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第15章 冒険者な日々 2
第96話
しおりを挟む「おらぁっ!! 黒髪の冒険者ぁぁっ! 此処に居るのはわかってんだぁっ! 出て来やがれぇぇぇぇぇぇぇっ! 」
混乱の最中のアソノ村に、正体不明の叫び声が響き渡った………。
宴会の準備に賑わっていたアソノ村に、突如として現れた謎のゴーレム。前に秀真で見た物に比べ、歪で”取り敢えず人型”程度の出来ではあるが、ただでさえその巨体は脅威だ。
そしてその足下には、二十人の男達。さっきの大声は、この内の一人が発した物だった。
「ヒロト様、あの男……!」
「ああ、どうやら悪運だけは異常に強かったらしいな?」
スッと近付いて来たキムチェが、表情を厳しくして言う。
そう、大声を出した男とは、この村に到着する前、チェヂミを助けた時に置き去りにした、誘拐犯の生き残りの男だった。
「ヒロ兄ちゃん…っ!? 」
男の声で昨日の事を思い出し、キュッと俺の手を握り締めて、不安気な表情で見上げて来るチェヂミ。だが、俺はその頭にポンと手を乗せ、手触り良い髪を撫でながら ニッカリと笑ってやる。
「大丈夫、心配するなチェヂミ。あんなヤツ等は俺がやっつけてやるから 」
「でも…っ! あんな大きいのがおるよっ!? 」
「大丈夫。お母さん達と安全な所まで行って、遠くから見てろ。俺のカッコイイところ見せてやるから。…キムチェ!」
「はい、ヒロト様 」
「村の女や子供達を安全な所へ避難させてくれ。大した事無い相手だが、巻き添えになると不味いからな」
「畏まりました 」
キムチェに手を引かれ、安全な場所へと避難して行くチェヂミ。少しは不安が晴れたようだが、それでもチェヂミは心配なのか、何度も俺の方を振り返っていた。
「ヒロト様! 何やあの男んたは!? 」
去って行くチェヂミに手を振っていると、入れ替わるように緊張した面持ちのサムゲータさんが俺の側へとやって来た。「黒髪の冒険者」など、俺以外にはあり得ないのだから当たり前だろう。
「サムゲータさん、あいつ等だよ、チェヂミを攫った連中は 」
「何やとっ!? 」
「あの大声を出している男、俺とキムチェがこの村に来る途中で、偶然魔獣に襲われていた馬車の中からチェヂミを発見したのは伝えたよな?あいつはその時に居た男なんだ。足の骨を折っていたし、草原のど真ん中だ、チェヂミの事や今迄散々悪さして来た分だけ、別の魔獣に喰われるまで精々後悔させてやろうと置き去りにしたんだが……、思ったより渋とかったみたいだな 」
「ほーか、ほーかな! アレんたぁがウチのチェヂミを攫ったたわけンたぁか……!? クッ!クククククッ…! わざわざ戻って来るとはええ度胸やっ!! 」
サムゲータさんの尻尾の毛がザワザワと逆立ち、その体からは怒りの魔力波動が立ち昇る。
「狐共ぉぉぉぉぉぉっ! 十分だけ待ってやる、黒髪の冒険者をここに連れてこい!十分過ぎても連れて来れなかったら、このゴーレムでテメェ等の村を滅茶苦茶に潰す!分かったらさっさと連れてこいっ!! 」
仲間を引き連れ、更には巨大なゴーレムまで居る所為か、やたらと強気な誘拐犯の男。その声を聞いているうちに、チュムルーロ達村の男達や若衆達も集まって来た。
「サムゲータさん! 何なんや、アイツ等ぁはっ!? 」
「おおっ!よう来てくれた。アレんたぁは、チェヂミを攫った連中やそうや 」
『『『『『何やってえぇぇぇぇっ!?』』』』』
一気に殺気立つアソノ村の男達。
魔獣などの問題もあるが、まだ交通網が発達しておらず、また移動手段も精々が馬車程度しか無いのが今のこのイオニディアの現状だ。
その為、”観光旅行”などという物見遊山の旅などは、貴族や商人等の護衛を雇える資金を持った一部富裕層のみが行える最高の贅沢のひとつであり、そうでは無い一般人がそれでもそれを望むのであれば、”自由人”、つまり己の腕と運のみを頼りに『冒険者』にでもなるしか無い。
しかし、その賭け金は”自分自身の人生と生命”であり、魔獣や野盗に襲われて生命を落としたり、あのシイラのように騙されて奴隷落ちになる事も珍しくないのだ。
そんな世の中であれば、気軽に村から村、街から街へと移動など出来るはずも無く、外の情報を得る手段もたまに来る行商人や冒険者ぐらいのもので、一生を生まれた村で過ごす人も数多く居るくらいだ。
そうした田舎であればあるほど村人の結束も固く、村全体がひとつの”家族”の様なもの、と言っても過言ではないだろう。
では、その家族が攫われたり、傷つけられたら? 答えは簡単。
『『『『『ブッ殺スっ!!!! 』』』』』
ーーーー 大激怒だ。
「よし、じゃあサムゲータさん、デカ物は俺が引き受けるから、あの男達の方を頼んでいいか?」
「そらぁええが、あんなデカいゴーレムどうするんや?」
出来はイマイチとはいえ、相手は全高約七メートルのゴーレム。戦いに於いては兵数の差と同じく、その最も単純にして絶対の攻撃力、”大質量”は侮れない。
