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第五章 エバートン家の花嫁
70.矛と盾▼
しおりを挟む挿入と断念を繰り返した何日目かの夜のこと、この流れにもなんだか少しだけ慣れて来たような気がして、私は気を抜いていた。
女王様のように前戯だけしてもらって、自分だけ勝手に気持ちよくなることに対する申し訳なさはあったけれど、ルシウスは無理強いを決してしない。それどころか、いつも私の身体を労ってくれて精一杯の気遣いを見せてくれるから有難いことこの上ない。
そう、完全に油断していた。
いつものように身体を好き勝手に弄くり回して私をぐだぐだに溶けさせた後、ルシウスはふいに私に口付けた。まどろむ意識の中で、なんとか応えていたら、警戒を解いていた秘部に熱くて硬いものが押し当てられた。
それでもまだ「ああ、また挑戦するのね」ぐらいの気持ちで余裕を持って呆けていると、いつもなら止まるべき場所でそれは停止せずにグイグイと肉を抉るように突き進んで来た。
「………っはぁ、あ…!?」
びっくりして覆い被さるルシウスの顔を目で捉える。
大きな手が私の視界を奪った。
「ごめん、もう我慢できないかも」
「あ、あ、やだ、待って…!」
「待てない」
短く言い切ると、ズンと奥の方まで押し入る。瞬間押し潰されるような圧迫感に、私は自分が窒息したのかと思った。身体の中は不法侵入した異物に戸惑い、躍起になって追い出そうと蠢いている。
けれども何故か私が焦れば焦るほど、ルシウスは苦しそうに唸って腰を深く沈めた。
「ちょっと…っ……離して、」
「シーアが、締め付けるから…!」
「そんなことない!」
「力緩めて…じゃないと、困る、」
「どうやって、あ、今動いちゃ……っひゃう、」
逃げるように抜かれた雄は、そのまま入り口付近で引っ掛かる。擦れた箇所がヒリヒリする。しかし、私はその痛みの中に少しの気持ち良さを見出した。
じんわりと広がる毒のような快感。
「………ん、もっと…」
恥ずかしすぎて顔が見れなかった。私は薄らと汗ばむルシウスの鎖骨あたりを睨んで、眉間に力を入れる。懇願しているわけではない。これは決して、頼み込むとか私の方が一方的にお願いしているわけではなくて、あくまでもフェアな取引なのだ。
ルシウスもきっと先を望んでいるはず。
そう、だからお互いのため。
確認するように恐る恐る視線を上げてルシウスの瞳を見つめた。吸い込まれそうな深い碧色に、思わず息を呑む。ほんの僅かに、その瞳は愉しげに光った。
「もうこの辺りで止めようかな」
「………え?」
「シーアも痛そうだったし、無理してるよね?」
「む、無理なんか…」
「でも、痛いでしょう?」
そろりと腰を撫でられて心臓が跳ねた。
痛い、もちろん痛いけれども。
(え、これで終わり……?)
焦りが顔に出ないように、懸命に頭を働かせて、どうにか続きをしてもらうための尤もらしい言い分を探す。というか何でこんな中途半端なところで止めるのか。
「も…もしかして怖くなったの、貴方?」
「怖いって、俺が?」
「ええ。お互い経験がないでしょう?だからこうして機嫌を窺うように進めているけれど、本当は怖いのかなって」
「……なるほど、そう来るか」
「え?」
「シーアから欲しいって言われるの見たくて意地悪しようと思ったけど、君は俺が思っていたより強情だね」
「………っ」
「もういいや。遠慮してあげない」
「ルシウ、あ……っ!?」
ばちゅんっと音を立てて、再び奥まで挿入された肉杭は先ほどよりも心なしか大きさを増している。
想像以上の刺激に恐れをなして上へ上へと逃げていく私の腰を、ルシウスは両手でしっかりと押さえ込んだ。自重を掛けられれば、より深いところへ届いて、喘ぐというよりも悲鳴に近い声が漏れる。
「……っあ、や、あぁ…!」
「名前呼んで…シーア、」
「ん…ルシウス、もっと…近くに…っ」
堪らなくなって口付けると、強く身体が抱え込まれる。理性や羞恥心といった抑制力が逃げ出した頭の中には、初めて知る甘い時間を一瞬たりとも逃すまいと息巻く強欲だけが残っていた。
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