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15 飯炊き女は先生になる1★

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 ネロからの三度目の呼び出しがあったのは、六ヶ国会議が目前に迫った土曜の夜のことだった。

 月曜日にエーデルフィア帝国に到着する各国の要人のことを思って料理人たちが緊張を高める中、オリヴィアはまたもや一人で歩いていたところを皇帝に拉致された。

 それは文字通り拉致で、栄養学の本を読み耽りながらてくてくと別邸への道を進んでいたら、目の前に大きな壁が立ちはだかったのだ。その壁はむんずとオリヴィアの首根っこを掴んで自分の寝室へと引っ張って行った。

 そして、今に至る。


「風邪は治ったみたいだな」

「………おかげさまで」

「お前に言われたことを俺なりに考えてみたんだが」

「はい……?」

「やはり、夜伽であるからにはもう少し協力してほしい。俺はオリヴィアのことを気に入っている。だからこの前みたいに不完全燃焼で終わるのは嫌なんだ」

「気に入ってるって……それはポルノ的な意味ですよね?」

「まぁ、そうとも言える」

 オリヴィアは思わず自分の身体を抱き抱えてネロに軽蔑の視線を送る。

 明後日の朝には他国のお偉い様方を迎えるというのに、我が君主は随分と呑気なものだと思う。聞くところによると、来賓の中には彼の婚約者であるソフィア王女も含まれるのだ。

 最愛の婚約者が来るのにサクッと使用人で欲処理を済ませておこうというその心が信じられない。少なくとも、オリヴィアにはまったく理解できない。


「今日はちょっと迷いがあってな、前回失敗した番プレイの続きをやっても良いんだが、新しいことにも挑戦したい」

「新しいこと……?」

「アカデミーの入学式に呼ばれて興味が湧いた女教師の設定も捨てがたいんだ。背徳感があって良い」

「陛下、今更ですけど陛下ってシチュエーションプレイでしか勃たないタイプですか?」

「もちろんお前が教師で俺が生徒役で頼む」

 こちらの質問を全無視でネロは大真面目な顔を向ける。

 差し出したのは、これまたタイトな黒のスカートと控えめなフリルが付いた白いブラウスで、オリヴィアは彼がいったい何処でこういった衣装を仕入れてくるのかと頭を悩ませた。

 嬉々として送り出すネロに根負けして、いつものように洗面所へと入る。ご丁寧に編みタイツまで用意されていたので、汗ばむ脚に必死になって履かせた。



「………陛下、」

 戻ってみれば鉄仮面と揶揄される顔がパァッと輝く。
 お願いだからどうか以前の皇帝に戻ってほしい。

 威厳、尊厳、他にも上に立つ者が持つべき何かを完全に捨て去ってネロはジロジロと無遠慮にオリヴィアを眺めた。毎度こちらの想像する変態指数をゆうに超えてくるからすごいと思う。

「あぁ……良い」

 伸びて来た手がオリヴィアの髪を撫でる。

 調理の際は衛生のためにまとめていた髪を、なんとなく解いて垂らしていた。その方が大人っぽく見えるだろうと思ったし、彼の言う女教師に近付けそうで。

(違うわ、これはべつに……)

 ご機嫌取りをしたいわけじゃない。
 ただ、お金をもらう以上は役目を全うしたいだけ。


「オリヴィア………」

 名前を呼ばれて顔を上げると、熱の籠もった青い瞳が静かに揺れていた。

 そっと目を閉じてみる。
 それは始まりの合図のようなもので、ネロはオリヴィアの腰を抱き寄せて自分の腕の中に閉じ込めた。ドッと心臓が跳ね上がる。好意云々がなくても、やはり慣れないし緊張はする。

「今日は先生と呼んでも良いか?」

 額に口付けながらそんなことを聞くので返答に困った。

「………私はなんと呼べば?」

「ネロで頼む。陛下は流石に興醒めだ」

「分かりました、ネロくん。 ……っひゃ!?」

 返事を返したオリヴィアの身体が軽々と抱き上げられてベッドの上に転がされる。驚いて起き上がろうとする前にネロが上から両手を押さえ込んだ。

「ネロくん!」

「どうした?」

「や…優しくしてください」

 恐る恐る下から反応を窺うと、ネロは目を丸くしていた。

「っは、お前はいつも期待以上だ」

「え?」

「努力する。怖くなったら教えてくれ」

 珍しく優しい声音にオリヴィアが頷くと、皇帝は少しだけ笑みを浮かべてこちらを見る。遠慮がちに伸びて来た手がブラウスのボタンを外していく。

 露わになった双丘を包み込むようにネロは触れた。

「………っん、ふぅ…」

「気持ち良いですか、先生?」

「け、敬語…!?」

「お前は教師なんだから当たり前だろう」

「はい……」

 いちいち止めるな、と言わんばかりの厳しい双眼にオリヴィアは再び推し黙る。眼光は鋭くとも、その両手はやわやわと優しく胸の形を変えた。

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