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閑話
男爵家当主の手記1◆ロカルド視点
しおりを挟む公爵家令息なんてのは実に良い身分で、何もしなくても女は常に入れ食い状態だった。不足などすることなく、鮮度が落ちたら捨てれば良いだけ。
去る者は追わなくて良い。
じきに新しい魚が向こうから泳いで来るから。
金も女も名誉すら、すべて。この世の有りとあらゆるものは手に入れることが出来た。博物館や美術館に大金を寄付すれば「慈悲深い貴族令息」の評価が付与される。そうして作った自分の武装には、実に色々な女が群がった。
ぜんぜん良い。大歓迎だ。
金目当て、家柄目当ての女たちは分かりやすく扱いやすい。気が向いたら呼び出して、飽きたら放り出した。情なんて掛けなくてもどうせ気付きやしない。
学園に入学してすぐに婚約者が充てがわれたが、興味はなかった。それまで同様に遊び呆ける息子に、おそらく両親も気付いていたと思うが、何も注意はされなかった。
そんな中、父であるダルトンが捕まった。
友人であるルシウス・エバートンはいつの間にやら父の違法行為を緻密に調査し、証拠を掴んでいたのだ。あろうことかこの友人は、いつからか自分の婚約者に惚けていたようで、気付いた時には友人も婚約者も失っていた。
それだけに留まらず、父の逮捕を機に、それまで群がっていたハエのような連中は呆気なく自分の元を去った。
終焉はあまりに突然だった。
彼女に出会ったのは、死に場所を探している途中のこと。
王都に居ても人の目が厳しく、入ってくる金もない中で屋敷を維持することは困難だった。数年間は親戚の助けなども借りながらなんとか持ち堪えたが、それももう限界。継母は早い段階で落ちぶれた家柄に見切りを付けたので、もう家族も居ない。
べつに死んでも良いと思った。
むしろ、消えてしまった方が良い。
老いて孤独に死ぬよりはまだ、若いうちに自死を選んで息絶えた方が幾分か美しい気もする。ふらふらと当てもなく乗り込んだバスは、見知らぬ町へと俺を運んだ。
終点にあったのは、ヴィラモンテという名前の古臭い田舎町。
時間も遅いので宿を探したが見つからず、凍える身体を抱えて歩く先に突然、黒い看板をぶら下げた夜の館が表れた。初めは何の店か分からず警戒したが、受付で話を聞くとどうやら風俗店らしい。
ちょうど暇をしているという女を指名した。
そこで、出会ったのがアンナだった。
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