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第二章 エバートン家の別荘
20.五日目の興奮▼
しおりを挟む別荘での生活も少しずつパターン化して来た。
午前中はルシウスと共に部屋で朝食を食べて、その後はお互い自由に読書をしたり書き物をしたり。昼食を挟んで少し散歩、そして各々の部屋で昼寝をするなどした後は夕食。
昼寝といっても私が勝手に自分の時間を確保するために宣言しているだけで、ルシウスがその時間に自室で何をしているのかは知らない。
一度、海で泳ぐことを提案してみたけれど、危険だからという理由で却下された。こんなに近い距離にあるのに手が届かないなんて、とても悲しい。本当に部屋から眺めるだけの絵画になってしまいそうだ。
「ねえ、ルシウス」
「うん?」
読み掛けの本から顔を上げて聞き返す。
「何か私の家から連絡があったりした…?」
「今のところは特にないね。どうして?」
「いえ…そろそろ来ても良いかなと思って」
「……なるほど」
私はもごもごと言い淀みながら目を逸らした。ロカルドの名前を出すとルシウスが気分を害するということは分かったし、いい加減私も学習した。
もうすぐ別荘に来て一週間が経つし、ロカルドからの婚約破棄の書類は届いても良い頃だ。私が行った復讐によって、いくら彼が著しくプライドを傷付けられても、文句を言う相手が雲隠れしている現状では素直に受け入れてくれても良いはず。
ルシウスから気持ちを向けられている今、私はモヤモヤするこの問題を早く片付けたいと思っていた。
「ロカルドからの書類が届いたら知らせるよ、安心して」
「ありがとう…助かるわ」
にっこり笑って再び本に視線を戻すルシウスを見届けながら、息を吐く。考えないように努めていても、日に日に彼へ向く意識は高まっていくようだった。
それが例の触れ合いのせいなのか、それとも同じ屋根の下で暮らす警戒心故なのかは分からない。
◇◇◇
「……っんん」
「綺麗…シーア、肌が吸い付くみたい」
徐々に日常になりつつある別荘での生活の中でも、いつまで経っても慣れないのはこの時間。
今日のルシウスからのリクエストはお腹で、私はリビングのソファの上でシャツを少し持ち上げて、柔らかい肉を撫でたり摘んだりする彼の所作を見守っていた。正直何が楽しいのか謎だ。
「どこまでが腹部に含まれる?」
「え?胸から下とおへそより上でしょう?」
「そうだよね。分かった」
言うなり、下着の下ギリギリのラインまでシャツがたくし上げられる。
「ちょっと…!」
ぴちゃ、とワザと音を響かせて舐め上げる意地悪なルシウスはかなり特殊な性癖をしているのではないかと心配になる。胸の下でシャツを押さえる彼の左手が、微妙に下着に触れているような気がするのも気になった。
熱心に舌を這わすルシウスは思い出したように顔を上げる。
「シーア、今日はキスしてくれないの?」
「そんな毎日はしないわよ!」
「残念だな。少しだけで良いんだけど」
落ち込んだように言われると私は弱い。
少しだけ、という彼の言葉も後押しして遠慮がちに下から唇を押し当ててみた。不慣れなキスだと笑うだろうか。
「……これでいい?ルシウ、」
最後まで言い終わらないうちに再び口を塞がれた。そんな程度では済まさないと言うように、何度も角度を変えながら口付けられる。
酸素を求めて僅かに開いた唇の隙間から、器用に侵入してきた舌が歯列をなぞる。このまま噛み付けば冷静になって止めてくれるのでは、と愚かな考えが浮かんだけれど、実行する前に動きの鈍い私の舌は捕まった。
「…っん……はぁ、あ」
シャツを掴んでいたはずのルシウスの左手がいつの間にか私の下着の上に乗っている。浮いたブラと素肌の間に滑り込みそうな指を恐れて、思わずペチンッと頬を叩く。
驚いた顔でルシウスは動きを止めた。
「何してるの!?そこは範囲外よ…!」
「ごめん…シーアが可愛くて興奮して、つい」
「………っ」
つい、で襲われたら笑いごとでは済まない。
「同居する以上、約束は守って!」
「シーア、」
逃げるように部屋を飛び出した。一気に階段を駆け上がって自分の部屋へ転がり込むと鍵を掛ける。顔も身体も燃えるように熱い。
(どうしよう…どうしよう、私……)
続きを望んでしまっている。
ルシウスに触られるのを、待ってる自分が居る。
自分の知らない感情と熱を持て余して、私は身体を抱き抱えるようにズルズルと床に崩れ落ちた。取り返しの付かないことになるのは、最早時間の問題に思われた。
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