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第二章 シルヴェイユ王国編
43.殿下、それは一升瓶では?
しおりを挟む「え、バルバソ王国の…?」
「はい。ブリジット・ハーレイです」
「あ……ようこそいらっしゃいました。皇太子のロイ・グーテンベルクです。シルヴェイユ王国を訪問されるという話は聞いていたが、まさかこんなに早くに到着されるとは…」
「ロイ様に会いたい気持ちが逸ったのです。かなり飛ばしていただいたので、父は今車酔いで滅入ってますの」
ふふふっと鈴が転がるような声音で女は笑う。
なるほど、品のある笑い方や王女という位からしておそらく彼女はロイの婚約者なのだろう。ベッドの下で息を潜めながら、ズキンズキンと痛み出す心臓に目を閉じた。
この世界に来たところで、ロイには婚約者が居ると分かっていたはずなのに。気持ちを先行させて神頼みした結果、このザマだ。転生者として超絶美少女に乗り移るならともかく、私は私の身体のまま。
「あら、こちらは……?」
王女が不思議そうな声を上げた。
そのままカツカツとヒールの音が響いてベッドのすぐ側までやって来る。いつバレるかと心臓が飛び出る思いで、文字通り息を止めた。ベッド下から見えるのは可愛らしいい小さな足にレースの靴下、そして妖精が履くようなピンク色のハイヒール。
王女の手が伸びた先にあるものを見て私は息を呑んだ。
そこにあったのは「九州名物!鬼婆の嫁入り」と書かれた一升瓶。そう、これは私がマッチングアプリで出会った男からもらった出張土産だ。どうしてここに?もしかして一緒に転生してきた感じ?
「あ!ああ、これは…異国から届いたんです、つい先ほど」
「あらまぁ。異国から?」
「珍しい酒らしいので王女もまた是非機会があれば……」
「それでは今日の夕食時にいただきませんか?異国のお酒なんて初めてです。楽しみにしていますね」
「………それはそれは」
狼狽えるロイの顔が想像できる。非常に申し訳ない思いでいっぱいになりながら、早く王女が退場してくれることを願った。というのも、そろそろ手足が痺れて来たので。
「私、両親に夕食のことを話して来ます。ロイ様のご両親も一緒に食事されますわよね?」
「あ…そうですね、伝えておきます」
「異国のお酒でもてなしてくださるなんて粋な計らい、どうもありがとうございます」
「いえ、それほどでも…」
「ロイ様はやっぱり私の想像通りの素敵な方ですわ」
ベッド下のわずかな隙間から見えるブリジット王女の足が背伸びをするように爪先立ちになった。
同時に、彼女の隣に立つロイが怯むように後退する。静かな部屋の中で、私はただただ物音を立てないことだけに集中した。近付く二人の男女が何をしているかなんて、考えないようにして。
「ごめんなさい、つい……でも婚約者なので頬にキスするぐらいは許してくださいますか?」
「ブリジット様、」
天真爛漫な王女はヒラヒラと蝶が舞うように去って行った。呆然とした顔のシルヴェイユ王国の皇太子と、ベッド下で憂鬱な顔をする異国の女を残して。
波乱の異世界生活はまだ、幕を開けたばかり。
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