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第一章 異世界からきた皇太子編
24.殿下、それはジャンケンです
しおりを挟む目が覚めたら、ベッドの上だった。
ガバッと上半身を起こして辺りを見渡す。ここは私の部屋ではない。最後に覚えているのは、プールサイドで無様に転がる自分の姿。ホテルのスタッフがここまで運んでくれたのだろうか。
広いベッドはキングサイズかと思うぐらい大きい。窓の外に見えるのはキラキラと輝くオーシャンビューで、一時的と言えどもこのような部屋に案内してくれたスタッフの親切心に感謝した。太陽の沈み方からして、もう夕方に差し掛かっているようなので、早く帰る支度をしなければ。
フラつく身体を支えつつ、ベッドを降りると、部屋の扉が開いてロイが入って来た。どういうわけか、館内着のようなものを着ている。
「……ごめんなさい、少し眠っちゃって…」
「まだ起き上がらなくて良い」
「でも、帰らなくちゃ。家までは距離がありますし」
「今日は此処に泊まろう」
「…え?」
私は耳を疑った。いつの間にそんな話になった?
疑わしい目を受けてか、ロイはポツポツと私が倒れた後に施設のスタッフと交わした会話について話し出した。
彼が語るには、今日はそこまで混んでいないということで空室がたまたまあったらしい。私の体調や、いつ目覚めるのか分からないという点から、念のために宿泊を勧めるスタッフの助言に従ってロイは宿泊を選択したと言う。
もうこの際、宿泊するというのは良い。
確かに今から2時間以上電車に揺られるのは厳しい。
問題は、ベッドが一つしかないこと。いくら私が彼の飼い主で、ロイが私に女性的な魅力を微塵も感じていないにしても、妙齢の男女が一つのベッドで眠るなんてどうだ。寝起きにロイが隣に居るどころの騒ぎではない。夜から朝までずっと一緒。「おやすみ」から「おはよう」までずっと。
それって、どうなのだろう。
自意識過剰と言われたらそれまでだけれど、さすがに問題ではないだろうか。だって、私はフリーだから置いといて、ロイにはシルヴェイユ王国で彼を待つ婚約者が居る。どんなご令嬢か知らないけれど、私だったら、自分の婚約者が異性と同衾するなんて大激怒待ったなしだ。
「あの、ロイさん…ベッドが一つしかないんですが」
「俺は床で寝る」
「え?」
「お前は病人だろう?俺は床で良い」
カーペットが敷かれているので、そこまで痛くないかもしれないが、仮にも王子であるロイにそんなことを強いるのは悪い気もする。痛む頭を片手で支えながら、悶々と思い悩んだ。
「分かりました、公平にジャンケンにしましょう」
「……ジャンケン?」
「グー・チョキ・パー、三種類のうちで好きなのを出してください。勝った方がベッドです」
「阿呆らしいこと言うな。黙ってそこで寝てろ」
少し怒ったようなロイの言い方に、私は渋々と頷いた。
こういうところでムキになって、遣わなくて良い気を遣うところが、可愛げないと評価される原因なのだろう。素直に相手の好意に甘えれば良いと分かっていても、どうしてか上手く出来ない。私の遠慮が相手を困らせることだって多々あるのに。
「……ごめんなさい。ありがとう、ロイさん」
「おう、さっさと元気になれよ」
ぶっきらぼうに言いながら、大きな手を私の頭の上に置く。そのままグシャグシャと撫で回すから、髪の毛が鳥の巣のようになった。
私は手櫛で乱れた髪を治して、立ち上がる。「夕食付きだ」と嬉しそうな顔で報告してくるシルヴェイユ王国の王子に断りを入れて、とりあえず水着を脱いでシャワーを浴びることにした。
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