上 下
25 / 51
第一章 異世界からきた皇太子編

24.殿下、それはジャンケンです

しおりを挟む


 目が覚めたら、ベッドの上だった。

 ガバッと上半身を起こして辺りを見渡す。ここは私の部屋ではない。最後に覚えているのは、プールサイドで無様に転がる自分の姿。ホテルのスタッフがここまで運んでくれたのだろうか。

 広いベッドはキングサイズかと思うぐらい大きい。窓の外に見えるのはキラキラと輝くオーシャンビューで、一時的と言えどもこのような部屋に案内してくれたスタッフの親切心に感謝した。太陽の沈み方からして、もう夕方に差し掛かっているようなので、早く帰る支度をしなければ。

 フラつく身体を支えつつ、ベッドを降りると、部屋の扉が開いてロイが入って来た。どういうわけか、館内着のようなものを着ている。


「……ごめんなさい、少し眠っちゃって…」
「まだ起き上がらなくて良い」
「でも、帰らなくちゃ。家までは距離がありますし」
「今日は此処に泊まろう」
「…え?」

 私は耳を疑った。いつの間にそんな話になった?
 疑わしい目を受けてか、ロイはポツポツと私が倒れた後に施設のスタッフと交わした会話について話し出した。

 彼が語るには、今日はそこまで混んでいないということで空室がたまたまあったらしい。私の体調や、いつ目覚めるのか分からないという点から、念のために宿泊を勧めるスタッフの助言に従ってロイは宿泊を選択したと言う。

 もうこの際、宿泊するというのは良い。
 確かに今から2時間以上電車に揺られるのは厳しい。

 問題は、ベッドが一つしかないこと。いくら私が彼の飼い主で、ロイが私に女性的な魅力を微塵も感じていないにしても、妙齢の男女が一つのベッドで眠るなんてどうだ。寝起きにロイが隣に居るどころの騒ぎではない。夜から朝までずっと一緒。「おやすみ」から「おはよう」までずっと。

 それって、どうなのだろう。

 自意識過剰と言われたらそれまでだけれど、さすがに問題ではないだろうか。だって、私はフリーだから置いといて、ロイにはシルヴェイユ王国で彼を待つ婚約者が居る。どんなご令嬢か知らないけれど、私だったら、自分の婚約者が異性と同衾するなんて大激怒待ったなしだ。


「あの、ロイさん…ベッドが一つしかないんですが」
「俺は床で寝る」
「え?」
「お前は病人だろう?俺は床で良い」

 カーペットが敷かれているので、そこまで痛くないかもしれないが、仮にも王子であるロイにそんなことを強いるのは悪い気もする。痛む頭を片手で支えながら、悶々と思い悩んだ。

「分かりました、公平にジャンケンにしましょう」
「……ジャンケン?」
「グー・チョキ・パー、三種類のうちで好きなのを出してください。勝った方がベッドです」
「阿呆らしいこと言うな。黙ってそこで寝てろ」

 少し怒ったようなロイの言い方に、私は渋々と頷いた。

 こういうところでムキになって、遣わなくて良い気を遣うところが、可愛げないと評価される原因なのだろう。素直に相手の好意に甘えれば良いと分かっていても、どうしてか上手く出来ない。私の遠慮が相手を困らせることだって多々あるのに。

「……ごめんなさい。ありがとう、ロイさん」
「おう、さっさと元気になれよ」

 ぶっきらぼうに言いながら、大きな手を私の頭の上に置く。そのままグシャグシャと撫で回すから、髪の毛が鳥の巣のようになった。

 私は手櫛で乱れた髪を治して、立ち上がる。「夕食付きだ」と嬉しそうな顔で報告してくるシルヴェイユ王国の王子に断りを入れて、とりあえず水着を脱いでシャワーを浴びることにした。

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

異世界に召喚されたけど、従姉妹に嵌められて即森に捨てられました。

バナナマヨネーズ
恋愛
香澄静弥は、幼馴染で従姉妹の千歌子に嵌められて、異世界召喚されてすぐに魔の森に捨てられてしまった。しかし、静弥は森に捨てられたことを逆に人生をやり直すチャンスだと考え直した。誰も自分を知らない場所で気ままに生きると決めた静弥は、異世界召喚の際に与えられた力をフル活用して異世界生活を楽しみだした。そんなある日のことだ、魔の森に来訪者がやってきた。それから、静弥の異世界ライフはちょっとだけ騒がしくて、楽しいものへと変わっていくのだった。 全123話 ※小説家になろう様にも掲載しています。

【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~

胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。 時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。 王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。 処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。 これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。

【完結】恋を失くした伯爵令息に、赤い糸を結んで

白雨 音
恋愛
伯爵令嬢のシュゼットは、舞踏会で初恋の人リアムと再会する。 ずっと会いたかった人…心躍らせるも、抱える秘密により、名乗り出る事は出来無かった。 程なくして、彼に美しい婚約者がいる事を知り、諦めようとするが… 思わぬ事に、彼の婚約者の座が転がり込んで来た。 喜ぶシュゼットとは反対に、彼の心は元婚約者にあった___  ※視点:シュゼットのみ一人称(表記の無いものはシュゼット視点です)   異世界、架空の国(※魔法要素はありません)《完結しました》

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈 
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

あなたが残した世界で

天海月
恋愛
「ロザリア様、あなたは俺が生涯をかけてお守りすると誓いましょう」王女であるロザリアに、そう約束した初恋の騎士アーロンは、ある事件の後、彼女との誓いを破り突然その姿を消してしまう。 八年後、生贄に選ばれてしまったロザリアは、最期に彼に一目会いたいとアーロンを探し、彼と再会を果たすが・・・。

公爵令嬢 メアリの逆襲 ~魔の森に作った湯船が 王子 で溢れて困ってます~

薄味メロン
恋愛
 HOTランキング 1位 (2019.9.18)  お気に入り4000人突破しました。  次世代の王妃と言われていたメアリは、その日、すべての地位を奪われた。  だが、誰も知らなかった。 「荷物よし。魔力よし。決意、よし!」 「出発するわ! 目指すは源泉掛け流し!」  メアリが、追放の準備を整えていたことに。

果たされなかった約束

家紋武範
恋愛
 子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。  しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。  このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。  怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。 ※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。

いつかの空を見る日まで

たつみ
恋愛
皇命により皇太子の婚約者となったカサンドラ。皇太子は彼女に無関心だったが、彼女も皇太子には無関心。婚姻する気なんてさらさらなく、逃げることだけ考えている。忠実な従僕と逃げる準備を進めていたのだが、不用意にも、皇太子の彼女に対する好感度を上げてしまい、執着されるはめに。複雑な事情がある彼女に、逃亡中止は有り得ない。生きるも死ぬもどうでもいいが、皇宮にだけはいたくないと、従僕と2人、ついに逃亡を決行するのだが。 ------------ 復讐、逆転ものではありませんので、それをご期待のかたはご注意ください。 悲しい内容が苦手というかたは、特にご注意ください。 中世・近世の欧風な雰囲気ですが、それっぽいだけです。 どんな展開でも、どんと来いなかた向けかもしれません。 (うわあ…ぇう~…がはっ…ぇえぇ~…となるところもあります) 他サイトでも掲載しています。

処理中です...