アレだけの巨大な拳から放たれる一撃は、大型のダンプカーの突進にも匹敵するだろう。
「そこは任せてくれ。いい方法があるんだ。……で、作戦なんだが、まず俺を連中から見えないように……、 ーーーーーー 」
もうすぐ奴等が指定した十分だ。俺はサムゲータさんを始めとする村の男達に、作戦を伝えた……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「もうすぐ十分だ。テメェ等、ブッ込む準備しとけよ! 」
「えっ? アニキ、アニキをコケにした『黒髪の冒険者』とやらを待たないんで? 」
オレの命令に、舎弟の一人が尋ねてくる。
「このゴーレムを見て、お前ならノコノコ出て来るか?」
「……オレなら絶対出て行かないですね 」
「だろ?絶対ヤツも出て来れねぇさ。だったら分かるだろ?」
「さすがアニキだ、読みが深えやっ!? 」
グラスドッグ相手には勝てたようだが、人族が…いや、獣人であろうとゴーレムにゃ敵わねぇ。だったら”逃げの一手”に徹するしか方法は無い。
もしかしたら直接ゴーレムの術者を狙って来るかもしれねぇが、ヤツには〈隠蔽〉の効果のあるマントの魔道具を渡してある。ちょっとやそっとでは見つけられないはずだ。
「アニキ!じゃあ、オレ達も楽しんで良いんですかい!? 」
「ああ、行き掛けの駄賃だ。男は皆殺し、女は好きなだけ犯して構わねえが、殺すんじゃねえぞ? 大事な商品だからな!」
『『『『『ヒャッハァーーッ!! さっすがアニキ、話がわかるぜぇーーーーーーーーっ!!!! 』』』』』
「あっ! アニキ、狐共がきましたぜっ!! 」
……見てろよ、このオレ様をコケにしやがったあのクソ冒険者!テメェが助けたと思ってるモンを全部! グッチャグチャの滅茶苦茶にしてやるからなぁぁぁぁぁ!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「黒髪の冒険者はどうした、獣臭え狐共ぉ! おまけに何だテメェ等、その武器は? やろうってンなら相手になるぞゴラァァァァッ!! 」
例の男が大声でサムゲータさん達に脅しをかけてくる……が、よくやるなアイツ?
アイツ等のレベルはだいたいLv20~30、冒険者で言えばやっと半人前から一人前と言われる〈ランクE〉程度でしか無い。
対してサムゲータさん達アソノ村の”狐人族”の面々はLv30~40、ただでさえ同レベルだったとしてもヒト族よりも獣人族の方が身体能力が高いので、それを加味すればそのレベル差は+10ぐらいにはなるはずだ。
ゴーレムの存在もあるだろうが、たぶんコイツ等はロードベルク王国以外の出身者で、『獣人族よりもヒト族の方が優れている』というまるで根拠の無い自信を持っているのだろう。
今、俺の前には村の男達が壁となって、連中からは俺の姿は見えない様になっている。
手筈としては、俺がゴーレム担当、サムゲータさん達には誘拐犯達を相手してもらうが、『殺しても構わないが、生きてさえいれば治療可能だから、逆に犯罪奴隷として売り払い、村の財源にしてやれ』と提案したところ、『そりゃあええ!』と獰猛に笑っていた。
後は、チェヂミを送って行ったキムチェが戻って来たので、ゴーレムの術者を確保する様に頼んでおいた。
俺の姿が見えない様に纏まって近付いていき、村の出入り口に陣取る誘拐犯共と俺達の距離はおよそ五十メートル。そろそろ頃合いだろう。
俺はある物をアイテムボックスから取り出し跨がると、サムゲータさん達村の男達に合図を出した。
「サムゲータさん、前を開けてくれ!」
「分かったっ! 」
一斉に左右二手に分かれる狐人族の男達の間で、俺はアイへと指令を出す。
『アイ、エンジン全開だっ!突っ込むぞっ!! 』
『イエス、マイマスター!〈魔術回路〉全力起動!……突貫します!』
ーードドゥンッ!ドッドッドッドドドドッ! ヴァウゥゥゥゥゥゥゥゥンッッ!!!! ーー
突如として巻き起こる魔獣の咆哮の如きエキゾーストノート。堪らず耳を押さえたサムゲータさん達の間から、鉄馬を模した《自動二輪車型土人形》が飛び出して行く。
前を見れば、度胆を抜かれたのか誘拐犯達も目を見開き、その動きも止まっている。
ーーさぁて、”趣味全開”で創り上げた、この《バイク型ゴーレム》のもう一つの機能を見て、心底魂消やがれ!ーー
『アイ、〈変型〉だっ!! 』
『イエス、マイマスター! 〈魔力機動〉開始、《魔導ブースター》推力全開、〈変型〉シークエンス開始します 』
奴等のゴーレムの二十メートル程手前で、〈魔力機動〉と地面のギャップも利用して、大きく車体をジャンプさせる。
空中へと飛び上がった車体の一部が割れ、前輪や後輪部がまるで”Z”の文字の様に折り畳まれ、俺の身体を覆うように変形して行く。
そして次の瞬間、車体の左右に二つづつ、計四本の細長い物体が突如として現れ、そして……!
