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25 夜遊び
しおりを挟むネロとの奇妙な関係にも徐々に慣れて、少しずつ日常の一部になってきた頃。オリヴィアはジャスミンの誘いで休みの日に若い衛兵たちと出掛けることになった。
なにぶん貴重な休みだ。
正直言うと、部屋でダラダラして身体の疲れを回復したかったけれど「もう快諾した」と言われればそうもいかない。王都に新しくできた飲み屋に遊びに行こう、ということで仕方なく夜の街に繰り出した。
「たまにはパーッと遊ばなきゃね!」
「ジャスミンはいっつも楽しそうじゃないの」
「まぁね!だけど街の空気の新鮮なこと!王宮はやっぱり仕事場と直結しているし、どこか自分の部屋でも休まらないっていうかさー」
「そうねぇ……」
「それより今日のメンバーはどう?貴女のことを良いって言ってたルカエルも居るでしょう?」
「それはお世辞だっては、」
オリヴィアは溜め息を吐いて少し前を歩く黒髪の青年に目を向ける。
短く整えた清潔感のある髪型や、広い肩幅には男らしさを感じる。いかにも好青年といった風貌は、きっと女受けも良いのだろう。どこぞの皇帝のように変な性癖は持ち合わせていなさそうだ。
(………陛下、私のことを探していないかしら?)
最後に呼ばれたのは六日前だから、そろそろ一週間が過ぎる。特に曜日は決めずに彼の気持ちが赴くままに招集が掛かるため、オリヴィアはいつもソワソワしていた。
本当に勝手な男だと思う。
あの変態性を知ったら泡を吹く令嬢が何人居ることか。
こんな場所に来てまでネロのことを悶々と考えてしまうのは良くないと、オリヴィアはぎゅっと目を閉じる。六月に入って暑い日が続くものの、雨が降った後の夜風は冷たく、スカートの裾を握り直した。
「あ、店に到着したみたい!行きましょう」
ジャスミンに呼ばれて顔を上げる。
派手なネオンに照らされた飲み屋の看板が見えた。
◇◇◇
「ビールを頼んだのは誰ー?重たくて持てないわ」
「おっ!俺のだ!」
「それでどこまで話したっけ?」
「だからメイドのシェリーと執事長が不倫してるって話だよ。証拠は確かにあるのか?」
「…………、」
やいやいと盛り上がる場の中で、ぽつんと一人。
オリヴィアはとりあえず頼んだ酒をちびちび飲む。
明るいジャスミンはすでに衛兵たちに囲まれていて、矢継ぎ早に繰り出される質問に笑顔で受け答えしていた。他の女の子たちもそれぞれが相手を見つけて楽しそうに談笑している。
(うーん……どうしよう)
持ち前のバカ真面目なところが出ないように、何か気の利いた話を探す必要がある。それで、暇そうな男の子に話し掛けて、お開きになるまで話を繋げられれば良い。
「君がオリヴィア?」
「わぁっ!」
ノーガードだった背中にひたっと他人の手が触れて、オリヴィアは思わず飛び上がった。
「ごめん、驚かすつもりはなかったんだ。ただちょっと話がしたくてさ。俺の名前はルカエル、ジャスミンから何か話は聞いてる?」
オリヴィアはぶんぶんと首を振る。
聞いた話はあったが持ち出す勇気はない。
「そっか。実は別邸で見かけた時から気になっててね、話してみたいと思っていたんだ」
「わ、私と……?」
「そうそう、君と。だから今回は君を呼んでくれって僕がジャスミンに頼んだんだよ。本当に来てくれると思わなかったから、ビックリしてる」
嬉しいな、とニコニコ笑うルカエルの笑顔が眩しくて、オリヴィアは目を細めた。
なんたる好青年。
光る後光が見えそうだ。
それから二人は並んで座って、様々な話をした。オリヴィアはあまり話が上手な方ではなかったけれど、ルカエルが上手く返してくれるから、会話は弾んだ。
周囲の雰囲気もあって、オリヴィアは機嫌良く酒を飲み進めた。ルカエルもそれを止めなかったし、むしろ自分よりも詳しい彼に倣って飲んだことのない異国の酒にまで手を出した。
そして、完全に酔っ払った。
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