【完結】あなたは優しい嘘を吐いた

おのまとぺ

文字の大きさ
上 下
7 / 68
第一章 マルイーズの穢れた聖女

05 一日目

しおりを挟む



「ああ~二日酔いつらっ!」

 朝からガラガラの喉を摩りながらクレアが呟く。

 どうやら昨日の飲み会は大層盛り上がったようで、クレアが部屋に戻ったのは私が寝付いた後だった。しかし、二日酔いでもしっかり目覚めて参加しているから偉いと思う。

「頭痛だけでも治癒する?」
「んーこの程度で能力使わせられないわ」
「ガハハッ!お前が俺に戦いを挑むからだ!」

 話を聞いていたのか、大男のダースが豪快に笑った。

「うっさいわよ!葡萄酒の産地であるリノス地方出身として、ワインで負けるわけにはいかなかったの!」
「勝てたの?」
「負けたわよ!!」

 思わず尋ねると食い気味にクレアは答える。
 大声を出すとまた頭が痛んだようで、右手でおでこを押さえながらクレアは「そういえばさぁ」と私に向き直った。

「船で何か面白いもの見つけた?フィリップも出掛けなかったらしいけど、おっさんの意見は参考にならないから」
「あはは…… どうだろう。あ、フランにも会ったわ」
「フラン!フランと言えば、すごい話聞いたのよ!」

 急に勢いを増したクレアが私に飛び付いた。

 周囲を見渡して、フランが近くに居ないことを確認するとクレアはそっと私の耳元に顔を寄せる。いったいどんな話が飛び出すのかドキドキしながら私は息を呑んだ。


「彼、すっごい遊び人らしいの」
「え?」
「女たらしって言うのかなぁ。とにかく、フランが参加した討伐には魔物と一緒に廃人になった女が横たわるって聞くから、気を付けてね!」
「えっと…どういう意味?」
「同じ班になったら喰われるってことよ!付き合ったり恋人になる気はないみたいだし、討伐隊が解散したら捨てられるから女泣かせな奴なの」

 なるほど、と溢したあとで私は心配そうに「女の敵ね」と両手を擦り合わせるクレアに向き直る。

「でも、私は大丈夫よ。子供が居るもの」
「あら?そうなの?」
「うん。三歳ですごく可愛いの。だからそんな軽い男にうつつ抜かす暇はないし、恋愛なんて求めてないわ」
「はぁ~、一途な奥様なのね!」
「あ……夫は…」

 否定をしようとしたところで、行動内容を確認しに行っていたフィリップとフランが戻って来た。

 今日は班ごとに区域を分けて海の中を散策するらしい。あまり泳ぎに自信がある方ではないので、ピリッと身体が緊張する。魔術師のラメールが水中で息が続くカプセルを作ってくれたようで、私たちは配られた小さなカプセルを水で流し込んだ。


「息が続くのは三時間じゃ。アタシはボートの上で海上からアンタらの行動を見届けるから、もし何か異常があったらすぐに上がっておいで」
「ばーさん潜んねーのか!?」
「アンタがおぶってくれるなら行くよ」

 ニヤッと笑ってダースを突くラメールに一同は失笑する。

 リーダーであるフィリップの提案だけど、ラメールの役割や彼女の年齢を考えても、ボートの上から見張りを行うのは適任と思える。本音を言えば私もボートの上に居たいけれど、仕留めた魔物を浄化する仕事があるから潜水するべきだろう。

 班によって作戦は異なるようで、他の班では聖女も魔術師も共に潜ったり、騎士がバディとなって編成する班もあるようだった。

「よーし!参加料に加えて討伐報酬もガッポリ貰うわよ!行きましょう、みんな!」
「クレアさん、鼓舞は私の役目ですよ」
「あちゃ。ごめんなさーい!」

 私はチラッとフランの動向を盗み見る。
 黄色い双眼は静かに海の奥底を睨んでいた。





◆お知らせ

登場人物紹介をしれっと追加しました。
よろしければご活用ください。

しおりを挟む
ツギクルバナー
感想 11

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

愛されていたのだと知りました。それは、あなたの愛をなくした時の事でした。

桗梛葉 (たなは)
恋愛
リリナシスと王太子ヴィルトスが婚約をしたのは、2人がまだ幼い頃だった。 それから、ずっと2人は一緒に過ごしていた。 一緒に駆け回って、悪戯をして、叱られる事もあったのに。 いつの間にか、そんな2人の関係は、ひどく冷たくなっていた。 変わってしまったのは、いつだろう。 分からないままリリナシスは、想いを反転させる禁忌薬に手を出してしまう。 ****************************************** こちらは、全19話(修正したら予定より6話伸びました🙏) 7/22~7/25の4日間は、1日2話の投稿予定です。以降は、1日1話になります。

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

【完結】二度目の恋はもう諦めたくない。

たろ
恋愛
セレンは15歳の時に16歳のスティーブ・ロセスと結婚した。いわゆる政略的な結婚で、幼馴染でいつも喧嘩ばかりの二人は歩み寄りもなく一年で離縁した。 その一年間をなかったものにするため、お互い全く別のところへ移り住んだ。 スティーブはアルク国に留学してしまった。 セレンは国の文官の試験を受けて働くことになった。配属は何故か騎士団の事務員。 本人は全く気がついていないが騎士団員の間では 『可愛い子兎』と呼ばれ、何かと理由をつけては事務室にみんな足を運ぶこととなる。 そんな騎士団に入隊してきたのが、スティーブ。 お互い結婚していたことはなかったことにしようと、話すこともなく目も合わせないで過ごした。 本当はお互い好き合っているのに素直になれない二人。 そして、少しずつお互いの誤解が解けてもう一度…… 始めの数話は幼い頃の出会い。 そして結婚1年間の話。 再会と続きます。

釣り合わないと言われても、婚約者と別れる予定はありません

しろねこ。
恋愛
幼馴染と婚約を結んでいるラズリーは、学園に入学してから他の令嬢達によく絡まれていた。 曰く、婚約者と釣り合っていない、身分不相応だと。 ラズリーの婚約者であるファルク=トワレ伯爵令息は、第二王子の側近で、将来護衛騎士予定の有望株だ。背も高く、見目も良いと言う事で注目を浴びている。 対してラズリー=コランダム子爵令嬢は薬草学を専攻していて、外に出る事も少なく地味な見た目で華々しさもない。 そんな二人を周囲は好奇の目で見ており、時にはラズリーから婚約者を奪おうとするものも出てくる。 おっとり令嬢ラズリーはそんな周囲の圧力に屈することはない。 「釣り合わない? そうですか。でも彼は私が良いって言ってますし」 時に優しく、時に豪胆なラズリー、平穏な日々はいつ来るやら。 ハッピーエンド、両思い、ご都合主義なストーリーです。 ゆっくり更新予定です(*´ω`*) 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

【完結】勘当されたい悪役は自由に生きる

雨野
恋愛
 難病に罹り、15歳で人生を終えた私。  だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?  でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!  ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?  1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。  ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!  主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!  愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。  予告なく痛々しい、残酷な描写あり。  サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。  小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。  こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。  本編完結。番外編を順次公開していきます。  最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

踏み台令嬢はへこたれない

IchikoMiyagi
恋愛
「婚約破棄してくれ!」  公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。  春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。  そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?  これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。 「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」  ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。  なろうでも投稿しています。

処理中です...