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第四章 蛇と狼と鼠
52.狼と鼠の遊び
しおりを挟む暗くなったリビングの中で、カーテンも閉め切って、私たちはただお互いの温度を確かめ合っていた。周辺に民家がないからか、窓の外は物音一つせず、ただ布が擦れ合う音だけが部屋の中に響いていた。
私はルシウスの上に跨って、そのシャツのボタンを開きながら、緊張を隠すために口を開く。
「私だけ脱ぐなんてフェアじゃない。今日は貴方も上半身ぐらいは見せてよ」
ヒョロヒョロだったら笑ってやるつもりだった。
ロカルドとの一件で、彼の腕力は拝見できたし、棒人間のように柔ではないことは分かっているのだけれど。
「シーアに脱がされるなんて新鮮だな」
「………、」
ぜんぜんヒョロくない。期待外れ、或いは本来は期待以上と言うべきなのだろう。男性的な筋肉の付いた胸板に引き締まった腰回り、同級の女子たちなら鼻血を流して崇め出しそうな身体をしている。
ロカルドもおそらく女性ウケを狙うために多少鍛えているようだったけれど、ルシウスの場合は実用性もあるような身体をしていた。私が階段から落下しても素手で受け止めてくれそうな安心感がある。
「ごめん…君の好みじゃないかもしれない」
「そんなこと…!」
「父が変に真面目な人でね、身体がダラシないと心も弛むとか言って煩いから。でもそんなに重くないよ」
「あ、いえ…男らしくて…良いと思うけど、」
「本当?」
ルシウスが私の手を取って、自分の腹の上に乗せる。
ポコポコと薄く浮き出た腹筋は撫でると硬かった。
「……結構硬いのね、不思議」
自分の身体との違いに素直に関心する。男女でこんなにも肌の質感は違うのだろうか。それだけじゃない、身体の構造だって未知だ。私は自分の指をルシウスの肌の上で滑らせるうちに、彼の顔に少し苦しげな表情が浮かぶのを見た。
「ルシウス…嫌だった?」
「いや、そうではなくて…」
恥ずかしそうに片手で顔を覆う姿を見て、私はハッとした。
目線を下げたその先に、テントを張ったように膨らんだ彼のズボンがあった。不自然に突出したそれを見て私は顔が熱くなるのを感じる。
「ご…ごめんなさい、何か、」
「違うんだ、シーア。すごく嬉しくて…」
「え?」
「君に触れられるのが嬉しくて、期待してる」
ルシウスは困ったように眉を寄せて私を見上げる。
その悩ましげな表情は私の心臓を縮めた。
「ルシウス、」
「気分を害してごめん。怖い思いをさせたね」
「違うの。私…もう婚約を破棄したわ」
「……そうだね…?」
「それって、貴方にもっと積極的に触れて良いってこと?」
ルシウスの喉がごくりと動く。
揺れる碧眼を見据えて、私は肌に口付けを落とした。
それはいつもルシウスが私にしてくれること。慈しむように、丁寧に。時折舌で舐めながら肌の上を移動していくと、苦しそうな顔から甘い声が溢れた。
「……ん…シーア、だめだ!」
「どうして?」
「結婚するまで、交わることは…」
「じゃあ、それ以外なら良いでしょう?」
「それ以外?」
「いつもヤラレっぱなしだったから、仕返しよ」
再び笑みを浮かべて、ルシウスの身体に向き直る。身も心も自由になった今、私はこの愛らしい大きな動物を好きにしたいという欲求に突き動かされていた。
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