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第二章 シルヴィアの店編

39.リゼッタは瞳を閉じる

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カルナボーン王国から越してきた私が、いったい何故、アルカディア王国で反王党派の男たちに良いようにされるのか。エレン曰く、王族であるノアへの当て付けのようなものらしいけれど、あまり得策とは思えなかった。

穢れを重ねた私のことをノアが嫌いになっても、それ故に心を痛めるかどうかは微妙だ。彼が手元に置きたがっていたカーラのように、私が純潔だったら話も違うかもしれないけれど。

「王族と同じ女を抱けるってだけで、堪らんなぁ!」

前歯の抜け落ちた口を大きく広げて大柄な男は笑った。どうやら彼が一番手らしい。コンクリート剥き出しの床の上に座ったまま、私は自分を取り囲む飢えた男たちの顔を見回した。

本当にロクでもない。こんなことでしか自分の気持ちを表現できないなんて馬鹿げている。指輪をしている人も居るし、妻や恋人を家で待たせて来ている男も居るのだろう。自分の愛する人間が同じ目に遭ったらどう思うのか。

「なんでまだそんな顔が出来るんだ、お前は今から此処に居る男たち全員に犯されるんだぞ!」
「……いえ、可哀想なので」
「はぁ?」

唾を飛ばしながら不服そうな顔で男は私を見下ろす。

「話し合いを避けて力でしか相手を屈服させることが出来ないなんて、あまりに貧しい心ですね。国王や王子に文句があるなら、直接言えば良いのに…!」

いつも、いつも。そうやって力で押さえつけて従えようとする。私に婚約破棄を突き付けたくせに娼館まで追い掛けて来た元婚約者のシグノー・ド・ルーシャも。こんな集団で襲って来る反王党派を名乗る彼らも。

記憶を失くしたノアだって、それは同じ。

「情けないわ!貴方たちは言葉を交わして思いを伝え合うことが出来ないの!?どうして一方的に捩じ伏せようとするの……!」
「お前が話し合いに値しない弱者だからだよ!」

振り下ろされた手が頬を叩いた。私は自分でも驚くぐらい怒っていた。その矛先がこの境遇なのか、はたまた、思いのまま私を自分の下に沈めようとする者たち皆に対するものなのかは分からなかった。

なかなか順番が回って来ないことに苛立ったのか、わらわらと集まってくるゾンビのような男の集団に目を閉じる。絶望的な状況の中でも自分を保つためには、外的なものを遮断して内なる意識に集中するしかない。

シャツが破かれて、胸が露出する。
熱い息遣いを感じながら、ここから先はシルヴィアには話さない方が良いかもしれないとぼんやり考えた。

「王子様が吸った乳だぞ!柔らかいなぁ~」
「……っ!」

考えて、反応してはダメ。他のことに集中して。
頬、首、耳、あらゆるところを這う舌のザラつきに吐き気がした。手のひらに握らされたヌメついた棒を引っこ抜いたら彼らは私を殴るのだろうか。出来やしないけれど。

「…ん……やめて!」
「見ろよ!王室御用達の穴だ!」

スカートに手が掛かってさすがに抵抗するも、すぐに被さってきた男たちに口を塞がれた。バタバタ動かした足も動きを封じられる。

敵わない、この圧倒的な数の差は覆せない。


ドンッと扉の外で大きな音がしたのはその時だった。
男たちは一斉に入り口の方を振り返る。少し離れたところで見物を決め込んでいたエレンが椅子から立ち上がった。警戒した足取りで重厚な扉へと近付く。銀色のドアノブに手をかけて一気に引くと、何か大きなものが倒れ込んで来て、慌てて飛び退いたエレンは暫し目を見開いた。

「………なんてことだ、」

それは、手首から足首にかけて白い布で巻かれた上で固く何重にも拘束されたカーラの姿だった。

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