上 下
20 / 76
第二章 エバートン家の別荘

20.五日目の興奮▼

しおりを挟む


 別荘での生活も少しずつパターン化して来た。

 午前中はルシウスと共に部屋で朝食を食べて、その後はお互い自由に読書をしたり書き物をしたり。昼食を挟んで少し散歩、そして各々の部屋で昼寝をするなどした後は夕食。

 昼寝といっても私が勝手に自分の時間を確保するために宣言しているだけで、ルシウスがその時間に自室で何をしているのかは知らない。

 一度、海で泳ぐことを提案してみたけれど、危険だからという理由で却下された。こんなに近い距離にあるのに手が届かないなんて、とても悲しい。本当に部屋から眺めるだけの絵画になってしまいそうだ。


「ねえ、ルシウス」
「うん?」

 読み掛けの本から顔を上げて聞き返す。

「何か私の家から連絡があったりした…?」
「今のところは特にないね。どうして?」
「いえ…そろそろ来ても良いかなと思って」
「……なるほど」

 私はもごもごと言い淀みながら目を逸らした。ロカルドの名前を出すとルシウスが気分を害するということは分かったし、いい加減私も学習した。

 もうすぐ別荘に来て一週間が経つし、ロカルドからの婚約破棄の書類は届いても良い頃だ。私が行った復讐によって、いくら彼が著しくプライドを傷付けられても、文句を言う相手が雲隠れしている現状では素直に受け入れてくれても良いはず。

 ルシウスから気持ちを向けられている今、私はモヤモヤするこの問題を早く片付けたいと思っていた。

「ロカルドからの書類が届いたら知らせるよ、安心して」
「ありがとう…助かるわ」

 にっこり笑って再び本に視線を戻すルシウスを見届けながら、息を吐く。考えないように努めていても、日に日に彼へ向く意識は高まっていくようだった。

 それが例の触れ合いのせいなのか、それとも同じ屋根の下で暮らす警戒心故なのかは分からない。



 ◇◇◇



「……っんん」
「綺麗…シーア、肌が吸い付くみたい」

 徐々に日常になりつつある別荘での生活の中でも、いつまで経っても慣れないのはこの時間。

 今日のルシウスからのリクエストはお腹で、私はリビングのソファの上でシャツを少し持ち上げて、柔らかい肉を撫でたり摘んだりする彼の所作を見守っていた。正直何が楽しいのか謎だ。

「どこまでが腹部に含まれる?」
「え?胸から下とおへそより上でしょう?」
「そうだよね。分かった」

 言うなり、下着の下ギリギリのラインまでシャツがたくし上げられる。

「ちょっと…!」

 ぴちゃ、とワザと音を響かせて舐め上げる意地悪なルシウスはかなり特殊な性癖をしているのではないかと心配になる。胸の下でシャツを押さえる彼の左手が、微妙に下着に触れているような気がするのも気になった。

 熱心に舌を這わすルシウスは思い出したように顔を上げる。

「シーア、今日はキスしてくれないの?」
「そんな毎日はしないわよ!」
「残念だな。少しだけで良いんだけど」

 落ち込んだように言われると私は弱い。
 少しだけ、という彼の言葉も後押しして遠慮がちに下から唇を押し当ててみた。不慣れなキスだと笑うだろうか。

「……これでいい?ルシウ、」

 最後まで言い終わらないうちに再び口を塞がれた。そんな程度では済まさないと言うように、何度も角度を変えながら口付けられる。

 酸素を求めて僅かに開いた唇の隙間から、器用に侵入してきた舌が歯列をなぞる。このまま噛み付けば冷静になって止めてくれるのでは、と愚かな考えが浮かんだけれど、実行する前に動きの鈍い私の舌は捕まった。

「…っん……はぁ、あ」

 シャツを掴んでいたはずのルシウスの左手がいつの間にか私の下着の上に乗っている。浮いたブラと素肌の間に滑り込みそうな指を恐れて、思わずペチンッと頬を叩く。

 驚いた顔でルシウスは動きを止めた。


「何してるの!?そこは範囲外よ…!」
「ごめん…シーアが可愛くて興奮して、つい」
「………っ」

 つい、で襲われたら笑いごとでは済まない。

「同居する以上、約束は守って!」
「シーア、」

 逃げるように部屋を飛び出した。一気に階段を駆け上がって自分の部屋へ転がり込むと鍵を掛ける。顔も身体も燃えるように熱い。

(どうしよう…どうしよう、私……)

 続きを望んでしまっている。
 ルシウスに触られるのを、待ってる自分が居る。

 自分の知らない感情と熱を持て余して、私は身体を抱き抱えるようにズルズルと床に崩れ落ちた。取り返しの付かないことになるのは、最早時間の問題に思われた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

男友達を家に入れたら催眠術とおもちゃで責められ調教されちゃう話

mian
恋愛
気づいたら両手両足を固定されている。 クリトリスにはローター、膣には20センチ弱はある薄ピンクの鉤型が入っている。 友達だと思ってたのに、催眠術をかけられ体が敏感になって容赦なく何度もイかされる。気づけば彼なしではイけない体に作り変えられる。SM調教物語。

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

亡くなった王太子妃

沙耶
恋愛
王妃の茶会で毒を盛られてしまった王太子妃。 侍女の証言、王太子妃の親友、溺愛していた妹。 王太子妃を愛していた王太子が、全てを気付いた時にはもう遅かった。 なぜなら彼女は死んでしまったのだから。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

王女の朝の身支度

sleepingangel02
恋愛
政略結婚で愛のない夫婦。夫の国王は,何人もの側室がいて,王女はないがしろ。それどころか,王女担当まで用意する始末。さて,その行方は?

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

処理中です...