耳下で切り揃えたブラウンの髪をした彼女は、確かまだ二十二歳だったはず。法に関することならば、本を調べるよりもガルシアに聞けと言うぐらいには知識が深い。


「それじゃあ、いくわよー」

 レイチェルの綺麗な手がコレットの腕に触れる。薄らと浮き出た静脈目掛けて注射器がプスッと刺された。

「………ッい!?」

「大丈夫大丈夫、夕飯のことでも考えてるうちに終わるからね。そういえば、やけにニンニク臭いんだけど、貴女何か買って来た?」

「あ、お昼ごはんにガーリックトーストを……」

「っふ、はははっ!やっぱりコレットって変わってるわねぇ!もう良いわ、後で換気するから」

 ケラケラと笑ったレイチェルはそう言って注射器を引き抜く。立て続けに別の注射器が突き立てられて、コレットは恐怖のあまり気絶しそうになった。

 しかし、瞬時にその恐怖は別の感情に塗り替えられていく。今まで感じたことのない温かさ。これが、人の魔力が流れ込む感覚なのだろうか。痛みや苦痛というよりも、満たされる感じ。力がみなぎってくるような。

「ん、終わり!よく頑張ったわね!」

「ありがとう、レイチェル!」

「また来週ね。まぁ、何事も慣れだし、生徒たちの中でも魔力が低い子は授業で倒れてここで魔力の供給を受けたりするからさ」

「だけど教師でゼロよ……」

 メソメソと溢すコレットを見てレイチェルはニッコリと笑う。不安を吹き飛ばす肯定的な笑顔。

「大丈夫よ。魔力は強ければ良いってもんでもない。現に供給者の中には、強過ぎる魔力を持て余して名乗りを上げる者も居るわ」

「持て余す……?」

「いくら強い魔力を持っていても、それを制御出来るだけの精神力が伴ってないとダメ。そうじゃなきゃ魔力は暴走して周りの人間を不幸にするから」

「………その通りね」

 しんみりと頷くコレットの頭をポンポンと叩いて「コレットはコレットのままで良いの!」と言うとレイチェルは立ち上がった。

 ぼけっと眺めていると、スタスタと歩いて行った彼女は窓を全開にして部屋の入り口の扉を引く。

「分かったら、はい退室!ニンニク臭い部屋の中じゃ生徒の気分がもっと悪くなっちゃう」

「ごめんなさい……」

 コレットはパンの入った袋を掴んで、部屋の主人であるレイチェルに頭を下げると、すごすごと保健室を後にした。



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