【完結】それは愛ではありません

おのまとぺ

文字の大きさ
上 下
14 / 22

14 求めていたもの

しおりを挟む



 マリーがネイトの言葉を理解するために時間を使っている間に、マイセンは領地の税管理を任され、どういうわけか募る不満やストレスはマリーの方へ向くようになった。


「まったく頭にくるよ!農奴の奴らときたら、決められた納期に間に合うってことがない。ガーランド伯爵も面倒な仕事だから僕に任せたんじゃないか?アイツは外面が良いだけで自分が手を動かすことをしない!」

「だけど…ガーランド伯爵は、売り上げが出ない地域に直接出向いてお話を聞いて回っているんでしょう?そんな方を悪く言うのは……」

「君もあの男の肩を持つのか!?ジュリアだって伯爵を庇うようなことを言うし、女はみんな空っぽだな…!」

「庇っているわけではありません。ただ、何もしていないわけではないと思って、」

「分からないくせに意見するな!今は僕が話をしているんだよ。ここのところママも体調が悪いし、誰も僕の話を聞いてくれやしない。夜の相手も十分に出来ないんだから、話ぐらいは黙って聞け……!」

 マイセンは腹立たしげに持っていた鞄を床に投げ付けた。

 中から沢山の書類が飛び出してマリーの部屋の床を覆い尽くす。専門家の意見を借りながらマイセンは税金の管理に取り組んでいるようだが、どうやらあまり上手くはいっていないようだった。

 空が晴れたり曇ったりするように、領内の景気も上がったり下がったりする。それはきっと仕方のないことで、おそらく頭を悩ませているのは領主であるネイトだって同じことだと思う。もしくは、マイセンよりも責任を感じているかもしれない。

(心配だわ………)

 うっかりネイトの近況に思いを馳せた。
 最近では忙しいのかハワード邸を訪れない。

 そしてマリーのそうした考え事は、気が立ったマイセンを尚更怒らせたようだった。


「なにを考えてるんだ!?」

「え?」

「今君は他のことを考えただろう…!マリー、君はいつだってそうだ。僕が話しているのに、僕のことを見ちゃいない。愛していると何度も伝えているのに、いつだって心ここに在らずな顔をする……!」

「それは思い違いです、私は……!」

「僕は君を養っている!愛している!なのにどうして君は僕の方を見ないんだ…っ!?」

「マイセン様、感謝しています!本当です…!」

「ただの田舎者だったお前を、僕が一流の貴族にしてやったのに……この恩知らずが!!」

 バシッと大きな音が響き、硬い床に尻餅を突いた。

 じんじんとした痛みが頬を熱くしてマリーはようやく自分がマイセンに殴られたのだと理解した。俯いたマリーをそのままに夫はすっきりしたのか、散らばった紙を拾い集めて静かに部屋を去って行った。


 一人になった空間で息を吸って吐く。
 マリーはようやく、自分が求めていたものを知った。

 そして、同時に気付いた。それは今となってはどう足掻いても簡単に手に入るものではなく、今のマリーにとっては絵画の中の景色のようにただ恋焦がれる対象であると。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。

星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。 グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。 それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。 しかし。ある日。 シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。 聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。 ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。 ──……私は、ただの邪魔者だったの? 衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

麗しのラシェール

真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」 わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。 ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる? これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。 ………………………………………………………………………………………… 短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。

不実なあなたに感謝を

黒木メイ
恋愛
王太子妃であるベアトリーチェと踊るのは最初のダンスのみ。落ち人のアンナとは望まれるまま何度も踊るのに。王太子であるマルコが誰に好意を寄せているかははたから見れば一目瞭然だ。けれど、マルコが心から愛しているのはベアトリーチェだけだった。そのことに気づいていながらも受け入れられないベアトリーチェ。そんな時、マルコとアンナがとうとう一線を越えたことを知る。――――不実なあなたを恨んだ回数は数知れず。けれど、今では感謝すらしている。愚かなあなたのおかげで『幸せ』を取り戻すことができたのだから。 ※異世界転移をしている登場人物がいますが主人公ではないためタグを外しています。 ※曖昧設定。 ※一旦完結。 ※性描写は匂わせ程度。 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載予定。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

私は愛する婚約者に嘘をつく

白雲八鈴
恋愛
亜麻色の髪の伯爵令嬢。 公爵子息の婚約者という立場。 これは本当の私を示すものではない。 でも私の心だけは私だけのモノ。 婚約者の彼が好き。これだけは真実。 それは本当? 真実と嘘が入り混じり、嘘が真実に置き換わっていく。 *作者の目は節穴ですので、誤字脱字は存在します。 *不快に思われれば、そのまま閉じることをお勧めします。 *小説家になろうでも投稿しています。

処理中です...