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第二章 傾城傾国
第四十九話 丁半です
しおりを挟む「───って流れなんだけど、出来そう?」
私は御影の言葉にこくりと頷く。
賭博のルールを一通り説明してくれた御影は、満足そうに笑った。
丁半賭博とはつまり、壺振りという役目の人が椀の中に仕込んで振った二つのサイコロの目の和が、偶数か奇数かを当てるゲームらしい。プレイヤーは丁と半のいずれかを選択して「偶数なら丁の勝ち、奇数なら半の勝ち」となる。プレイヤーには事前に木札が配られており、負けた方が勝った方に勝者が掛けていた枚数分の木札を渡すとのこと。
君と遊びのは久しぶりだなぁ、と嬉しそうに御影は十枚の小さな木札を閻魔に差し出す。ちょうど銭湯なんかにある靴箱の鍵のような木札は、真っ黒に塗られていた。
私は赤い椀を手に、二人の様子を眺める。
無事に仕切れるか心配なのだ。
「先ずはお互い一枚でいこうか?いきなり飛ばしすぎても後が楽しくないからね。三回勝負で良い?」
「ああ、問題ない」
「じゃあ……小春ちゃん、宜しくね」
こちらを窺う御影に頷き、私は椀の中にサイコロを入れた。
何度か振って逆さを向けて地面に椀を振り下ろす。
「さぁ、張った!張った!」
恥を忍んで声を掛けると、左手に閻魔が一枚、右手に御影が一枚の木札を並べた。
たしか私を挟んで左側が丁で右側が半だったはずだから、閻魔が偶数に、御影が奇数に掛けたことになる。なにぶん地面の上に直置きでやっているので、椀を開くときに中のサイコロに触れることがないように神経を使った。
「開きます!………えっと、五と二ってことは……」
中のサイコロの目は五と二。
足したら七になってしまうので奇数だ。
「五二の半だね。はーい、残念。没収~」
御影は二枚に増えた木札を手に、にこりと笑う。
私は途端に不安になってきた。
こんなもの完全に運ゲーだ。このゲームに勝たなければ与作に会わせてくれないなんて、かなり難しい話なのでは。現に閻魔は出だしから負けているし、ここは極楽なのだから御影が彼の良いようにインチキをしている可能性だってある。
(本当にこんな方法で大丈夫なの……?)
内心ドキドキしながら閻魔を見つめていたら、どういうわけかシッシというように手を振られた。集中力が逸れるとでも言いたいのだろうか。相変わらず失礼な男だ。
しかし、続いての二回戦も閻魔は二枚の札を半に賭けて負けたため、三枚を賭けた御影から木札三枚を取り上げられてしまった。今や御影の元には合計十四枚の木札があることになる。対する我が冥王の元にはたったの六枚。
最終的に手元にある木札の合計数で勝敗を決めるとは聞いたけれど、ここからの一発逆転が起こる可能性を考えると不安になる。今まで勝っている御影がリスクを取って勝負に出るとも考え難いし、閻魔は同点を狙って四枚賭けをするのが無難な気がする。同点まで持ち込めば、再戦が可能になるからだ。
「……さぁ、お二方…最後の勝負となります。丁か半か…張った、張った!」
椀の中でコロコロとサイコロが転がる音がする。
私は願いを込めて地面に椀を押し付けた。
御影がスッと手を差し出して半側に三枚の木札を並べた後、閻魔はゆらりと立ち上がって丁の側へ回った。懐から取り出した木札を一枚ずつ並べていくのを見守る。
「え?……閻魔様?」
綺麗に並んだ黒い木札の枚数は六枚。
見上げた先で冥王は少しだけ笑ったように見えた。
◆お知らせ
丁半賭博のルールに誤りがあったらごめんなさい。冥界ルールが混入していると思っていただければ…
恋愛大賞が始まったのでそれに伴って新作を二本ほどアップしています。こちらは不定期にはなりますが続けていきたいと思うので、生温かく見守っていただければ幸いです。キャラ文芸での応援ありがとうございました!
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