上 下
7 / 99
第一章 魔法学校のポンコツ先生

04 ポンコツ先生

しおりを挟む


 ポンコツとは。

 使えない人間であること、またはその様子。能力が低く、周囲の人々の足を引っ張ることを意味する。反意語としては「有能」などがある。

 え?ポンコツ?
 聞き間違いではなく?


「えーっと………バロンくん?君ちょっと失礼じゃないかしら?ご両親からそういう言葉は使っちゃダメって言われなかった?」

「僕は公爵家の出です。両親は教育に厳しく、僕を王立アカデミーに入れたかったみたいですが、その勧めを蹴って魔法学校を選びました」

「あ、そうなんだ……」

 公爵家だろうが何だろうがどうでも良いし、質問への回答になっているのか疑問は残るものの「爵位があるから黙れよ」という脅しだろうか。ぐぬ。

「失礼だったなら謝ります。ポンコツは悪口に当たる言葉なんですね。言われたことがないので分かりませんでした、すみません」

「いいのよ~これから分かってね」

 ピクピクと引き攣りそうになる頬を叩いてコレットは黒板の方を向く。

 可愛くない。どうしよう、ビックリするほど生徒たちが可愛くない。というか待って、三浪して教員になるのってそんなに恥ずかしいことだっけ。確かに受けに行くたびに「また来たなコイツ」という顔で試験官に見られていたけれど、あれは被害妄想では無かったのか。

 いや、そもそも。

(………もしかして……無能?)

 じんわりと思い出される一度目の人生の記憶。飛び交うゴミや筆記具。授業になっても席に座らない生徒たち。大声を出しすぎて喉が枯れるので常時のど飴を携帯していたような………

 今なら分かる。コレットは成し遂げることが出来なかったのだ。生徒たちとの関係の構築、誠心誠意でのサポート、自分が理想とする教師像の実演を。

 頭の中の情報を整理していたら、黙り込むコレットの背中に生徒からの不満げな声が刺さった。

「しっかりしてよーポンコツ先生!」

「なっ……!?」

 ショックを受けるコレットの前でニヤニヤと笑う生徒たちが声を揃えて「ポンコツ」コールを始める。じんわりと涙が滲む目を擦って口を開いたとき、バリッと雷が落ちたような大きな音がした。

 目を遣ると、コレットの前には先ほどまで入り口に立っていたマルティーナ・プッチ副校長が居た。

「貴方たち、品のない行いは控えなさい」

「だってその先生が!」

「クライン先生がどんな経験を経て教師になっていようと、今教壇に立っている現実がすべてです。夢を叶えた者を笑う権利は誰にもありません」

 水が引いたように騒ぎが収まるのが分かった。
 コレット自身、息を潜めて耳を澄ませる。

「プリンシパル王立魔法学校において私たち教員は絶対です。指示を仰いで、敬いなさい」

 子供たちは互いに目配せをし合うと、渋々といった様子で「ごめんなさい」と小さく述べた。教卓の上にはプッチが付けたのか、焼け焦げた跡が残っている。指で触れると、まだ少し熱が残っているような気がした。

 コレットは副校長に礼を伝えて、再び生徒たちを見渡す。先ほどよりもやや緊張した面持ちであるものの、話は聞いてくれそうな様子だ。


「あの……私は、みんなが毎日楽しいと思えるクラスを作りたいです。ここに集まった貴方たちは魔法使いの卵だから……プリンシパル王立魔法学校の先輩たちのような、偉大な魔法使いにも、きっとなれる」

 名門とされる魔法学校には、それこそセレスティア王国中から高い目標を持った生徒たちが集まる。だけどコレットは、自分の技量を磨くだけではなく、学生生活自体を楽しんでほしいと思っていた。

 このクラスで過ごす三年間は、一度だけだから。思い返した時にほっと胸が温かくなるように。

「先生にみんなの思い出作りの手伝いをさせてほしいの。最高の学校生活にしましょう……!」

 意を決して言い切ると、少しの間その場は静まり返る。くさいことを言い過ぎただろうか、胸の内で反省が始まった頃、パチパチと小さな拍手が聞こえた。

 顔を上げてみると、教室の一番後ろ、窓際の席に座った男子生徒が穏やかな笑みを浮かべて手を叩いている。やがて感化されたように拍手は広がって、最終的に口笛混じりの大きな音になった。

