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14 求めていたもの
しおりを挟むマリーがネイトの言葉を理解するために時間を使っている間に、マイセンは領地の税管理を任され、どういうわけか募る不満やストレスはマリーの方へ向くようになった。
「まったく頭にくるよ!農奴の奴らときたら、決められた納期に間に合うってことがない。ガーランド伯爵も面倒な仕事だから僕に任せたんじゃないか?アイツは外面が良いだけで自分が手を動かすことをしない!」
「だけど…ガーランド伯爵は、売り上げが出ない地域に直接出向いてお話を聞いて回っているんでしょう?そんな方を悪く言うのは……」
「君もあの男の肩を持つのか!?ジュリアだって伯爵を庇うようなことを言うし、女はみんな空っぽだな…!」
「庇っているわけではありません。ただ、何もしていないわけではないと思って、」
「分からないくせに意見するな!今は僕が話をしているんだよ。ここのところママも体調が悪いし、誰も僕の話を聞いてくれやしない。夜の相手も十分に出来ないんだから、話ぐらいは黙って聞け……!」
マイセンは腹立たしげに持っていた鞄を床に投げ付けた。
中から沢山の書類が飛び出してマリーの部屋の床を覆い尽くす。専門家の意見を借りながらマイセンは税金の管理に取り組んでいるようだが、どうやらあまり上手くはいっていないようだった。
空が晴れたり曇ったりするように、領内の景気も上がったり下がったりする。それはきっと仕方のないことで、おそらく頭を悩ませているのは領主であるネイトだって同じことだと思う。もしくは、マイセンよりも責任を感じているかもしれない。
(心配だわ………)
うっかりネイトの近況に思いを馳せた。
最近では忙しいのかハワード邸を訪れない。
そしてマリーのそうした考え事は、気が立ったマイセンを尚更怒らせたようだった。
「なにを考えてるんだ!?」
「え?」
「今君は他のことを考えただろう…!マリー、君はいつだってそうだ。僕が話しているのに、僕のことを見ちゃいない。愛していると何度も伝えているのに、いつだって心ここに在らずな顔をする……!」
「それは思い違いです、私は……!」
「僕は君を養っている!愛している!なのにどうして君は僕の方を見ないんだ…っ!?」
「マイセン様、感謝しています!本当です…!」
「ただの田舎者だったお前を、僕が一流の貴族にしてやったのに……この恩知らずが!!」
バシッと大きな音が響き、硬い床に尻餅を突いた。
じんじんとした痛みが頬を熱くしてマリーはようやく自分がマイセンに殴られたのだと理解した。俯いたマリーをそのままに夫はすっきりしたのか、散らばった紙を拾い集めて静かに部屋を去って行った。
一人になった空間で息を吸って吐く。
マリーはようやく、自分が求めていたものを知った。
そして、同時に気付いた。それは今となってはどう足掻いても簡単に手に入るものではなく、今のマリーにとっては絵画の中の景色のようにただ恋焦がれる対象であると。
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