【完結】初夜をすっぽかされたので私の好きにさせていただきます

おのまとぺ

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第一章 カプレット家の令嬢

08.手取り足取りお忍び▼

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 とは言ったものの。

 私とルシウスがベッドにインしてそのような行為を行っては、ロカルドとマリアンヌと同罪だ。考えた末に苦し紛れの策として、お互いソファに並んで座って、実物は見ないように下着の上からルシウスに触らせてもらうことにした。

「なんだか緊張するね。いけないことしてるみたいだ」
「……そういうこと言わないで、気が散るから」

 本音を言うと気は散漫だった。私はバックンバックン跳ね上がる心臓を持て余していたし、復讐のためとは言えどロカルド以外の男に触れることは躊躇われた。

 それにしても、嫌がるそぶりもなく文字通り一肌脱ぐルシウスもいったい如何なものだろう。彼には恥じらいというものがないのか、カチャカチャと目の前でベルトを外して少しズボンを下げると私の隣に腰を下ろした。

「お手柔らかに頼むよ」
「ええ…こちらこそ」

 私はそっと自分の手をルシウスの下着の上に置く。薄い布越しに温かな生き物のような動きを感じた。

「ピクピクしてる……」
「ね、シーアにもっと触ってって言ってるみたい」
「……っ、そういうの止めてってば!」
「ごめん。でも本当、もう少し強く握って」

 大きな手が私の手の上に重なる。握り締めると嫌でもその輪郭ははっきりとイメージ出来て、昨日の姉たちの話も相まって私は頭が爆発しそうだった。

 ロカルドとは口付けすらしていない。
 私の三年間はいったいなんだったのか。初夜の儀にすべての階段を登り切ることが出来ると思っていたのに、現実はすっぽかしをくらい相手は他所の令嬢と懇ろな関係。

「……シーア、泣いてるの?」

 私は押さえ込まれていた手を抜いて咄嗟に顔を覆った。

「いいえ…目にゴミが入ったの」
「見せて。取ってあげる」
「結構よ、触らないで」

 睨み付ける目に浮かぶ涙に彼は気付いたはずだ。ルシウスは少しだけ驚いた顔をして伸ばしかけた手を引っ込めた。

 ゴシゴシとブラウスの袖で目元を擦る。
 惨めな令嬢シーア・カプレット。不貞を働いた婚約者に仕返しをするために、彼の友達と練習するなんて馬鹿げた話。

 でも、私は決めたのだ。
 他人に嗤われようとも、理解されなくても、私は私のやり方でロカルドに仕返しをする。男に夢見た大人しい乙女から、その身体を踏み付けて屈辱を与える悪女になる。

「……舐めれば良いんでしょう?」
「いや、そこまでは…」

 ルシウスは少し焦ったように言葉を濁す。私はジルのレクチャーを思い出しながら、再びルシウスの下着の上から大きさを増した彼自身に手を添えた。そのまま上下に動かすと、冷静だったルシウスの顔が興奮に歪む。

「……ッ、シーア!」

 下着の中に手を差し入れて僅かに震える肉棒を外に出してやる。先端が少しヌルッとしていて気持ち悪い。私は顔を顰めつつ、浮き出た血管をなぞるように舌を這わせてみた。

 瞬間、堪えきれないようにルシウスの手が私の頭を押さえた。それが制止の意味か、もっと続けろという悦びか分からずに私は唇を離す。

「なに?」
「君の本気は分かった…続きはロカルドにやってくれ」
「あら、残念。情けなく果てる貴方の顔が見たかったのに」
「言ってくれるね、気軽に申し出るんじゃなかった」

 ルシウスはバツが悪そうにそう言うと、お手洗いに行くと席を立った。お手洗いで何をするかまで聞かないのは私の優しさと受け取ってほしい。

 長い溜め息を吐く。
 何をやっているんだろう、と虚しくなるのは無しだ。私はロカルドに何を望んでいるのか。謝罪?本音?偽善の愛?

 部屋に戻ったルシウスは放心状態の私を一目見て「どうやら君に教えることはないようだ」と呟く。私はカプレット家の姉たちの優秀さに改めて感心しながら、苦笑した。


「いつ実行するの?」
「さあ、どうだろう。ロカルドの気分次第だから」
「屈辱的だわ。彼の気分が盛り上がるのを待つなんて」

 目を閉じて大きく伸びをする。

「明日には落ち合うと思うけどね」
「じゃあ、姉たちに頼んでとびっきり美人に仕上げてもらわなきゃね。彼ったら見違えるかも」
「君は今でも十分な美人だよ」
「……ありがとう、でもキスはしないで」

 いつの間にか背後に立ったルシウスは怯んだように身を引く。驚いた顔を見るにどうやら図星だったようで、中途半端に差し出した手と私の顔を交互に見て、諦めたようにルシウスは笑った。

「高嶺の花は触れるのが難しいね」
「ロカルドともしたことがないの」
「意外だな、本当?」
「ええ。初めては好きな人が良いから」

 ごめんなさい、と頭を下げる。
 ルシウスの瞳が少し揺れたような気がしたけれど、私はすでに明日実行されるであろう計画のことを考えていて、その僅かな変化に気付く余裕などなかった。


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