ーーガシンッ!ガキィンッ! ズッギャァァァァァァァァァンッッ!!!! ーー
『〈追加パーツ〉接続完了!《魔術回路》接続、並びに〈バランスチューニング〉同調良し!《魔導ブースター》全推力解放!!』
『よぉっしゃぁぁぁぁぁっ!行ぃっけえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!!! 』
俺は機体の《魔導ブースター》を全開にして、目の前ねゴーレムへと肩口から突っ込んだ……っ!!
ーードッゴオォォォォォォォォォォォォォォォンッ!! ーー
まるで砲弾が着弾したかのような衝撃音と共に、吹き飛んで行く敵のゴーレム。
うん、”質量差”をカバーする為に相当な速度で突っ込んでみたが、トンデモない音がした割には大した衝撃は無かったな。まあ機体には〈伍乃牙 鎧〉を機体全体に纏って《強化魔法》も施しているし、異常も損傷も無いようだ。
さて、賢明な皆さんは既に分かっているだろう。今回俺が製作した〈バイク型ゴーレム〉のもう一つの機能とは……”〈変型〉”。
そう、夢の!憧れの!『可変型魔導強化外殻』なのだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! (感涙)
二十一世紀に入る前後から、急速にロボット技術や、それ等を制御する為のAIの技術は進歩した。
だが……、過去の偉大な先人達が夢想した『巨大ロボット兵器』は、遂に実現する事は無かったのだ……っ!?
結局、「兵器」として見た場合、人型兵器などは無駄が多過ぎるのだ。
市街地や山岳地帯など、車輌の入り込めない場所ならばともかく、平原や荒野での物量戦であれば、人型などよりも、通常の戦車や装甲車輌の方が攻撃力も機動性も高く、何より生産、維持のコストの面で遥かに優れているからだ。
また、それ等にしたところでミサイルや航空機で空爆しさえすれば事は足り、わざわざ金も手間もかかる人型兵器を開発するメリットなど有りはし無かったのだ。
結果、培われた数々の技術の結晶は、巨大化と は正反対のコンパクト方向へと発展し、俺達のような『義体化サイボーグ』へと反映されていき、『人型兵器』は、先程の市街地や山岳地帯で活用を目的とした、精々が全高四メートル程度の大きさの【強化外殻】までであった。
そんな状況の中では『巨大人型ロボット』など開発されるはずも無く、ましてや漫画やアニメに登場する様な”可変型マシン”など「夢のまた夢」でしかなかったのだ……。
だが! ここは異世界であり、地球とはまた違った「物理法則」の存在する世界。
機械による『内部構造』も、変形する為の複雑な『変型機構』も、魔力さえあればぶっちゃけ必要無いのだ
ならば、と、移動手段として考えていた〈バイク型ゴーレム〉を、趣味全開で、”バイク形態”と”強化外殻形態”へと変型する、両世界初の〈可変型ゴーレム〉とでも呼ぶべき物を作ってしまったのだ!
いや~~、いいよね”可変型”。憧れだよね!ロマンだよね!
まあ、〈バイク型態〉のスタイルは崩したくはなかったので、腕と脚部は後付けにするしかなく、〈完全可変〉の再現は、流石は出来なかった。
しかし、造った以上は試してみたくなるのが”人の性”、今回の遠出の途中で試してみる予定だったのだが、こいつ等がゴーレムなどを持ち出してくれたおかげで、無事御披露目の機会を得たという訳だ。
ふふふ……っ! 実に良い、素晴らしい……っ!!
視界の先にはジタバタともがきながらも何とか立ち上がった愛すべきゴーレムの姿が。
ーー 俺は視覚モニターに映るゴーレムの姿を嬉々として見詰めながら、ウキウキとした気分で攻撃を再開したのだった……! ーーーー
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
いつも御愛読ありがとうございます!
最近はアップする度に「お気に入り」にして下さる方も増えて、本当に嬉しい限りです。
また、大変貴重な御意見を下さった皆様、本当にありがとうございました。早速参考にさせていただきました。
もうすぐ100話、頑張ります!
最後に……、横井様、鋭過ぎです……(汗)
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