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第二章 傾城傾国
第五十話 種明かしです
しおりを挟む私は自分の目を疑った。
閻魔の並べた木札の数は六枚。
もしも、サイコロの目が奇数だった場合に彼はすべての札を失ってしまうことになる。そうなったらもう御影の勝ち。私たちに再選の余地はない。
勝負に出るということなのだろうか。
私は冷や汗が背中を流れ落ちるのを感じた。
カランカランと椀を振る。先ほどより長く振ってしまうのはどうにも心構えが出来ないからで、開いた先の目がもしも奇数だったらやはり絶望してしまうだろう。
「それでは……開きます!」
勢いよく地面に叩き付けた椀の中でサイコロが転がる気配がした。もう結果は出ている。
私はドキドキしながら椀を上へと持ち上げた。
サイコロの目はどちらも一。
「………偶数です!ピンゾロの丁!」
歓喜して舞い上がる私の前で、閻魔はただ静かに御影の様子を見守っていた。極楽を管轄する白髪の若き長は、ただ微動だにせず二つのサイコロを見つめている。
「どうした?思ってた結果と違ったか?」
「え?」
閻魔の言葉に戸惑う私の視線の先で、御影はふらりと立ち上がる。
「……いいや、驚いただけだよ。運は操れないね」
「馬鹿言え。イカサマだろう?」
「イカサマ…!?」
思わず大きな声を上げてしまう。
向かい合う二人はあくまでも表情を崩さない。
サイコロを振っていたのはずっと私。イカサマする隙など正直言ってまったくないので、難癖なのではないかと心配になってしまう。御影も笑みを湛えたままで「酷い言い掛かりだなぁ」と残念そうに溢した。
「僕はずっと君の目の前に居たんだ。椀の中を覗き見ることなんて出来やしない」
「そうだな。だが、例えばの話……もしもお前以外の協力者が居たら?」
「どういう意味かな?君には僕の目に見えないようなイマジナリーフレンドでも見えると言いたいの?」
笑っちゃうよ、と御影は手を広げて訴える。
「第一、僕は誰からも情報なんか受け取っていないじゃないか。いくら勝負に勝てたとしても、イチャモンを並べるのは格好悪くないかい?」
「受け取る必要はないだろうな。きっと相手はお前の賭けた方にサイコロの目を合わせるだけだ」
「………証拠もないのに、」
「この周辺の土、他の場所に比べて随分と新しいように見える。美しい草木が茂る極楽においては不思議なことだが、雑草一つ生えていない」
閻魔の指がトントンと地面を突つく。
確かに、砂利こそあるもの草花は見当たらない。
「土の下には何があるのか……おそらく磁力を通すガラスの類でも挟んでんだろう。下に居たのは酔妃か?木札を置く際に少し圧を掛けてみたが、簡単に気絶してくれたようだ」
「……っは、名探偵気取りか?」
「妄言か真実かは確認すれば分かる。サイコロ同士がどうやってくっつかないようにしていたのか気になるところだ。小春、貸してみろ」
「あ、はい……!」
しかし、私が閻魔に渡そうとした二つのサイコロは彼の手に渡った瞬間、あっという間に青い炎に包まれた。一瞬にして消えた炎の後にはもう何も残っていない。
「……悪いね。手品の種明かしは好きじゃないんだ」
「それは認めるってことだな?」
御影は目を閉じて首を横に倒す。
しばらく考える素振りを見せたあとで「付いて来て」と言って歩き出した。慣れた様子で温泉の暖簾を潜って中へと入って行く。
閻魔を見上げると、黙って手を差し出されたので、私は大人しくその手を取って足を踏み出す。これでやっと黒両の願いが叶うのだ、と思うと緊張が走った。頭の中では与作に伝えるべき言葉がいくつも浮かんでは消えていった。
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