49 / 68
第四章 バルハドル家とルチルの湖
45 決意の表明
しおりを挟む「………バルハドル家?」
怪訝そうな顔で聞き返す男に私は頷く。
ゴア・ネミウムは頭の後ろを掻いて首を捻った。
「フランの姓なんて聞いたことがなかったな。なんて言ったって、あいつは平民の出身だと言っていたし、龍が云々というのも幻覚を見たんだと流してしまったから」
頼りにしていた騎士団長がこんな風に返すから、私は落胆して気持ちが沈んだ。
ベルトリッケの遠征から戻ってすぐに、隣国に出向いているというゴアが帰る日を副隊長であるエリサに確認した。幸いにも三日後に王都に帰還した彼に連絡を取り、上手く面会の予定を入れたのが昨日の話。
「ゴア隊長は、すべて知った上でフランを私と一緒に住ませたわけではないのですか?」
「知ってると言えば知ってるが……信じてはいなかったからなぁ。フランは本当に魔物だったのか?」
「………分かりません」
思い出すのは、火の力を使うフランの姿。
魔術師でない彼が、あれだけの力を持つことはにわかに信じがたい。ラメールでも白龍を相手に一人で闘うなんて出来ないはずだ。
ゴアに突撃して分かったことは、結局フランはすでに騎士団を離れて何処かへ消えたということ。新しい活躍の場があると言っていたのに、彼の吐いた最後の不誠実な嘘は私を虚無の中に突き落とした。
「つまり……誰もフランの行方を知らないんですね」
「そういうことになるねぇ」
「私たちがベルトリッケで合宿をした際、王家が管理する水晶板を持った魔術師に遭遇しました」
「ああ、フィリップから報告を受けたよ。サイラス先生が回収したんだろう?」
「あの水晶板は何ですか?」
ゴアは言葉に迷うように目を泳がす。
私は追求するために身を寄せた。
「教えてください」
「うーん……まだ確実なことは言えないんだが、実は魔物が人為的に増やされているんじゃないかという説がある」
「人為的に?」
「そうだ。君の良く知る魔術師のラメールもその説を支持する側でね、だから王家の息が掛かった騎士団には入らないと拒否されたよ」
「そんな…王家が魔物の増加に関わっていると言うのですか?」
ゴアは唸りながら首を振る。
「あくまでも推測の域を出ていない。ただ、本来であれば王が信頼する者にだけ与えているはずの水晶板が、下級の魔術師たちの手に渡っているのは事実だ」
「黒魔術を得意とする者たちですね?」
「ああ。この件はフランから再三言われていたが、騎士団として扱うわけにはいかなくて……本格的な調査に乗り出す前だったんだ」
私はハッとして顔を上げる。
サイラスが話していた水晶板の説明を思い出す。王の間と所持者を繋ぐ魔法の扉。
ウロボリア国王が住む王宮は高い石壁に囲まれており、特殊な魔法が掛けられているせいで内部への侵入は簡単ではない。加えて、守衛の数も相応なので、そもそも入り込もうとするのは無謀だ。
でもこれは、正攻法での話。
(もしかして、フランは………)
私はゴアに礼を言って部屋を出た。
廊下ですれ違ったエリサから走らないように注意を受け、謝罪を返しつつ、第三班の皆が待つ場へ向かう。息を切らす私を見てフィリップは少しだけ目を丸くした。
「どうしましたか、ローズさん?」
「すみません。今日は早退します。確かめなければいけないことがあるんです」
「一人で行くの?」
クレアの声に私は頷く。
「プラムのこと、私たちが預かるわ」
「え?」
「まさか連れて行くつもりだった?これだけ居れば安心だし、貴女が彼女を連れて行く方が心配よ」
「……ありがとう」
私は鞄を漁って、中から小さな巾着を取り出した。
クレアの手のひらにそれを置く。
「これ、プラムへのお土産だったの。ベルトリッケで買ったんだけど、色々あって渡しそびれちゃって」
「うん。分かったわ、必ず渡しておく」
そう言ってクレアは力強く私を抱き締めた。
彼女らしい爽やかなシャンプーの香りがして、私は少しだけ目を閉じる。後ろから「あのさぁ」と弱々しい声が聞こえて振り返った。見るとダースがおどおどと手を揉んでいる。
「もしも……フランを見つけたら、伝えておいてくれねぇか?わけも聞かずに攻撃しようとしたこと」
「すみません、僕の分も……」
メナードも申し訳なさそうに言い添える。
私は笑顔を見せて了解を示した。
「それで、貴女はどこへ向かうんですか?」
フィリップが眼鏡の奥で不安を滲ませた。
それもそうだろう。無力な私が一人で出来ることなんて限られている。フランを探そうと思う、と皆には伝えていたけれど、自分の意思で去った彼を追うことに、三班のメンバーは肯定的ではない。
だけど、もう一度会って話したい。
言われっぱなしは好きではないから。
私は大きく息を吸って口を開いた。
「北部にある、ルチルの湖です」
196
あなたにおすすめの小説
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした
ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。
彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。
そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。
しかし、公爵にもディアにも秘密があった。
その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。
※本作は「小説家になろう」さんにも投稿しています
※表紙画像はAIで作成したものです
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる