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第一章 合縁奇縁
第十六話 初恋との再会です
しおりを挟むあのど畜生サディステック上司め。
ちょっと顔が良くて、ちょっと女を囲ってるからって偉そうに圧力掛けて来やがって。手も足も出さないってべつに出してほしいわけじゃないけど、それならば何でそもそも冥婚なんてさせるの。
腹が立って投げた枕が壁に当たって落下した。
来たるべき大晦日を穏やかに迎えるために早めに冥界に行って今日の分の労働を済ませたのに、ストレスを溜め込んでしまって完全に自分はマイナスだ。
気持ちよく新年を迎えたいのに。
無性に腹がたって堪らない。
このまま家に居ても気分は晴れそうにないので、完全にフライングだけど神社に行ってみることにした。夜中に一人でそそくさと出掛けるのは無理だし、散歩がてら。
(うぅ……寒い)
大寒波到来とは言っていたけど、ここまでとは。
ダウンを着ていても足元から忍び込んでくる冷気にブルッと身体を震わせる。帰り道にスーパーへ寄ってお汁粉か葛湯でも買って帰ろうか。セルフ甘酒で年越しを迎えるのも良いかもしれない。
もう夜に近付きつつある空には、気の早い一番星が輝いている。上を見て歩いていたら、向こうからこちらを呼ぶ声があった。
「一条!」
新鮮な苗字呼びに驚いて目を凝らす。
走って来るその姿に私は驚いて叫んだ。
「圭くん!?」
畠中圭、通称圭くんは私の小学校の同級生だ。
なにぶん田舎の学校なので小学校時代は家が同じ方面ということもあって関わりがあったけれど、中学で離れてからは関係は途絶えて、社会人の今となっては記憶の遥かに沈んでいた。
ハッとして自分の格好を見下ろす。
完全なる家ジャージに色気のない黒のダウン。
近所だからといって気を抜いて出て来た自分をこの時ほど恨んだことはない。何を隠そう、圭くんは私の初恋の相手だったのだ。
「一条、変わってないね!すぐ分かった」
「そうかな?恥ずかしい、すごい適当な格好で…」
「ううん。防寒性が一番大事だよ、俺も下にめっちゃ着込んでる。今日の寒さはヤバイもん」
気抜いたら睫毛凍りそう、と笑ってみせる彼の、変わらない温かな笑顔にホッとした。
「あのさ、実はオレ…電話したんだよね」
「電話?」
「友達に一条がこっち帰って来てるって聞いて、なんか気になっちゃって。予定無いから友達誘ってたんだろう?」
「………あ、」
私は何日か前に掛かってきていた知らない番号からの着信を思い出す。あの時は不審に思って出なかったけれど、あれは彼からの連絡だったということ。
というか、私が暇そうという話がここまで回っていると思うと恥ずかしい。帰省して予定がない余り、知り合いに電話を掛けまくる寂しい奴。
「ごめん、知らない番号だったから……」
「いやいやオレが悪いんよ!めっちゃ怪しいもんね、逆の立場だったら絶対に出ないから分かる」
「それで御用件は……?」
「えっと…まだ予定ないなら、一緒に初詣行かない?」
捨てる閻魔あれば、拾う旧友あり。
私は嬉しさが漏れ出ないように出来るだけクールな顔で了承をしてその場を去った。なんと家まで車で迎えに来てくれるという優しさに涙が出そう。
よかった。
早めに冥界の仕事済ませといて、本当によかった。
帰り道でスーパーに酔って、私はお汁粉と葛湯と甘酒を買った。ついでにドラッグストアで新しい口紅も買った。べつに浮かれているわけではなくて、帰宅して出来る限りベストな自分に仕上げるためのアイテムとして。
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