上 下
18 / 22
報告書 1

日報 17

しおりを挟む

「ぬおぅりゃあぁぁぁぁっ!」

 バーサーク・ボアの拳を受け止めた左腕に力を込めて、一気に押し返すキルマオー。

ーー「ブッ!ブゴォオッ⁉︎」ーー

 その勢いは凄まじく、バーサーク・ボアの巨体がタタラを踏み、大きく後ろへと後退する。

 自分より遥かに小さな存在に力負けしたことが信じられなかったのだろう。驚愕に染まった目を大きく見開いて、驚きの声を上げるバーサーク・ボア。

「おお⁉︎ 本当にパワーが上がってるじゃんっ!」
『だから言ったのである!今や、この程度の力でのゴリ押ししか出来ぬようなケダモノなど、相手にもならないのである。何だったら【魔装鎧】を解除してみるといいのである。全然余裕なはずなのである!』
「ほお…!さっきブッ飛ばされた時はパワーだけなら【イーヴィル】の怪人並だと思ったけど、そんなにパワーアップしてるのか…!」

 先程システィーナを庇い、バーサーク・ボアの一撃で大きく弾き飛ばされてしまった時のことを思い出して、感嘆の声を上げる救人。この様子なら、キルバインの言う通り変身を解いても大丈夫かもしれない。

「でもまあ?"ヒーローは正体不明がお約束"だからな、このまま行こうぜ爺ちゃん!」
『お、おお!そうであるな!(ジイィ~~ン…爺ちゃん……、何度聞いても良い響きであるぅ!)』

 孫の言葉に感動している元魔王ジジィはさて置き、取り敢えずはいつもの正体を隠し、あくまでも正義のヒーロー【キルマオー】で行く方針で決めた救人。

「さぁて、他に被害が出てもいけないからな、サクッと決めさせてもらうぜ!来い、【黒魔槍ゲイ・ボルグ】‼︎ 」

 掲げた手の中に、光の粒子となって膨大な魔力が凝縮され、やがて【魔装鎧】の意匠によく似た一本の黒槍が顕現する。

「貫けっ!〈夢幻刺突ファントム ペネトレイト〉‼︎ 」

 円を描くように大きくグルリと振り回した槍を引き、バーサーク・ボアに向かって鋭い突きを放つ。

 だが、ただの一突きでは無い。それは一瞬で数十を超す突きへと変化し、バーサーク・ボアの身体には、巨大な散弾銃で撃たれたかのように無数の穴が穿たれた。

 ーー「ブギュ?ブ…ゴアァァァァァアッ‼︎ 」ーー

 自らの身に何が起きたかも理解出来ぬまま、断末魔の絶叫を残してバーサーク・ボアの巨躯は一瞬にしてとして解け、跡には鈍い光を放つピンポン球ほどの大きさをした"魔石"だけが残された。

「よっしゃ!決まった……っ!」

 もう一度大きく黒槍を振り翳し、ピタリと決めポーズを取るキルマオー。
 やたらと艶々と光る【魔装鎧】に、ややシルエット気味なのかは謎だ。聞いてはいけない。

「(よし、あとはこのまま撤収して、急いで変身を解いて救人に戻ってからシスティーナさんと合流だな。早くミーナさんを病院に連れて行かなきゃいけないしな。ってか、病院ってあるのかな?…まあいいか、さっさと変身を解いてこよう)」

 そう考えた救人は、一言システィーナに残してからこの場を去ろうと振り向くが、そんな救人の元へとシスティーナが走り寄って来ていた。

 その顔にはまだ涙の跡は残るものの、先程までの絶望の色は無い。目立った外傷も無さそうだ。

「(良かった。システィーナさんには怪我はなさそうだな )」

 そんなシスティーナの姿に、【魔装鎧】の中で、ホッと安堵の息を吐く救人だったが、次の瞬間、駆け寄るシスティーナ口から驚くべき言葉が放たれた。

っ‼︎ 」


 「………………………………………………………………………………………………………………………………え?」 

 システィーナの口から発せられた言葉に固まる救人。それも無理は無いだろう。今、彼女は間違い無くこう言ったのだから。『キュウトさん!』と。

「(えっ!ちょっと待ってっ?今システィーナさん『キュウト』って言ったよな?え!あれ?何でバレてるんだ…っ⁉︎ )」

 システィーナの言葉に大混乱する救人。だが、何とか誤魔化さなければ!と再度言葉を重ねようとした救人に、辿り着いたシスティーナがヒシと抱きついて来た。

「ありがとうございました!」 

 「(やっぱり………!完全にバレてる~~~~っ⁉︎ 何でっ⁉︎)」

「いや、その…、俺はキュウトじゃ…… 」
「キュウトさん!ああっ!良かった……、モンスターに殴り飛ばされた時はもうダメかと………っ!良かった……、本当に良かった!」

 何とか誤魔化そうとする救人だが、新たに歓喜の涙を溢れさせて抱きついてくるシスティーナは、自分達の窮地を救った黒い鎧の主が救人だと完全に確信しているようだ。

「(あっれ~~~~~~っ!何でだ?何でバレたんだ⁉︎)」


 謎のヒーロー【キルマオー】は、異世界での初変身、初戦闘で、何故かその正体は即バレしてしまったのであった ーーーー‼︎ (笑)










しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

スキル【合成】が楽しすぎて最初の村から出られない

紅柄ねこ(Bengara Neko)
ファンタジー
 15歳ですべての者に授けられる【スキル】、それはこの世界で生活する為に必要なものであった。  世界は魔物が多く闊歩しており、それによって多くの命が奪われていたのだ。  ある者は強力な剣技を。またある者は有用な生産スキルを得て、生活のためにそれらを使いこなしていたのだった。  エメル村で生まれた少年『セン』もまた、15歳になり、スキルを授かった。  冒険者を夢見つつも、まだ村を出るには早いかと、センは村の周囲で採取依頼をこなしていた。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

忘れられた元勇者~絶対記憶少女と歩む二度目の人生~

こげ丸
ファンタジー
世界を救った元勇者の青年が、激しい運命の荒波にさらされながらも飄々と生き抜いていく物語。 世の中から、そして固い絆で結ばれた仲間からも忘れ去られた元勇者。 強力無比な伝説の剣との契約に縛られながらも運命に抗い、それでもやはり翻弄されていく。 しかし、絶対記憶能力を持つ謎の少女と出会ったことで男の止まった時間はまた動き出す。 過去、世界の希望の為に立ち上がった男は、今度は自らの希望の為にもう一度立ち上がる。 ~ 皆様こんにちは。初めての方は、はじめまして。こげ丸と申します。<(_ _)> このお話は、優しくない世界の中でどこまでも人にやさしく生きる主人公の心温まるお話です。 ライトノベルの枠の中で真面目にファンタジーを書いてみましたので、お楽しみ頂ければ幸いです。 ※第15話で一区切りがつきます。そこまで読んで頂けるとこげ丸が泣いて喜びます(*ノωノ)

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

処理中です...