29 / 68
第二章 ウロボリア王立騎士団
26 リンゴのお裾分け
しおりを挟む「はぁ……!?それ絶対チームの女の裏切りじゃない?」
結局昨日は休みを取って、翌日廃病院であったことをクレアに話すと、彼女は私よりもご立腹のようだった。
「フランが来たから良かったものの、普通置いていくなんてことある?仮にもリーダーが居たわけでしょう?点呼とかしなかったわけ?」
「うーん……みんな不慣れだったのね」
「ローズ!おっとりし過ぎよ、一歩間違えたら今日ここに貴女が居なかったかもしれないのよ?」
「そうね。フランには感謝してる」
後々聞いた話によると、彼は団長の指示で来たらしい。
ロットバルズ精神病院は危険レベルを上げるか検討中と言っていたし、無事に浄化されたか団長自身の目で確認を取るつもりだったのだろうか。そんな大役を任されるとは、フランは結構信頼されているのかも。
「私、チームが一緒だった子に会ってくるわ」
「うぅ~大丈夫?一緒に行く?」
「いいえ。問題ないと思う」
しかしながら、訓練の終わりに会いに行くと、オーロラ・ペルーシはすでに除隊したと伝えられた。同様に一緒にチームを組んだ他の二人も一昨日付けで王立騎士団を去ったという。
もしかして、浄化の穴が団長の耳に入ったのだろうか。そうだとしたら、チームの一員だった私も責任がある。事実確認を取るかオロオロしていたら、通りがかったメナードに声を掛けられた。
「ローズさん!休憩中ですか?」
「メナード!」
「良かったら一緒に良いですか?田舎の母がリンゴをたくさん送ってくれたので、食べ切れなくて……」
そう言いながら見せてくれた麻袋には、なるほど確かに大量の赤いリンゴが詰まっている。これを家から持って来たなんて、それだけで結構な訓練になりそうだ。
良い感じの木陰を見つけて二人で腰を下ろす。
味には自信があります、という彼の言葉の通り、丸々としたリンゴは蜜を含んでいて美味しい。美味しいものを食べると大切な人の顔が浮かぶというのは本当で、私は頭の中でプラムの笑顔が浮かんだ。
(そういえば……フランも果物は好きかも)
いつの日か、デザートに出したドラゴンベリーのパイを彼は綺麗に食べ終えていた。普段コーヒーにも紅茶にも砂糖を入れない男が、比較的糖度の高いパイを完食していたのは不思議なことだったので記憶している。
「騎士団はどう?慣れた?」
「皆さん優しいですし、訓練も楽しいです!」
「メナードくんのやる気に私はちょっと遅れ気味だわ。頑張らなくちゃね!」
「もうすぐ実習訓練も実施するらしいですよ。フィリップさんが、東部の合宿場を借りるか検討していました」
「合宿……?」
「はい。東部に騎士団の管理するものがあるらしいです」
初耳だけど、泊まり込みということだろうか?
咄嗟にプラムのことを考える。組織に属する以上、そうした訓練があるのは仕方がない。今預けている子供園にはお泊まりなんてサービスはないから、誰か信用出来る知り合いが居れば良いのだけれど、生憎まだそこまでの人付き合いは出来ていない。
眉間に皺を寄せて悩む私の顔を見て、メナードは心配そうに「何か不安ですか?」と問い掛ける。
「えっと…子供のことが少し、」
「あ、ダースさんに聞きました!小さいお子さんがいらっしゃるんですよね。フィリップさんに聞いたら参加を辞退出来るかもしれませんよ」
「うん。でも、なるべく参加する方向で何か策を考えてみる。教えてくれてありがとう」
笑顔を向けると、メナードはつられて笑った後でお裾分けと称してリンゴをいくつか渡してくれた。プラムたちにお土産が出来たので私はありがたく受け取る。次はアップルパイにしても良いかもしれない。
205
お気に入りに追加
571
あなたにおすすめの小説
そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
【完結】記憶を失くした貴方には、わたし達家族は要らないようです
たろ
恋愛
騎士であった夫が突然川に落ちて死んだと聞かされたラフェ。
お腹には赤ちゃんがいることが分かったばかりなのに。
これからどうやって暮らしていけばいいのか……
子供と二人で何とか頑張って暮らし始めたのに……
そして………
王命を忘れた恋
須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
【完結】薔薇の花をあなたに贈ります
彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。
目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。
ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。
たが、それに違和感を抱くようになる。
ロベルト殿下視点がおもになります。
前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!!
11話完結です。
陛下から一年以内に世継ぎが生まれなければ王子と離縁するように言い渡されました
夢見 歩
恋愛
「そなたが1年以内に懐妊しない場合、
そなたとサミュエルは離縁をし
サミュエルは新しい妃を迎えて
世継ぎを作ることとする。」
陛下が夫に出すという条件を
事前に聞かされた事により
わたくしの心は粉々に砕けました。
わたくしを愛していないあなたに対して
わたくしが出来ることは〇〇だけです…
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
私は既にフラれましたので。
椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…?
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる