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第二章 シルヴィアの店編
14.リゼッタは仕事を見つける
しおりを挟むようやく昇ってきた太陽はジリジリと背中を焦がす。
こんなことなら長袖ではなくて半袖のワンピースを着て来れば良かった。マリソン王妃からもノアからも、あまり肌を見せないように言われていたので、つい言い付けを守って服を選んで出て来てしまった。
どれぐらい歩いたのか分からないけれど、太陽が昇って街に活気が出てきたから、おそらくもう人が生活する時間帯にはなったのだろう。
まだ少ないけれど車道を走る車の脇には小さなテントが並び始めて、各々が仕入れた野菜や果物を配列している。
(うーん…おいしそう)
グゥグゥ鳴り出しそうなお腹を押さえながら、足を進めた。
どうにかして住み込みで働かせて貰える場所を見つけなければいけない。もう流石に娼館で働く気力はないし、せっかく始まった第二の人生なので新しい仕事に挑戦してみたい。とりあえず皿洗いさせてくれそうな飲食店が出て来たら、飛び込んでみようと意気込んだ。
「危ない!」
考えごとをしながら歩いていたせいか、前から歩いて来た通行人と思いっきりぶつかった。中年の女性は転がっていくオレンジを追い掛けて腰を屈める。謝り倒しつつ私も落下した幾つかの果物を拾い上げて手渡した。
「本当にすみません、傷は付いていないですか?」
「いいのよ、私もカゴに山盛りで前が見えなかったから」
「ごめんなさい……」
シュンと肩を落とす私に向かって女は首を傾げた。
「こんな早朝からお仕事?偉いわねぇ」
「いえ、仕事を探して彷徨っていたんです」
「そうなんだ。じゃあ、ちょうど良いわ」
「?」
「うちでバイトしてみない?」
呆然と見上げる私の肩をポンポン叩きながら女は「接客業は好き?」と聞いてくるので、とりあえず頷いた。ここから遠くない場所にあるという彼女の店まで、歩いて着いて行く流れになった。
大通りから曲がった細道を抜けると、小さな店が軒を連ねる路地裏に出た。飲み屋やホテルが多く出て来て、なんとなく夜の雰囲気を感じるその一角にピンク色の屋根の店はあった。
「私、シルヴィア・バートンって言うの。だから店の名前はシンプルに“シルヴィアの店”よ」
「飲み屋さんなのですか?」
「ええ。この辺じゃあ一応顔が広い方だけど、まあ客層は働いてみたら分かるわ」
ロクなのが居ない、と冗談混じりで笑うシルヴィアには好感が持てた。ショッキングピンクのハイヒールに同色の口紅を付けた彼女は、上手に客を捌きそうだ。
「貴女の名前は?」
「リゼッタです。リゼッタ・アストロープ」
「こんな時間から外を歩いてるんだもの。きっと何か事情があるんでしょうね。落ち着くまでは世話させて」
「……ありがとうございます!」
ペコペコと頭を下げる私に「その分働いてもらうけどね」と声を掛けて、シルヴィアは店の扉を押した。頭上で鳴るベルの音を聞きながら、私は新しい居場所へと足を踏み入れる。
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