23 / 68
第二章 シルヴィアの店編
20.王子は途方に暮れる【N side】
しおりを挟む「それで……俺に何の用だ?」
旧友からの厳しい視線を受けながら、床に膝を付いた。
王宮を出て、かれこれ二時間ほどは外を探し回ったが、リゼッタは一向に見つからない。そもそも、彼女が行きそうな場所や頼りそうな人物など最初からこの国に当てはないことは分かっていた。
唯一あるとしたら、彼女の出身であるカルナボーン王国だが、義理の両親はもう居ないし、娼館セレーネの管理人であるナターシャを頼って隣国へわざわざ移動するとも考え難い。しかも、行ったところでナターシャは今宮殿に滞在しているので娼館は留守にしている。
「ウィリアムくん、力を貸して貰えないかな?」
「馬鹿が。お前が女に気を取られて落馬するからこうなるんだ。おまけに助けた女に絆されるなんて冗談が過ぎる」
「……だよな、」
我ながら返す言葉もない。
「お前、いつから外に出てたんだ?」
「えっと…二時間ぐらい?」
「もう遅い。こんな暗さじゃ何も見えない」
「分かってるんだけど、焦っちゃってさ」
気持ちばかりが逸ってしまって冷静で居られない。街中を行き交う人の中に、見慣れた茶色い髪が揺れているのを見ると顔を確認しに戻ってしまう。
何処に居るのか、誰と居るのか。
そんなことをもう問い詰める権利は自分にはないと分かっていても、それでも考えは止まらなかった。今こうして休んでいる間にも、リゼッタは不安で震えているかもしれない。所持金などない筈だし、一人で街を歩いたことなどない彼女のことだから、道に迷って困っている可能性も大いにある。
「ノア、お前はきっと愛が過ぎたんだよ」
「え?」
「何もかも手に入れようと欲が出過ぎたんじゃないのか?リゼッタへの執着は度を超えていた」
「……執着だったのかな」
どう見てもそうだ、とボヤきながらカーテンの隙間から外を覗くウィリアムの背中を見つめた。リゼッタの侍女であるヴィラに想われている彼は、もしも相手と結ばれた場合に、そのすべてを手に入れたいと思わないのだろうか。
言葉でいくら塗り重ねても足りないから、あらゆる手段を使って彼女に伝えたかった。多少歪でも良い、疎ましく思われても良い。ただ、逃げ出さないように、慎重に籠の中に閉じ込めていたつもりだったのに。
「なんだろうね、上手くいかない」
「お前がボケッと他の女の尻を追い掛けるからだ」
「仕方ないだろ。忘れてたんだから」
「その言葉、リゼッタに対して言えるのか?」
鋭い指摘に閉口した。言えるわけがない。
言い訳にもならないし、甘えだと分かっている。記憶がないにせよ、あまりにも酷い扱いをしたことは理解している。或いは彼女に対して無関心ならば、こうはならなかったかもしれない。突き放して踏み躙るような残虐性は、きっと自分がリゼッタに捧げていた重すぎる愛の副産物なのだろう。
大切にしたい。
でも、傷付くならば自分の手で。
こちらを真っ直ぐに見据えるウィリアムに、心の中まで読まれないように通常の笑顔を張り付けた。彼女が感じる幸せも怒りも悲しみも絶望すら全て、自分が与えたいと思っている。そんなこと、口が裂けても言えない。
22
お気に入りに追加
1,483
あなたにおすすめの小説
夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
【完結しました】
王立騎士団団長を務めるランスロットと事務官であるシャーリーの結婚式。
しかしその結婚式で、ランスロットに恨みを持つ賊が襲い掛かり、彼を庇ったシャーリーは階段から落ちて気を失ってしまった。
「君は俺と結婚したんだ」
「『愛している』と、言ってくれないだろうか……」
目を覚ましたシャーリーには、目の前の男と結婚した記憶が無かった。
どうやら、今から二年前までの記憶を失ってしまったらしい――。
あなたの側にいられたら、それだけで
椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。
私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。
傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。
彼は一体誰?
そして私は……?
アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。
_____________________________
私らしい作品になっているかと思います。
ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。
※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります
※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)
【完結】365日後の花言葉
Ringo
恋愛
許せなかった。
幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。
あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。
“ごめんなさい”
言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの?
※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
この罰は永遠に
豆狸
恋愛
「オードリー、そなたはいつも私達を見ているが、一体なにが楽しいんだ?」
「クロード様の黄金色の髪が光を浴びて、キラキラ輝いているのを見るのが好きなのです」
「……ふうん」
その灰色の瞳には、いつもクロードが映っていた。
なろう様でも公開中です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。
112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。
愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。
実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。
アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。
「私に娼館を紹介してください」
娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──
大好きなあなたを忘れる方法
山田ランチ
恋愛
あらすじ
王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。
魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。
登場人物
・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。
・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。
・イーライ 学園の園芸員。
クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。
・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。
・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。
・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。
・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。
・マイロ 17歳、メリベルの友人。
魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。
魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。
ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
記憶がないなら私は……
しがと
恋愛
ずっと好きでようやく付き合えた彼が記憶を無くしてしまった。しかも私のことだけ。そして彼は以前好きだった女性に私の目の前で抱きついてしまう。もう諦めなければいけない、と彼のことを忘れる決意をしたが……。 *全4話
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる