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第一章 合縁奇縁
第六話 あやかしを知ります
しおりを挟む「うん……まぁ、だいたい掃除も終わったよ。あとは要らない物を処分して、お墓の周り綺麗にしようかなって」
助かるわぁ、といういつもの母の言葉に適当に相槌を打って電話を切り上げた。
言えない。毎日冥界に行って閻魔と鬼たちの雑用を手伝っているなんて口が裂けても言えない。だけど、冥界に行くのを怠れば、それこそ口が裂ける危機!
時計に目をやると既に四時。
おやつを食べて暗くなるまでには冥界へ行くようにしていたけれど、今日はダラダラしていたら遅くなってしまった。なんだかんだで五日目となった今日、冥界通いが習慣化していることに気付いて焦る。
昨日もまた黄鬼と一緒だったけれど、閻魔から何か酷く懲らしめられたのか、極力私との会話を避けているようだった。
鬼たちはどうやら三兄弟のようで、最初に会った赤鬼とお喋りな黄鬼以外に、青鬼というものが存在する。三日目に私に仕事を教えた青鬼は意外にも無口で、クールだった。もちろん半裸パンツなんだけども。
(そろそろ行くかなぁ……)
家の鍵は閉めたし、火元も消したし。
私が居ない間もしっかりこっちの時間は流れているから、留守中に何かあってはいけない。黄鬼と冥殿に行った日なんかは長居し過ぎたのか、戻ってきたらもう夜中だった。
冥界は今日もドンチャラ騒ぎで明るい。
太陽も出ていないのにどうやって植物が育つのか謎だけど、鬼たちによると冥殿ではそれはそれは美味しいご馳走様が出て来るらしいから、どこかから仕入れているのだろうか。
(まさか……人肉食べたりしないよね?)
恐ろしい可能性が浮かんだので頭を振って打ち消した。鬼たちはともかく、冥殿で働いていた料理人の八角や、時たま目にする通行人は人間のようだ。人間の彼らが人間を食するわけもないし、失礼な想像は止そう。
「よーっす!」
「おお!お久しぶりですね、黄鬼さん」
「お前のせいでえらい目にあったからなぁ……」
「その節はごめんごめん。今日は黄鬼さんと?」
「うん。なんか赤鬼と青鬼は閻魔様と極楽に行っちまった、仕事があるとかで」
極楽とはつまり、極楽浄土のことだろうか。
選ばれた者のみが迎え入れられるその楽園を見てみたい気がするけれど、先ずは目の前の地獄行きをなんとかするために私は今日も雑用をこなさねば。
黄鬼に付いて歩きながら、なんてことない話を続ける。私が与えた歯ブラシを彼はかなり気に入ってくれたようで「歯茎への当たりが優しい」と嬉しそうに感想を述べた。
「ごめんね、お節介かなと思ったんだけど……」
思い出すのは以前見かけた黄鬼の歯ブラシ。
歯を磨くためのものとは思えない、なんとも凄まじい悪臭を放っていたそれを見て恐怖を抱き、翌日すぐに歯ブラシを買って青鬼に黄鬼へ渡すように託けた。
人間界から冥界へは人の移動も出来るけど、物の移動も出来るらしい。こうやって色々と新しい発見をするのは素直に楽しいことで。
「そういえば…閻魔様や黄鬼さんたちも人間界へ来れるんですか?」
「いんや、俺たち鬼やあやかしなんかは、異物だから人間の世界へは入れないんだ」
「あやかしって…化け物みたいなやつ?」
「あやかしはー、ほら…あの、猫又とか天狗なんかの」
「ああ。妖怪ですね」
頭の中で単眼の裸オヤジをイメージしながら相槌を打つ。
「昔は行き来出来たらしいんだが、今じゃ人間界もどんどん発展してるだろう?化け物なんて子供でも信じねーし、行き場を失くしたあやかし達を閻魔様が冥界で受け入れてんだ」
「へぇ……」
意外と良いところもあるんだな、と驚いた。
黄鬼曰くそうしたあやかし達は冥界で雇われて、鬼たち同様に働いているらしい。居場所を提供する代わりに労働力として貢献しているその関係性を知って、あやかしとしての本領を発揮できない彼らが少し気の毒になった。
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