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第二章 傾城傾国
第四十六話 白銀です
しおりを挟む「なるほど、それで人探しのために極楽まで来たってわけね」
ふんふんと頷く屋島を眺める。
頭の上には丸い耳を生やし、明るい橙色の髪は耳の下で二つに縛られている。おしりには尻尾でも生えているのか着物がモコッと盛り上がっていた。私の視線に気付いたのか狸のあやかしは軽く笑う。
「ああ、これね。ここではみんな本当の姿にされちゃうからさ。尻尾も耳も隠せないってわけ」
「三叉さんは猫耳が生えてないですけど…?」
「極楽は別なんだよ。ていうか、あの化け猫まだ生きてたんだーほんとしぶといね」
サラッと悪意を滲ませる屋島を見つつ、私は与作のこと聞くか悩んでいた。だけどここで彼女に聞くことを躊躇したとして、他に頼れる人が居るわけでもない。
意を決して屋島に向き直る、
不思議そうに首を傾げる黄色い瞳を見据えた。
「あの、与作さんって人を知りませんか?」
「……与作?」
「極楽に居ると聞いたんです。温泉で働いているらしいんですが、お知り合いではないですか?」
「知ってるも何も───」
そこでハッとしたように屋島は立ち上がった。
そのまま驚いたように目を見開き、微動だにしない彼女が心配になったので、私はその視線の先を追って振り返る。俄かに強くなった風が青葉を揺らす音が大きく聞こえた。
そこには、純白の着物に身を包んだ綺麗な男が立っていた。
まだ随分と若そうに見える。色白の男が白い衣類を身に付けると境界線が分からなくなって、目を凝らさなければ表情までは見えない。
ゆっくりと近付いて来た男が片手を上げた。
「………っあ、」
その瞬間、隣に立っていた屋島が小さく声を出して倒れる。驚いて見下ろすと先ほどまで元気いっぱいだった狸のあやかしは、丸くなって目を閉じていた。慌てて身体を揺するもビクともしない。
私は恐ろしくなってその男を見た。
誰だか知らないけれど、危険であることは確か。
絹のように艶めく白い髪が風に攫われて、近づいて来る男の目が私を捉えた。雪景色のような白銀の中で唯一色を持つ赤い瞳が細められる。
「やっぱり君は僕の元に戻って来る運命なんだ」
「………?」
「お天道様の裁きは変えられない。そうだろう?」
「あなた…誰ですか?」
男はニコッと口角を上げて微笑んだ。
「僕は御影。ようこそ、極楽へ」
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