【完結】あなたは優しい嘘を吐いた

おのまとぺ

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第一章 マルイーズの穢れた聖女

05 一日目

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「ああ~二日酔いつらっ!」

 朝からガラガラの喉を摩りながらクレアが呟く。

 どうやら昨日の飲み会は大層盛り上がったようで、クレアが部屋に戻ったのは私が寝付いた後だった。しかし、二日酔いでもしっかり目覚めて参加しているから偉いと思う。

「頭痛だけでも治癒する?」
「んーこの程度で能力使わせられないわ」
「ガハハッ!お前が俺に戦いを挑むからだ!」

 話を聞いていたのか、大男のダースが豪快に笑った。

「うっさいわよ!葡萄酒の産地であるリノス地方出身として、ワインで負けるわけにはいかなかったの!」
「勝てたの?」
「負けたわよ!!」

 思わず尋ねると食い気味にクレアは答える。
 大声を出すとまた頭が痛んだようで、右手でおでこを押さえながらクレアは「そういえばさぁ」と私に向き直った。

「船で何か面白いもの見つけた?フィリップも出掛けなかったらしいけど、おっさんの意見は参考にならないから」
「あはは…… どうだろう。あ、フランにも会ったわ」
「フラン!フランと言えば、すごい話聞いたのよ!」

 急に勢いを増したクレアが私に飛び付いた。

 周囲を見渡して、フランが近くに居ないことを確認するとクレアはそっと私の耳元に顔を寄せる。いったいどんな話が飛び出すのかドキドキしながら私は息を呑んだ。


「彼、すっごい遊び人らしいの」
「え?」
「女たらしって言うのかなぁ。とにかく、フランが参加した討伐には魔物と一緒に廃人になった女が横たわるって聞くから、気を付けてね!」
「えっと…どういう意味?」
「同じ班になったら喰われるってことよ!付き合ったり恋人になる気はないみたいだし、討伐隊が解散したら捨てられるから女泣かせな奴なの」

 なるほど、と溢したあとで私は心配そうに「女の敵ね」と両手を擦り合わせるクレアに向き直る。

「でも、私は大丈夫よ。子供が居るもの」
「あら?そうなの?」
「うん。三歳ですごく可愛いの。だからそんな軽い男にうつつ抜かす暇はないし、恋愛なんて求めてないわ」
「はぁ~、一途な奥様なのね!」
「あ……夫は…」

 否定をしようとしたところで、行動内容を確認しに行っていたフィリップとフランが戻って来た。

 今日は班ごとに区域を分けて海の中を散策するらしい。あまり泳ぎに自信がある方ではないので、ピリッと身体が緊張する。魔術師のラメールが水中で息が続くカプセルを作ってくれたようで、私たちは配られた小さなカプセルを水で流し込んだ。


「息が続くのは三時間じゃ。アタシはボートの上で海上からアンタらの行動を見届けるから、もし何か異常があったらすぐに上がっておいで」
「ばーさん潜んねーのか!?」
「アンタがおぶってくれるなら行くよ」

 ニヤッと笑ってダースを突くラメールに一同は失笑する。

 リーダーであるフィリップの提案だけど、ラメールの役割や彼女の年齢を考えても、ボートの上から見張りを行うのは適任と思える。本音を言えば私もボートの上に居たいけれど、仕留めた魔物を浄化する仕事があるから潜水するべきだろう。

 班によって作戦は異なるようで、他の班では聖女も魔術師も共に潜ったり、騎士がバディとなって編成する班もあるようだった。

「よーし!参加料に加えて討伐報酬もガッポリ貰うわよ!行きましょう、みんな!」
「クレアさん、鼓舞は私の役目ですよ」
「あちゃ。ごめんなさーい!」

 私はチラッとフランの動向を盗み見る。
 黄色い双眼は静かに海の奥底を睨んでいた。





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