【完結】溺愛してくれた王子が記憶喪失になったようです

おのまとぺ

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第二章 シルヴィアの店編

20.王子は途方に暮れる【N side】

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「それで……俺に何の用だ?」

旧友からの厳しい視線を受けながら、床に膝を付いた。

王宮を出て、かれこれ二時間ほどは外を探し回ったが、リゼッタは一向に見つからない。そもそも、彼女が行きそうな場所や頼りそうな人物など最初からこの国に当てはないことは分かっていた。

唯一あるとしたら、彼女の出身であるカルナボーン王国だが、義理の両親はもう居ないし、娼館セレーネの管理人であるナターシャを頼って隣国へわざわざ移動するとも考え難い。しかも、行ったところでナターシャは今宮殿に滞在しているので娼館は留守にしている。


「ウィリアムくん、力を貸して貰えないかな?」
「馬鹿が。お前が女に気を取られて落馬するからこうなるんだ。おまけに助けた女にほだされるなんて冗談が過ぎる」
「……だよな、」

我ながら返す言葉もない。

「お前、いつから外に出てたんだ?」
「えっと…二時間ぐらい?」
「もう遅い。こんな暗さじゃ何も見えない」
「分かってるんだけど、焦っちゃってさ」

気持ちばかりがはやってしまって冷静で居られない。街中を行き交う人の中に、見慣れた茶色い髪が揺れているのを見ると顔を確認しに戻ってしまう。

何処に居るのか、誰と居るのか。
そんなことをもう問い詰める権利は自分にはないと分かっていても、それでも考えは止まらなかった。今こうして休んでいる間にも、リゼッタは不安で震えているかもしれない。所持金などない筈だし、一人で街を歩いたことなどない彼女のことだから、道に迷って困っている可能性も大いにある。

「ノア、お前はきっと愛が過ぎたんだよ」
「え?」
「何もかも手に入れようと欲が出過ぎたんじゃないのか?リゼッタへの執着は度を超えていた」
「……執着だったのかな」

どう見てもそうだ、とボヤきながらカーテンの隙間から外を覗くウィリアムの背中を見つめた。リゼッタの侍女であるヴィラに想われている彼は、もしも相手と結ばれた場合に、そのすべてを手に入れたいと思わないのだろうか。

言葉でいくら塗り重ねても足りないから、あらゆる手段を使って彼女に伝えたかった。多少いびつでも良い、疎ましく思われても良い。ただ、逃げ出さないように、慎重に籠の中に閉じ込めていたつもりだったのに。

「なんだろうね、上手くいかない」
「お前がボケッと他の女の尻を追い掛けるからだ」
「仕方ないだろ。忘れてたんだから」
「その言葉、リゼッタに対して言えるのか?」

鋭い指摘に閉口した。言えるわけがない。
言い訳にもならないし、甘えだと分かっている。記憶がないにせよ、あまりにも酷い扱いをしたことは理解している。あるいは彼女に対して無関心ならば、こうはならなかったかもしれない。突き放して踏みにじるような残虐性は、きっと自分がリゼッタに捧げていた重すぎる愛の副産物なのだろう。

大切にしたい。
でも、傷付くならば自分の手で。

こちらを真っ直ぐに見据えるウィリアムに、心の中まで読まれないように通常の笑顔を張り付けた。彼女が感じる幸せも怒りも悲しみも絶望すら全て、自分が与えたいと思っている。そんなこと、口が裂けても言えない。


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