 コレットは涙ぐみながら頭を下げる。

 これが二度目のチャンスなら、必ず成功させなければいけない。どんな理由であれ、与えられた死に戻りの人生は、後悔しないために生き抜きたい。

 黒板に書かれた日付は五月一日。
 半年の時間が戻ったことになっていた。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

勇者パーティーを追放された俺は辺境の地で魔王に拾われて後継者として育てられる~魔王から教わった美学でメロメロにしてスローライフを満喫する~

一ノ瀬 彩音
ファンタジー
主人公は、勇者パーティーを追放されて辺境の地へと追放される。 そこで出会った魔族の少女と仲良くなり、彼女と共にスローライフを送ることになる。 しかし、ある日突然現れた魔王によって、俺は後継者として育てられることになる。 そして、俺の元には次々と美少女達が集まってくるのだった……。

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

底辺おっさん異世界通販生活始めます!〜ついでに傾国を建て直す〜

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 学歴も、才能もない底辺人生を送ってきたアラフォーおっさん。  運悪く暴走車との事故に遭い、命を落とす。  憐れに思った神様から不思議な能力【通販】を授かり、異世界転生を果たす。  異世界で【通販】を用いて衰退した村を建て直す事に成功した僕は、国家の建て直しにも協力していく事になる。

秘密多め令嬢の自由でデンジャラスな生活〜魔力0、超虚弱体質、たまに白い獣で大冒険して、溺愛されてる話

嵐華子
ファンタジー
【旧題】秘密の多い魔力0令嬢の自由ライフ。 【あらすじ】 イケメン魔術師一家の超虚弱体質養女は史上3人目の魔力0人間。 しかし本人はもちろん、通称、魔王と悪魔兄弟(義理家族達)は気にしない。 ついでに魔王と悪魔兄弟は王子達への雷撃も、国王と宰相の頭を燃やしても、凍らせても気にしない。 そんな一家はむしろ互いに愛情過多。 あてられた周りだけ食傷気味。 「でも魔力0だから魔法が使えないって誰が決めたの?」 なんて養女は言う。 今の所、魔法を使った事ないんですけどね。 ただし時々白い獣になって何かしらやらかしている模様。 僕呼びも含めて養女には色々秘密があるけど、令嬢の成長と共に少しずつ明らかになっていく。 一家の望みは表舞台に出る事なく家族でスローライフ……無理じゃないだろうか。 生活にも困らず、むしろ養女はやりたい事をやりたいように、自由に生きているだけで懐が潤いまくり、慰謝料も魔王達がガッポリ回収しては手渡すからか、懐は潤っている。 でもスローなライフは無理っぽい。 __そんなお話。 ※お気に入り登録、コメント、その他色々ありがとうございます。 ※他サイトでも掲載中。 ※1話1600〜2000文字くらいの、下スクロールでサクサク読めるように句読点改行しています。 ※主人公は溺愛されまくりですが、一部を除いて恋愛要素は今のところ無い模様。 ※サブも含めてタイトルのセンスは壊滅的にありません(自分的にしっくりくるまでちょくちょく変更すると思います)。

一般人になりたい成り行き聖女と一枚上手な腹黒王弟殿下の攻防につき

tanuTa
恋愛
 よく通っている図書館にいたはずの相楽小春(20)は、気づくと見知らぬ場所に立っていた。  いわゆるよくある『異世界転移もの』とかいうやつだ。聖女やら勇者やらチート的な力を使って世界を救うみたいな。  ただ1つ、よくある召喚ものとは異例な点がそこにはあった。  何故か召喚された聖女は小春を含め3人もいたのだ。  成り行き上取り残された小春は、その場にはいなかった王弟殿下の元へ連れて行かれることになるのだが……。  聖女召喚にはどうも裏があるらしく、小春は巻き込まれる前にさっさと一般人になるべく画策するが、一筋縄では行かなかった。  そして。 「──俺はね、聖女は要らないんだ」  王弟殿下であるリュカは、誰もが魅了されそうな柔和で甘い笑顔を浮かべて、淡々と告げるのだった。        これはめんどくさがりな訳あり聖女(仮)と策士でハイスペック(腹黒気味)な王弟殿下の利害関係から始まる、とある異世界での話。  1章完結。2章不定期更新。

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...