75 / 76
第五章 エバートン家の花嫁
【番外編】或る風俗嬢の手記▼
しおりを挟むロカルドの話です。
特に救いも何もないです。
--------------------
⚪︎月×日
その日はどんよりとした天気で、一日中気味の悪い雲が空を覆っていました。客足も少ないだろうということで、私は制服に着替えたものの、手持ち無沙汰にベッドの上に腰掛けて思考に耽っていました。
しかし、退屈は長くは続かず、ベルが鳴って三人目の客が部屋へと通されました。
長身の男はすぐにキョロキョロと警戒するように部屋の中に目を走らせ、私にいくつか質問を寄越しました。「プライバシーへの配慮」「カメラの有無」といった内容を問われて、私はこのクラブは完全に会員制であり、客の個人情報が外部へ漏れることは決してないことを伝えました。
ここは表では曝け出せない特殊な性癖を持つ殿方が、ひっそりとその欲を解放する秘密クラブです。
客の情報が流出することなどあってはいけませんし、この部屋の中でどんな過酷なプレイが繰り広げられようとも、一歩外へ出れば私たちは完全に他人の振りをしなければいけません。
意外にも、異常性癖をお持ちの男性は多いようで、上は上流貴族から下は借金をして通い詰めるような貧困層まで、様々な方が来店されます。
その日来店された男性は、初めてのご利用のようで、そわそわと服を脱ぎながら私に名前を尋ねて来ました。私はマニュアルに則って「奴隷に教える名前はない」と答えます。男は怯んだように顔を歪ませて、暫しの間、閉口しました。
しかし、やがてプレイであることを思い出したのか、自分の名前はロカルドだと名乗りました。
ロカルドと云うこの客が、良い家の出であることはすぐに分かりました。着ている衣服や立ち居振る舞い、言葉遣いが、一般層のそれとは掛け離れていたからです。客のプライベートを探ることは御法度なので、私は静かに観察を続けながら、男の求めるモノが何なのかを考えました。
金や名声はあるのでしょう。
女にも困らない見た目です。
では、いったい何故彼はこんなにも疲れ果てて、眠れない夜を彷徨っているような顔をしているのでしょう。美しいこの男を悩ませ、破滅へと導いている原因には興味がありました。
最初は私の椅子として、地べたに手を突かせてその上に座りました。屈辱的な表情の中にも恍惚した笑みを見せる彼にはきっと天性の才能があるのだと思います。相反する二つの感情に戸惑っている姿は、非常に見応えがあり、久しぶりに私も愉しむことが出来ました。
何分が経過したのか分かりませんが、子鹿のように男の両腕が震え出したので、私は椅子の安定性を考えて彼を解放しました。
そして、そのまま良くしなるお気に入りの鞭を手に取って男の背中に打ち付けました。とても良い音がして、男は高い声で啼きました。拒否の声が聞こえた気もしますが、それでもしっかりと根本から立ち上がった陰茎を見るに、本音ではなかったのだと思います。
この秘密クラブで女王として働く人間として、奴隷である男たちを自分の手で悦ばすわけにはいきません。
なので私は、荒い呼吸を繰り返す男に冷たい視線を投げ掛けて、もう一度鞭を振いました。一糸纏わぬ姿となった彼の剛直からは既に透明な汁が流れ出ていたので、とても素直で良い奴隷だと言えるでしょう。
あまりに苦しげな声で啼くので、少し可哀想になって、自分で慰めることを許しました。「ロカルド、貴方は我慢出来ない不出来な奴隷ね」と嘲るように言うと、彼は真っ赤な顔で、しかし男根を扱く手は止めませんでした。やがて短い呻き声と共に吐き出した情欲を、男は薄ら目に涙を溜めて見つめていました。
これこそが女王として働く至高の時です。
富や権力を持った男たちが情けなく果てる姿を、自分の手は汚すことなく見届けることが出来るのですから。
それから私は、涙を流し続ける男をベッドへと誘い、自分の膝の上で少し休ませてやりました。彼がその異常性の先に求めるものが赦しなのか、それともただの快楽なのかは分かりません。けれども、子供のように身を丸めるこの男が、どうか、明日は今日よりも健やかに過ごせるよう願いました。
女王と言えど、その程度の情けは掛けても良いでしょう。
私はこの館を出れば、ただの下働きの下女に戻ります。高貴な身分の男たちには見下され、女たちからは侮蔑の目で見られます。しかし、ひとたび制服を着れば、私は奴隷を従えた女王様になることが出来るのです。
ロカルドと名乗る男はまた来るでしょうか?
確かなことは分かりません。
しかし、私は彼が自分自身を赦さない限り、足繁くこの館へと通う気がしました。どこまで求めても乾く身体、足るを知らないその欲望を埋めるただ一つの方法が、ここにはあるのですから。
35
お気に入りに追加
1,548
あなたにおすすめの小説
亡くなった王太子妃
沙耶
恋愛
王妃の茶会で毒を盛られてしまった王太子妃。
侍女の証言、王太子妃の親友、溺愛していた妹。
王太子妃を愛していた王太子が、全てを気付いた時にはもう遅かった。
なぜなら彼女は死んでしまったのだから。
男友達を家に入れたら催眠術とおもちゃで責められ調教されちゃう話
mian
恋愛
気づいたら両手両足を固定されている。
クリトリスにはローター、膣には20センチ弱はある薄ピンクの鉤型が入っている。
友達だと思ってたのに、催眠術をかけられ体が敏感になって容赦なく何度もイかされる。気づけば彼なしではイけない体に作り変えられる。SM調教物語。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる