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第一章 異世界からきた皇太子編
32.殿下、それは夏祭りです
しおりを挟む「それで今日のデートはどうだったんだ?」
「んぶっ」
痛いところを突いてくるロイの質問に、私は齧っていたリンゴ飴を詰まらせそうになった。
私たちが到着した頃にはもう祭りは終盤に差し掛かっていて、浴衣を着た人々は散り散りに家へと向かっていた。少し残念に思いながら、なんとか開いている屋台を見つけてリンゴ飴と綿菓子を買ったは良いものの。
「デートって言いましたっけ?」
「見りゃ分かる。えらい気合いの入れようだったしな」
「……意地悪な言い方するんですね」
「俺より良い男は居たか?」
冗談混じりにそんなことを言って笑うロイを睨んで、私は溜め息を吐いた。
「運命の王子様はそう簡単に見つかりません」
「運命なんて、子供騙しだ」
「……?」
「欲しいものは自分で選び取らないと手に入らないし、本当の正解は運命とやらのレールに乗ってこない場合もある」
「……貴方にしては難しいこと言いますね」
珍しく真剣な顔で話すロイに小首を傾げていたら、ふわふわの綿菓子を押し付けられた。「甘すぎる」と顔を顰めるから仕方なく、片手にリンゴ飴、反対の手に綿菓子という欲張りスタイルで私は公園を闊歩する。
少し先を歩くロイは、Tシャツにジーンズといった出立ちで、側から見たら本当に違和感がない。シルヴェイユ王国という、聞いたこともない国の皇太子だなんて、誰も想像がつかないだろう。
「ラーメンが良いな、ラーメン!」
「えー今日の気分はお魚です」
「じゃあ、寿司!」
「電車乗りたくないから却下」
こんな些細な口論すら、楽しんでいる自分がいる。
ロイに教えてあげたらどんな顔をするだろう。「誰よりも貴方と居る時間が楽しい」と。叶うならば、ずっと続けば良いと思っていると。
「メイ……?」
「今日は牛丼です、はい決定!」
「じゃあ俺はあの辛いやつを載せてくれ!」
キムチを所望する現実世界慣れした王子を笑い飛ばしながら、私はまたリンゴ飴を齧った。白雪姫は王子様のキスで夢から目覚めるけれど、私は自分の力で起き上がらなければいけない。
毎日少しずつ出会いを求めて行動を取らなければ。1億人と少しが住むこの国で、人口の約半数が男だとしたら、恋人を見つけるなんて難しいことではないような気もする。すべてはタイミングと積極性。
「ロイさん、私頑張りますから…!」
心配しないで、と笑い掛けるとロイは何も言わずにポカッと私の頭を軽く叩いた。ぶっきらぼうな彼の応援に応えなければいけない。そして、最期に送り出す時はきっと笑顔で。
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