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第四章 バルハドル家とルチルの湖
54 赤い空の下
しおりを挟む「なんだか空が明るい気がしない?」
西部に入った頃、ハンドルを握ったクレアがフロントガラス越しに空を見上げながらそう言った。同じように見てみると、確かに夜の闇が赤い光で染められている。
「向かう先って西部にある騎士団の基地で良いのよね?」
「そう……だと思うんだけど、」
「配布されてる無線も機能しないし、なんだか出口が見えないトンネルに居るみたいで落ち着かないわ。ゴアはどう?起きてる?」
「起きてるよっ!こんな状況で寝るほど俺は能天気じゃあないぞ!」
だよね、と返しながらクレアは笑う。
外の景色に目を凝らしていると、赤く染まった空の下に渦のようなものが発生しているのが見えた。ぐるぐると竜巻のごとく空に伸びているのは、何だろう。
「クレア…!あれ見える?」
「んー?なにあれ……」
クレアもまた、徐々に近付きつつあるその渦を目にして口をあんぐりと開けた。
距離が近くなって少しずつ見えて来たのは、無数に飛び交う魔物の姿。黒い小さな物体が蠢く様子は、死体に群がるカラスを彷彿とさせて、私はブルッと身震いする。
その時、渦の中が一際明るくなった。
青い光が放たれた先で、旋回していた魔物たちがバラバラと落下していく。心臓が揺れるように感じた。
「フランだわ……!」
「え?」
「あの渦の中にフランが居る!あの場所に行かないと!」
「これ以上近付くと車が狙われるわ、ひとまず基地に寄って戦況を確認しましょうよ!」
「ダメよ、だって彼は魔法を使ってる!ラメールさんが言っていたもの。これ以上魔法を使ったらフランは、」
フランは人間でなくなってしまうかもしれない。
あの強い龍の力に呑まれて、自分を見失って。
「ああ、もう!貴女ってこんなに無鉄砲だったかしら?誰かの滅茶苦茶なところが移ったのかもね。良いわ、行きなさいよ。だけどこれぐらい持って行って」
クレアは足元に転がっていた拳銃を投げる。
「撃ち方ぐらい分かるでしょう?やっぱり第三班で一番冷静なのは私みたいね。今度フィリップに言って、リーダーは交代してもらうから」
「うん、ありがとう。貴方たちも気を付けて!」
「ローズ!」
ドアを開けて飛び出そうとする私の襟首をダースが掴んだ。私は身体を丸めて勢い良く咳き込む。
「お前、生きて帰れよ!俺にゃ分かんねえけど、プラムには母ちゃんが必要だろうが」
「………そうね。あの子には私もフランも必要なの」
「フランも?」
不思議そうに目を丸くしたダースに笑顔を返して、今度こそ地面に降り立った。
粉塵が舞う土の上を走りながら目の前に伸びる渦だけを見つめる。援護なんて出来るだろうか。何処から狙いを定めれば、あの魔物たちを落とせるのか。
勢いを増す竜巻状の渦のそばに、ちょうど良い高さのビルがあったので私はそちらに向けて駆け出した。階段を登って屋上へ出れば、フランに声が届くかもしれない。
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