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28 積極性★
しおりを挟む生活は何も変わらず、続いた。
変化があったとすれば、オリヴィアはネロとの関係について、いちいち色んなことを心配したり、冷静に分析することをやめた。
皇帝が変態であろうと、使用人に妙な衣装を着せ替えて愉しむ特殊な趣味を持とうと、お金さえもらえれば別に良い。知ったことではない。だって他人なのだから。
だから、オリヴィアも楽しんでいるフリをした。
慣れとは恐ろしいもので自分を偽るのも上手くなった。
「………っ、あ、それ、きもちいい、」
「ここか?」
「んっ、もっと奥まで……あんっ」
「あぁ、オリヴィア………」
相手が喜ぶような反応を示して場を盛り上げるために声を出す。今のオリヴィアは娼婦よりもよっぽど娼婦らしい。大層な金額を貰っているのだから、それぐらいの奉仕はして当然だろう。
何度も身体を重ねれば、ネロがすきなこと、気持ち良く思うポイントなど分かってきた。彼自身が「たかが飯炊き女」と評するオリヴィア相手に、余裕のない表情を見せることに優越感すら覚えた。
心の中では、ざまぁみろと思っていた。
抱かれながら、自分が抱いている気になって。
「それにしても女騎士なんて、変わった衣装ですね?」
「世には同じような趣味を持つ者が五万と居るんだ。見た目ほど重くないところが良い」
自分の衣装を見下ろしてみる。
確かに凝ったデザインのわりに軽い。
ガチャガチャ音を立てる偽物の剣は邪魔だから抜いておこうかと手を掛けたら「余所見をするな」と注意された。ナカに入ったものを探るようにネロの手が腹の上を撫でる。
「っあ、だ、団長……ッ!」
「騎士のくせに馬ではなく男に乗って喘ぐとはな……剣の腕はイマイチだが、こっちはなかなか良い筋だ」
「やぁっ、あっ、言わないで、」
なんじゃそりゃ、という何億回目のツッコミを飲み込んでオリヴィアはネロの肩にしがみつく。
何だって良い。どうだって良い。
必要とされている間は価値があるということ。
女騎士だろうがナースだろうが。番のウサギだろうが教師だろうが。豚の着ぐるみを着ろと言われた時は眩暈がしたけれど、二回戦に入る頃には気にならなくなった。
「団長、んっ、キスを……」
涙目で強請れば与えてくれる。
我が君主の望むままに姿を変えれば、ネロはオリヴィアを抱いて、満足そうに笑ってくれる。「可愛い」と褒めてくれて、愛されているような気持ちになった。
オリヴィアは騎士でも教師でもメイドでもなく、ただの王宮の飯炊き女だ。それでも、二人で居る間は何かネロにとっての特別になれた気がした。
「………っ、好きです」
「オリヴィア?」
「こういう台詞もたまには良いでしょう。団長、好きです……もっといっぱい、ぎゅって、」
言い終わらないうちに強く抱き竦められる。
これで良い。これこそがオリヴィアの幸せなのだ。
最も大きな変化は、誰にも気付かれてはいけない。
ネロに対するこの気持ちは、誰にも、絶対。
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