14 / 53
第一章 合縁奇縁
第十三話 解読します
しおりを挟む「こ……こい……?」
「青鬼さん、小春が誤解しちまう」
氷の如く固まった私を青鬼がしばいた。
どうやら冗談のようで、私は緊張を解く。
思わずビックリしてしまった。
冥殿にあれだけ美女を囲う閻魔だから、もしかすると男色の趣味もあって、三叉と閻魔が実はそういう間柄だったとしても違和感はない。むしろなんか有り得そう。ワイルドで俺様気質な閻魔としなりとして線が細そうな三叉なら立ち絵的にもお似合いで……
「なに考えてニヤついてるの?」
「ごめんなさい」
小首を傾げる三叉にすぐ謝罪する。
貴方たちボーイズがラブする展開ですとは言えまい。
「三叉さんも年末は冥殿へ行かれるのですか?」
「んー、そうだねぇ。まぁ恒例だし」
「結構大規模なんですね」
「そりゃあ一年の締め括りだもの」
人間界と同じように冥界も時間が流れているというのは、なんとも不思議な感覚だった。たしかにこっちで過ごしすぎると、元の世界へ帰ったときには随分と時間が経っている。閻魔が契約時に二十四時間という縛りを付けたことからして、時間が流れるスピードは同じなのだろう。
と、そんなことを考えているうちに契約書のことを思い出した。私は持ち出した契約内容を八角に確認する必要があるのだ。昨日から私が持っているけど、何も閻魔は言って来ないから気付かれていないはず。あの机の汚さだと、ずっと私が持っていてもバレっこないのでは、と思う。
「あの、今日って冥殿に行かないの?」
コソッと黄鬼に聞いてみると、受け取った酒はこのまま冥殿へ運ぶので搬入後に少し寄るぐらいなら良い、と言われる。
私は八角に話があるから厨房に出向くことを前もって黄鬼に伝えておいた。心許せる知り合いが少ない冥界において八角との会話が癒しになっているのは本当。
バカでかい酒樽から何かの果実酒の瓶に至るまで多種多様な酒をリヤカーに運び込んで、私たちは三叉の元を出発した。閻魔との関係が深そうな彼に話を聞いてみたい気もしたけれど、人の話を聞くということは同時に自分を知られることも意味する。出会ったばかりの三叉の性格はまだ掴み切れていないから、そこまでの勇気は出なかった。
重たい酒類を引っ張ってなんとか冥殿に辿り着いた時には、身体が石化したのではないかと疑うぐらい疲弊していた。
「ほいじゃ小春、あとはやっておくよ」
「ありがとうございます!」
「八角さんに宜しくなー」
グッと親指を立てて了承を示したら、私は一目散に厨房を目指す。
広い冥殿と言えども、さすがに厨房や中庭といった何度か行ったことがある場所はもう覚えた。味噌の溶け出す良い匂いにクンクン鼻を動かしていたら、忙しなく働く八角を発見した。
「八角さん!」
「ンまぁ、小春ちゃん~!」
両手を広げて駆け寄ってくれるから、有り難く抱擁を受け入れる。話し方も雰囲気も乙女な八角は、力加減だけは上手く調整出来ないようで私は背骨が軋む嫌な音を聞いた。
「んぐっ……!」
「あ、ごめんごめん!」
慌てて身体を離す八角に、閻魔の部屋から奪った契約書を差し出す。ペラッとした半紙に細筆で書かれたその文字の羅列を、八角は真剣な顔で追う。
五分ほどが経過しただろうか。
まだ顔を上げない八角に少し私は心配になってきた。もしかして、とんでもない条件が隠されているとか?もしくは書き換えるべき部分まで彼は検討してくれているのだろうか。
火にかけた鍋がグツグツと沸騰し、蓋が外れそうになっているのを見て、やっと八角は顔を上げた。片手に契約書を握ったままで火を止める後ろ姿を見つめる。
「………小春ちゃん…これ、」
「はい……?」
「なんて書いてあるか読めないわ」
「え?」
ペロッと舌を出しながら「ごめんね」と謝る八角から契約書を受け取る。そんな阿呆な、と思わずツッコミを入れそうになってしまった。
「閻魔様の字って独特なのよねぇ。鈴白様だったら読めるかもしれないし、よかったら行ってみる?」
「あ……お願いします!」
親切な提案に頷いて、私たちは二人で厨房を後にした。
10
お気に入りに追加
41
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)
青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。
だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。
けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。
「なぜですか?」
「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」
イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの?
これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない)
因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

お飾り王妃の死後~王の後悔~
ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。
王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。
ウィルベルト王国では周知の事実だった。
しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。
最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。
小説家になろう様にも投稿しています。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる