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第五章 エバートン家の花嫁
【番外編】或る風俗嬢の手記2▼
しおりを挟む「………っ…あ、ぐ…!!」
男は雄々しい棒を振って涙目で許しを請います。
手錠で拘束された左右の手首は赤く擦れていました。
ロカルド・ミュンヘン。
どんよりとした重たい夜に初めて店を訪れた彼がその後常連となってこうして通うようになると、誰が想像したでしょう。私はタバコの煙を吐き出しながら、無駄に美しいその男の顔を眺めました。
「ねぇ、私は儚いものが好きなの」
荒い息を繰り返すロカルドの目を見据えます。
赤いマニキュアを塗った指で剛直の先端に触れました。
「……おっ、んん…ッ」
「可愛いロカルド。辛いのね、とても」
わずかに残ったプライドを宿して、青い目は私を見ます。いくら彼が自分を強く保ったところで、この扉を潜って部屋に入って来た時点で彼の負けなのに。
夜の館と呼ばれるこの特殊な店には、人様に公に語れない性癖をもった紳士がこっそりと来店します。今こうしてベッドの柵に手錠で括り付けられて己を曝け出すロカルドもまた、高貴な生まれであることは明確。
何者にも穢されないような高いプライドを持った彼が、待てを命じられて無様に腰を振るのは非常に見応えがあります。
「私の手を貸してあげましょうか?」
「……っ頼む、貸してくれ…!」
「頼み方がなってないわ。やり直して」
「………ああっ!」
鞭で太腿を叩くと、ロカルドは良い悲鳴を上げました。
「お願い…します。女王様……!」
「ふふ、良い子ね。はいどうぞ」
もちろん素手でなんか触ってあげません。
奴隷の性器を素手で撫でるなど、主人としての品格が問われます。私は革の手袋をして親指と人差し指を丸め、輪っかを作ってロカルドの前に差し出しました。
蕩けた顔のロカルドが私の指に自身を擦り付けます。ダラダラと涎を垂らすその棒の、なんとはしたないことでしょう。私は彼がわずかに残していた、男としての意地のようなものがすっかり溶けて無くなっていることに気付きました。
「……あぁっ、気持ちぃ……っはぁ…」
部屋に充満する雄の匂いに私は顔を顰めます。
仕方がないことですが、私はこうした匂いが嫌いです。自己愛に満ちたプライドの高い男たちの欲の匂いは、どこまでも下品で低俗。
気を紛らわすために二本目のタバコを吸うことにしました。鼻腔に広がる甘いシナモンの香りを、一人で行為に耽る憐れな奴隷にも分けてあげようと、私は顔を近付けました。
青い瞳を見据えてふっと息を吐きます。
夢の中のような双眼の奥に驚きが宿ったのを見ました。
「ロカルド、私を見なさい」
「あっ……!?」
手に持ったタバコを口で咥えて、私は激しく根本から奴隷を攻め立てます。手の中で限界まで硬くなったのを確認してから、そろりそろりと反対の手で可愛らしい胸の突起を撫でてみました。ビクッと大きくロカルドは仰け反ります。
とても良い反応です。
彼はこの一年で素晴らしい奴隷に成長しました。
「………っう、あ、出る……!」
勢いよく震えた身体から手を離すと、白濁した液体が弧を描いて飛び出しました。もう少し我慢出来ると思っていましたが、やはりまだ教育が足りないようです。
強い快感の余韻を逃すため、生まれたての子羊のようにフルフルと身を揺らすロカルドが愛らしかったので、私はご褒美として額に口付けを落としました。
「頑張ったわね。良い子だわ」
嬉しそうに頬をゆるめる男の頭を撫でてやります。少し甘やかし過ぎでしょうか?たまにはこんな日があっても良いと思うのです。
私はこの時、まったくもって予想していませんでした。
私を贔屓にするこの男と三日後に再会することを。
それも、使用人と主人という最悪の形で。
◆ご連絡
こちらの番外編を長編として連載してみることにしました。『奴隷が主人になりまして』というタイトルで公開中です。
恋愛大賞の波の中にこういった変なのが混じっていても面白いかなと思いまして……作者はときどき「あのクズは今」と過去作のクズに思いを馳せるのですが、やはり断トツでロカルドのその後が気になっていたのです。
ざまぁ退場したキャラがヒーローになるトチ狂った話ですが、彼なりに反省して改心はしているようなので、覗いていただければ嬉しいです。AI出力した表紙がイメージ通りでとても嬉しい。
ルシウスとシーアが出るかは未定です。
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お読みいただきありがとうございました。
読後うっとりを残せてよかったです;;
毎度完結するたびに「これでよかったの…?」と虚無虚無プリンになってしまうので、少し救われました。
ロカルドがみんと様のデザートになれて良かったです!
ありがとうございました。
感想ありがとうございます!
ルシウスを好きになっていただき嬉しいです!
それ食べたことあります!紫のグミのやつですね。たしかに美味しく食べれたら良いですね〜。私も色々調べてみます。情報ありがとうございます🍇🤝
感想ありがとうございます。
実は次章の前半がほぼそういった内容なので夜中にしれっと更新して進めようと思います。はやく完結したい…
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