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第一章 合縁奇縁
第四話 説明を受けます
しおりを挟む「んっと、何から説明すれば良いかなー」
目の前で頭を掻きながら考える青鬼は、言ってはいけないけれど滅茶苦茶ポンコツそう。彼を懐柔すればもしかすると閻魔の弱点なりを握って、契約を解くことが出来るのではないかと悪いことを期待してしまう。
「名前は小春だっけ?」
「はい。一条小春です」
「あ、苗字とかここでは要らないからねー。なんか人間ってみんな長い名前付けたがるけどさ、あれ転記するの超面倒なんだよ」
「転記……?」
「そうそう。一応冥界では死んだ人間の情報を調査して取りまとめたりしてるんだけど、名前が長過ぎると手が疲れちゃう。しかも、あの、苗字って言うの同じヤツ多過ぎない?」
「あ…田中とか佐藤とか?」
「それー!同じ苗字のくせに親族じゃ無かったりするし、マジで面倒なんよ。良い加減にしてほしいし」
鬼が人間の苗字に愚痴を仰っている。
なんとも奇妙な光景に、適当に相槌を打ちつつ歩く。
黄鬼はお喋りが好きなようで、その後も人間界の最近の流行りや年間の死者の推移などについて語って聞かせてくれた。私は肝心の閻魔の弱点を聞き出したかったのだけど、話題を振る前に目的地に到着してしまった。
「ここ、新しい仕事場ね」
「え……ここですか?」
年季が入った建物はどう見てもボロアパートで、ところどころに走るヒビが限界を知らせているようで恐ろしい。アパートの入り口にはこれまた頼りない文字で「餓鬼荘」と書いてあった。
「青鬼と赤鬼は今出払ってるから、今日は僕が君のお世話をするよ。こういうの先輩って言うんだろ?」
「………ですね」
ニカッと笑う黄鬼の歯はパッと見た感じ汚い。
私はこの無駄に明るくて鬼にしてはおそらく善人であろう彼の口内状況が心配になってしまった。
その後、一通りの作業の流れを教えてもらって、私はなんとか一人で仕事が出来るようになった。
与えられた内容は書類の整理だ。
書類の整理にとどまらず、部屋の掃除もしてあげたくなったけれど、流石に出過ぎた真似をすべきではない。隣の部屋で作業するという黄鬼に別れを告げて、私は黙々と書類を分類していく。
八つ用意された箱に、それぞれの箱の名前が書かれた紙を入れていくだけの簡単な仕事だったけれど、その名前というのが「無間地獄」や「焦熱」といった閻魔から聞いた地獄の名前と完全一致していたので震えた。
おそらく彼はこれに従って、落ちてきた罪人たちを裁いていくのだろう。
(結構すぐ終わっちゃったな……)
一人で誰とも喋らずに作業したせいか、ものの三十分も経たずに分類は終わった。
隣で作業しているという黄鬼に声を掛けるべく、ドアを開けようとしたところ、中から漏れ出る音が耳に入った。
「……あん……んっ……」
はぁ?
この鬼男は後輩の私に作業を押し付けて、自分は女を連れ込んでお楽しみということ?
このまま彼のお楽しみが終わるのを待つのも無様なので、私は勢いよく扉を開けて部屋に突入する。と、同時に大きなスクリーンにドアップで映る男女の絡みを見て固まった。
「ひゃっ!お前入って来る時はノックしてくれ!」
慌てて停止ボタンを押すから画面の中で抱き合う二人の顔をマジマジと見てしまう。
「これ……閻魔様?」
「ひょー!お前コラ言うなよ!言うなよ!?こんなんバレたら俺は舌抜くだけじゃなくて、口から内臓全部掻き出されちまうから!言うなよ……!?」
必死の形相で私に迫り来る黄鬼に、とりあえずパンツを履くように指示を出す。カーテンに隠れてせこせことトラ柄パンツを履いた黄鬼が戻って来る頃には、だいぶ私の心も落ち着いていた。
画面の中の男女は閻魔様と、誰か若い女。
冥界の王は脱いだらこんなにマッチョなのかとしげしげと眺めていたら、黄鬼はブチッとモニターのスイッチを切った。
「違うんだ、これはべつに閻魔様の寝室を隠し撮りしたわけではない!ただ、人間界から落ちてきた機械の使い方を知りたくて…!それで……!」
「バッチリ使いこなせてますね」
「お願い!言わないで!何でもするから…!」
「何でも………?」
近付くと、ヒッと黄鬼が息を呑む。
「私、知りたいことがあるんですよね」
壁際まで下がる鬼の隣に手を突いてみた。
求めていた閻魔の弱点は思ったより簡単に手に入りそうだ。
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