契約違反です、閻魔様!

おのまとぺ

文字の大きさ
上 下
5 / 53
第一章 合縁奇縁

第四話 説明を受けます

しおりを挟む


「んっと、何から説明すれば良いかなー」

 目の前で頭を掻きながら考える青鬼は、言ってはいけないけれど滅茶苦茶ポンコツそう。彼を懐柔すればもしかすると閻魔の弱点なりを握って、契約を解くことが出来るのではないかと悪いことを期待してしまう。

「名前は小春だっけ?」
「はい。一条小春です」
「あ、苗字とかここでは要らないからねー。なんか人間ってみんな長い名前付けたがるけどさ、あれ転記するの超面倒なんだよ」
「転記……?」
「そうそう。一応冥界では死んだ人間の情報を調査して取りまとめたりしてるんだけど、名前が長過ぎると手が疲れちゃう。しかも、あの、苗字って言うの同じヤツ多過ぎない?」
「あ…田中とか佐藤とか?」
「それー!同じ苗字のくせに親族じゃ無かったりするし、マジで面倒なんよ。良い加減にしてほしいし」

 鬼が人間の苗字に愚痴を仰っている。
 なんとも奇妙な光景に、適当に相槌を打ちつつ歩く。

 黄鬼はお喋りが好きなようで、その後も人間界の最近の流行りや年間の死者の推移などについて語って聞かせてくれた。私は肝心の閻魔の弱点を聞き出したかったのだけど、話題を振る前に目的地に到着してしまった。


「ここ、新しい仕事場ね」
「え……ここですか?」

 年季が入った建物はどう見てもボロアパートで、ところどころに走るヒビが限界を知らせているようで恐ろしい。アパートの入り口にはこれまた頼りない文字で「餓鬼荘」と書いてあった。

「青鬼と赤鬼は今出払ってるから、今日は僕が君のお世話をするよ。こういうの先輩って言うんだろ?」
「………ですね」

 ニカッと笑う黄鬼の歯はパッと見た感じ汚い。
 私はこの無駄に明るくて鬼にしてはおそらく善人であろう彼の口内状況が心配になってしまった。

 その後、一通りの作業の流れを教えてもらって、私はなんとか一人で仕事が出来るようになった。

 与えられた内容は書類の整理だ。
 書類の整理にとどまらず、部屋の掃除もしてあげたくなったけれど、流石に出過ぎた真似をすべきではない。隣の部屋で作業するという黄鬼に別れを告げて、私は黙々と書類を分類していく。

 八つ用意された箱に、それぞれの箱の名前が書かれた紙を入れていくだけの簡単な仕事だったけれど、その名前というのが「無間地獄」や「焦熱」といった閻魔から聞いた地獄の名前と完全一致していたので震えた。

 おそらく彼はこれに従って、落ちてきた罪人たちを裁いていくのだろう。


(結構すぐ終わっちゃったな……)

 一人で誰とも喋らずに作業したせいか、ものの三十分も経たずに分類は終わった。

 隣で作業しているという黄鬼に声を掛けるべく、ドアを開けようとしたところ、中から漏れ出る音が耳に入った。


「……あん……んっ……」

 はぁ?
 この鬼男は後輩の私に作業を押し付けて、自分は女を連れ込んでお楽しみということ?

 このまま彼のお楽しみが終わるのを待つのも無様なので、私は勢いよく扉を開けて部屋に突入する。と、同時に大きなスクリーンにドアップで映る男女の絡みを見て固まった。

「ひゃっ!お前入って来る時はノックしてくれ!」

 慌てて停止ボタンを押すから画面の中で抱き合う二人の顔をマジマジと見てしまう。

「これ……閻魔様?」
「ひょー!お前コラ言うなよ!言うなよ!?こんなんバレたら俺は舌抜くだけじゃなくて、口から内臓全部掻き出されちまうから!言うなよ……!?」

 必死の形相で私に迫り来る黄鬼に、とりあえずパンツを履くように指示を出す。カーテンに隠れてせこせことトラ柄パンツを履いた黄鬼が戻って来る頃には、だいぶ私の心も落ち着いていた。

 画面の中の男女は閻魔様と、誰か若い女。
 冥界の王は脱いだらこんなにマッチョなのかとしげしげと眺めていたら、黄鬼はブチッとモニターのスイッチを切った。

「違うんだ、これはべつに閻魔様の寝室を隠し撮りしたわけではない!ただ、人間界から落ちてきた機械の使い方を知りたくて…!それで……!」
「バッチリ使いこなせてますね」
「お願い!言わないで!何でもするから…!」
「何でも………?」

 近付くと、ヒッと黄鬼が息を呑む。


「私、知りたいことがあるんですよね」

 壁際まで下がる鬼の隣に手を突いてみた。
 求めていた閻魔の弱点は思ったより簡単に手に入りそうだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)

青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。 だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。 けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。 「なぜですか?」 「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」 イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの? これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない) 因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

処理中です...