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第二章 シルヴィアの店編

22.王子は後悔する【N side】

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「……っくし」
「おい、ウイルスを飛ばすな」

うるさく騒ぎ立てるウィリアムを睨んだ。

息が詰まる王宮を抜け出して頻繁にクロウ邸を訪問しているせいか、最近のウィリアムからの当たりは強い。リゼッタの行方、カーラとの関係、国王夫妻への説明など考えなければいけないことは山ほどあった。

「あの金髪女はどうしたんだ?」
「たぶん…まだ王宮に居るんだろうな」
「だろうな、じゃなくて追い出せよ」
「彼女、俺の婚約者になろうとしてる」
「………は?」

驚いてウィリアムは目を見開く。

「お前、リゼッタはどうするんだ!」
「俺…たぶん滅茶苦茶酷いことをした」
「見てるこっちも胸糞悪い対応だったよ」
「……どうしたら良いかな?」

頭を抱える隣でフッと息を吐いたかと思えば、ウィリアムは大きな声で笑い出した。未だかつて、この友人が声を上げて笑うのを見たのは数えるほどしかないので、暫し動きを止めてその様子を見守る。何がそんなにおかしいのか。

「あぁ…良いものを見せてもらったよ。お前でも悩みが重なれば弱気になったりするんだな」
「俺だって人間なんだ。弱さぐらいある」

ムッとして返すとウィリアムは尚もニヤついた口元で話す。

「あの強引で自分本位なお前が、ここまで自信を喪失するなんて見ものだ。やっぱり恋愛は恐ろしい」
「喧嘩売ってんのか?」
「褒めてるんだよ。ようやく同じ人間だと思えた」
「……お前、性格悪いよ」
「誰かさんとずっと一緒に居たらそうもなる」

溜め息を吐きながらソファに深く沈む。
リゼッタの取りそうな行動を頭の中で浮かべてみるが、やはり金銭を持ち合わせていない彼女は、真面目な性格上、何処かで先ず働こうとするはずだ。お堅い仕事は一時的に成るには不向きだし、彼女が選ぶ可能性は低い。

かと言って、また娼婦となるほどリゼッタがそういった仕事を好いているとも思えなかった。ウェイトレス、靴磨きなど安易に思い付きそうな仕事に加えて、仕立て屋なんてのもあるけれど、これも飛び込みで雇い入れてはくれないだろう。

甘いものを愛する彼女にはケーキ屋やパン屋も似合うが、職業となるとどうなのか。もしかすると、そもそもの話、仕事になど就いていなくて早々と何処かの男に元に身を寄せている可能性もゼロとは言い切れない。


「なぁ、俺を殴ってくれないか?」
「……俺はまだ死にたくない」
「やり返したりしないよ。ただ、自分で自分が許せない。俺が自殺するなら、まさに今だろうな」
「止めてくれ。屋敷の価値が下がるのは御免だ」

冷ややかにそう返すと、ウィリアムは目を通していた書類をまとめて机の引き出しの中へ閉まった。

「とりあえず、飲食やサービス業を中心に店に入ってリゼッタを見たか聞いて回ろう。それぐらいは手伝ってやる」
「ウィリアムくん…キスしていいかな?」
「俺がお前だったら自分を恥じて去勢すると思うが」
「まだ未遂だから良いんだよ」

カーラとのことを暗にくさしてくる黒い瞳を睨み返す。リゼッタを傷付けてしまった今、本当は何も良くないことぐらい分かっているけれども、いつまでも落ち込んでいる場合ではない。

見つけ出さなければ、赦しを請うのはその後。


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