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第二章 ウロボリア王立騎士団

29 コデグの港

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 メリルがバニラとサルートを引き連れてやって来たのは十二時を回る少し前のことだった。

 待ち合わせ場所には、三人の他にメリルの夫のバートンも居る。事前に彼らとの関係や各々の性格については説明していたけれど、私は自分たち、特にフランと私が夫婦として振る舞えるかドキドキした。

 コデグの港についてはフランも行ったことがないとのことで、とりあえず子連れなので遊べる場所があった方が良いだろうという考えから行ってみることになった。クレアやフィリップのおすすめも、また日を改めて行きたい。


「まぁ……!まぁ、まぁ、ちょっと…!」

 私たちを見つけるなりメリルが目を丸くする。

 バニラとサルートはプラムを見つけてこちらに駆けて来た。私はその場で立ったまま笑顔を見せるバートンに頭を下げる。フランの紹介をする前にすごい勢いでメリルが私の耳元に口を寄せた。

「聞いてないわよ!」

 彼女が好む濃い百合の香水が香る。
 懐かしい匂いに頬が緩んだ。

「えっと……タイミングを逃して、」
「事前に言ってよ!誰なの、いや、どこで捕まえたの!?こんな若くて格好良い男が恋人!??」
「パパはパパだよ、メリルおばさん!」
「んまぁっ………!」

 メリルは文字通り目が飛び出そうなほど驚いた。

 プラムはバニラとサルートの手を取って得意げに笑顔を見せる。私は背中を冷や汗が流れ落ちるのを感じながら、助けを求めて視線を泳がせた。フランがそれを受けて小さく頷く。まさか、場を収める何か良いアイデアでも?

 フランが私に身を寄せて腰を抱き寄せた。
 頭が真っ白になる私の前でメリルが口に手を当てる。


「初めまして……妻がいつもお世話になっています。ご挨拶が遅れてすみません、夫のフランです」
「おっ……夫!?」

 何か追求しようとしたメリルも子供の前であることを思い出したのか、ハッとした顔をして言葉を止めた。

「あ、そうね……色々詳しく聞きたいけれど、先ずは移動しましょうか!もうお腹が空いたものね!」
「ええ。食事はどういうものが良い?騎士団の人たちにおすすめを聞いたの。メリルが気にいると良いけれど」
「嬉しいわ。ありがとう!」

 私たちは二台のタクシーに別れてコデグの港まで向かうことになった。七人の大移動ということで、家族ごとに分かれて乗る手筈だったのだが、どういうわけか私とフランの間にはメリルが座っている。

「えっと……メリル?子供たちは?」

 私は後ろで子供たちを順番に乗せ込むバートンの姿を見ながら、一向に動く気配のないメリルに尋ねる。

「良いのよ。バートンはこういう時とても優秀なの。うちの子達も私より彼が好きなんだから」
「でも、プラムが……」
「大丈夫。そんなに遠くないでしょう?」
「そうだけど………」
「じゃあ出発しましょう。バートンには私たちのタクシーを追うように伝えるようお願いしたから。目的地は何処だったかしら?コテングの丘?」
「コデグの港よ」
「そうそうそれ」

 ビシッと人差し指を立ててメリルが頷く。
 かくしてドライブという名の尋問が幕を開けた。

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