異世界から来た皇太子をヒモとして飼うことになりました。

おのまとぺ

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第一章 異世界からきた皇太子編

29.殿下、それは宅配ピザです

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 思い立ったが吉日。

 初動の早さに定評のある私は、今回も猪突猛進のごとくマッチングアプリを何個かダウンロードして、ちまちまとメッセージを送ってみた。連休中に暇な男性が意外にも多いようで、何人かからすぐに食事の誘いが入った。


「ロイさん、今日は出掛けるのでお留守番お願い出来る?」
「晩ごはんは?」
「夜までには帰ります。昼は何か頼むけど希望は?」
「……ピザ」
「了解です」

 ピザの配達を予約して、洗面所へ行って化粧を直した。昼食に誘ってくれたのは、同世代の会社員の男性。都内に新しくできたハンバーガーショップで待ち合わせて、昼食を食べた後に水族館、という王道コースだけれど、暑い夏に館内デートはありがたいと思った。

 鏡を見ながらイヤリングの位置を調整する。
 大丈夫、焦ってるわけじゃない。私だっていつまでもロイに甘えているわけにはいかないのだ。彼が異世界に帰るまではその世話係として立ち回りたいけれど、婚約者が待つ彼と違って私には何もない。魔法が解けたら、残るのはこの1LDKの部屋といつもの生活だけ。

 いずれ訪れるその時を、私は笑顔で迎えられる気がしない。だから、ダメージを最小限に抑えるためにも、何か心の拠り所がほしいと考えた。年齢的に結婚も大きな問題としてのしかかっているし、実家の両親が未だ独り身で生活する自分のことを心配しているのは痛いぐらい伝わっていた。


「じゃあ、12時になったらピンポンが鳴るので、受け取ってくださいね」
「おう」
「行ってきます」
「メイ、」

 振り返った私の顔を見てロイは非難するような目を向ける。

「随分と洒落込んで行くんだな」
「……ええ、少しだけ」

 しどろもどろに答える私を揶揄からかうためか、ロイは立ち上がって品評するように視線を動かした。宅配ピザで誤魔化して、一人で部屋に置いて行くことを怒っているのだろうか。

 さっそくデートを決め込む私をフットワークの軽い女だと笑いたい?それならそれで構わない。

「何ですか?何か言いたいことでも…?」

 睨むように見上げると、ロイの手が伸びて来て私の耳元に触れた。スッと擦るように撫でられた耳たぶが真っ赤になっていないことを切に願う。

「左右でズレてる。右がもう少し上だ」
「……っ、駅のお手洗いで直します!」
「ああそう。気を付けて」

 それっきりまたテレビの前に戻って行くから、拍子抜けしながら家を出た。魂の抜けたようにフラフラと歩いていたら電柱に激突しそうになる。

 しっかりして、森永メイ。
 ロイの距離感がおかしいのは今に始まった話じゃない。もともと人のベッドに入ってくるような男だ。彼の国ではヨーロッパの国々よろしくキスが挨拶みたいなものかもしれないし、耳を触られたぐらいで赤面するなんて子供染みてる。


 大きく息を吐いて地下鉄への階段を駆け降りた。

「ズレてないし……」

 慌てて寄ったトイレの鏡を確認しても、小さな花のイヤリングは左右対称で揺れていて、私は意地悪なロイを恨みながら待ち合わせ場所までの乗り換え方法を調べ出した。

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