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01 三ヶ月記念日
しおりを挟む雪の降り積もる冬の日。
ダコタに初めての恋人が出来た。
彼の名前はエディ・ウィンカム。魔法学校で同級の赤毛の男の子だ。スポーツが得意で、ダコタは体育の授業で男女が分かれて競技をするときに、こっそりとエディの活躍を見守ることが好きだった。
だから、想いを寄せていた彼が自分に告白して来た時は、本当にびっくりして夢かと思った。大切な友人のルイーズにまず報告して、次に愛する両親に伝えた。母はダコタを抱き締めて「貴女もとうとうパパとママ以外の人からの愛を受け取るのね!」と喜んだ。
春の植物が芽吹く三月のある日こと。
ダコタはカフェのテラス席でエディを待っていた。
今日はエディとダコタが付き合って三ヶ月の記念すべき日なのだ。
一ヶ月記念日には二人で水族館に行って、エディはダコタに小さなイルカのぬいぐるみを買ってくれた。それからというもの、ダコタは毎日カバンにイルカを入れて登校している。イルカを持っていると、なんだかエディがいつも一緒に居るみたいだから。
先月行われた二ヶ月記念日は、特別なものになった。
エディはダコタに泊まりでの旅行を提案してくれて、二人は列車に乗って王国の端にあるレモア岬まで行った。レモア岬の朝焼けを恋人同士で見ると永遠に結ばれるという言い伝えがあって、エディはダコタを抱き締めて「ずっと君を愛するよ」と言ってくれた。
そして、今日は待ちに待った三ヶ月記念日。
この日をとても楽しみにしていた。ママもパパも朝からソワソワしていた。二人が結婚を意識したのは三ヶ月目に入った頃かららしい。ダコタはまだ学生だから結婚なんて遠い未来の話だと思っているけど、ルイーズまでもが「婚約を申し込まれるんじゃない?」と茶化すものだから、こっちまですっかりその気になってしまった。
二週間後には魔法学校の創立記念祭も迫っている。ダコタはもちろん恋人であるエディのパートナーとして出席する予定で、ダンスだって二人で時間を合わせて練習していた。
冷たい風がスカートを揺らす。
目線の先に見慣れた赤毛が見えてダコタは立ち上がった。
「エディ!」
全力で手を振ってニコニコと笑顔を向ける。しかし、愛する人はその姿が見えないのか、どこか暗い顔でコンクリートの道路を睨んだまま席まで歩いて来た。
「エディ、体調でも悪いの?顔色が変だわ」
「いや……身体はいつも通りなんだ」
「じゃあ寝不足かしら?頭が重い?」
「そういうわけでもない」
心配になって額で熱を測ろうとしたダコタの右手を、エディはハッとしたように払った。
「エディ……?」
その反応に驚くダコタをエディが見下ろす。
見たことのない冷たい目をしていた。
「悪かった、ダコタ。どうやら僕は魅了に掛かっていたらしい……」
「え?」
「分かるだろう?関係を解消したいんだ。君のことをもう愛することは出来ないから」
ダコタには分からなかった。
エディはこれ以上ここにとどまる気持ちはないようで、申し訳なさそうに頭を下げて颯爽とその場を去った。三月の風がザッと吹いて枯れた葉っぱがその後を追う。
エディの言うことは理解出来なかったけれど、ダコタには一つだけハッキリ知ったことがある。
三ヶ月の時を過ごした恋人は自分の元を去った。
愛に溢れた短い月日は、すべて幻だったのだ。
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