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第二章 ウロボリア王立騎士団
16 おかえりなさい
しおりを挟むお茶をしている間に荷物が届いたので、フィリップはプラムの書き終えたウサギの絵を持って笑顔で帰って行った。私は重たい箱を引きずってリビングの真ん中まで移動させる。片付けを進めながら眠くなったプラムを昼寝のためベッドへ移動させるなどした。
「………さてと、」
そんなに多くないと思っていたけど、結構気合いは必要そうだ。後になって、何がどこにあるか分からない状態にならないようにしなければ。
この一軒家はどうやら騎士団長のゴアが、彼の知り合いから譲り受けて持て余していたものらしく、私たちが住むまでは騎士団の別の家族が住んでいたようだ。
私とプラムの寝室、フランの寝室に加えてもう二つ自由に使える部屋があるので、今すぐ分類出来ないものはその一方に突っ込んでおいた。
フランの寝室や彼の私室には何があるのか?
気にはなったけれど、本人が不在の今はどうも出来ないので、また親しくなったら聞いてみよう。物は少なそうだし、嫌がられるかもしれないけど。
◇◇◇
その後は、役所関係の手続きを済ませて、プラムを預ける施設の挨拶に伺ったりした。
フィリップに聞いたお店では野菜やお肉を仕入れることが出来たので、私は夕食に向けて牛肉のシチューを煮込んだ。プラムも新しい先生の前では緊張していたものの、家に帰ると積極的に家事を手伝ってくれた。
「パパ帰る?」
「そうね、もうすぐ帰って来るかも」
また変な緊張を覚える。
こちらは慣れるまで時間が掛かりそうだ。
「ママ、パパのことすき?」
「えっ?」
「すきなの?」
「……す…いや、えっと……」
好きか嫌いの分類を出来るほど彼のことを知らない。あまりにもまだ謎が多過ぎる。ゴア隊長の話では北部の魔物を一掃した功績が云々言っていたから、きっと騎士としての腕はあるのだと思う。
だけど、人としては?
酔っ払った女相手に無礼なキスを試みる男のことを立派な紳士だとは言い難い。それでなくとも、聖女は役立たずみたいな発言をしていたし、私の一張羅スーツがダサいと揶揄するし。もしかして結構性格悪くない?
「ねぇ、ママってばぁ!」
「すき…になれたら良いなと思うわ」
必死に絞り出した答えはそれだった。
冷や汗を流しながらプラムの追求に怯えていると、玄関の呼び鈴が鳴る。私が行くよりも前にプラムが「パパだ!」と走り出していた。
「パパぁー!」
「プラム、ただいま」
「プラム良い子してたよーパパは?」
良い子だったよ、と言いながら腰を屈めて娘の頭を撫でる。私が時間を掛けて築いたプラムとの関係をあっさり自分のものにしていることにチクッと胸が痛んだけど、そんな小さなことに腹を立てるのはおかしい。
「汚れてるから、着替えて来る」
「あ……はい」
鍋を掻き混ぜながらぼけっと答えた。
しかし、そこで洗濯機の中に私とプラムの服が入れっぱなしだったことに気付く。下着やらも混ざっているし、さすがに回収しておかないと。
慌てて追い掛けて、勢いよく脱衣所の扉を開けた。
「ごめん、まだ洗濯機は……っわ!」
目に飛び込んできた肌色に思わず顔を覆う。
まさかもう脱いでたなんて。
「ごめんなさい、覗く気はなくて、洗濯機の中に私たちの服が入れっぱなしなので……」
「分かったよ。開けないようにする」
「助かるわ。あと、その…」
お疲れ様、ぐらい言っておこうと思ったのに、見上げた先にある身体が逞しくて恥ずかしくなった。オロオロと視線を泳がせる私の上でフランが吹き出す。
「あんた、いつまでそこに居るんだ?」
「ひっ……去ります!」
ニヤッと笑うフランが伸ばしてきた手を躱して私はリビングへと退散する。不思議そうに私のおでこに手を当てたプラムが「お熱かな?」と心配するので曖昧に誤魔化した。
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