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第3章 ダークエルフの隠れ里
第17話
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「……!?……美味しい……… 」
驚きに目を瞠った後、目を細めウットリと呟くセイリア。
周りを見渡せば、武将ダークエルフ達もプテラゴンの焼肉串を手にして、ただただ無言で口を動かして肉を味わっていた。
ーーモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグ……ーー
あの後、爺さんやレイナルドさんが食べたがった事、アイのリクエストもあって、せっかくなら…と、里の全員に行き渡るように、15~16匹分のプテラゴンの肉を出してやった。
さすがに何十トンもの肉塊を大広間の中で出す訳にはいかないので、
「爺さん、そんなにレアな食材なら、他の人達にも食わせてやりたいし、持っている肉を何匹か提供するよ。ただ、結構な量になるから、何処か広い場所を貸して欲しいんだけど? 」
爺さんは、何匹もあると聞いて少し驚いたようだが、里の皆にも振る舞いたいという俺の言葉に嬉しそうに笑う。
「ほう!?この頸だけでも大したモノじゃというのに、まだ他にも狩ったというのか!…じゃが良いのか?アイテムボックスに入れておけば腐ることは無いし、王都にでも持って行けば相当の稼ぎになるのじゃぞ? 」
「まあまあ、いいじゃねぇか爺さん。『袖触れ合うも他生の縁』って言うだろう?美味いモノを大勢で食えばもっと美味いのさ。だろ? まあ、皆が腹一杯食べる事は出来ないだろうが、良い酒の肴にはなるだろうさ。だから一緒に食おうぜ、爺さん!」
爺さんは、ニマッと笑う俺の言葉に目を細め、うむ、と一つ頷くと、広間の家臣達に声をかけた。
「皆の者、喜べ!ヒロトより、最高の酒の肴、『竜の肉』を貰うたぞ!貴重な食材ゆえ、心して食うが良い!! 」
「「「おぉっ!?ヒロト殿!ありがとう御座います!!!!」」」
さっきまでの態度とは全然違い、めちゃくちゃ良い笑顔で礼を言ってくる家臣団………。
まったく調子のいい奴らだなぁ………。でもまあいいか!そんな事より肉だ、肉!何だかんだで、あんまり食えてなかったから、今頃になって腹が減ってきたよ。
『おっ肉、おっ肉♪ 』
アイもお待ちかねだしな!
「で、何処に出せばいいんだ? 」
「おお、そうであったな、そこの庭先でええじゃろう、そこに頼むぞ 」
大広間に面した見事な庭を指差して、プテラゴンを出す場所を指定する爺さん。
「こんな綺麗に手入れをされた庭に出していいのか?まだ血抜きだってしてないし、結構量があるから、庭が酷い事にならないか? 」
「気にするでない!血抜きは水魔法の応用ですぐに出来るし、どれほどの量かは知らぬが大丈夫じゃ! 」
早く出せ、とばかりに催促してくる爺さん。大丈夫か?
「本当にココでいいんだな? 」
「心配せんでも大丈夫じゃ!勿体ぶらんと早うせんか!! 」
逆ギレされた!? よっぽど早く食いたいんだな………。仕方ない、後から文句言うなよ?
ソワソワしてる爺さん(子供かっ!?)を連れて、縁側に出たところでアイに声をかける。
『仕方ない、アイ、15~16匹分ほど出してやってくれ 』
『おっ肉!おっ肉!お~に~く~♪ おっに…!? あっ!はい、マスター! 』
さっきからずっと『お肉ソング』歌ってたのか…!? まあ、味覚に目覚めたばっかりだしなぁ…。
苦笑しながら庭に向かって右手を伸ばすと、次々とプテラゴン達の残骸が庭先に積み上がっていく。……次々と、そう…次々と。
ーーズンッ!ドサッ!ドササッ!ズウンッ………!ーー
期待に胸を膨らませ、満面の笑顔だった爺さん達の顔が、徐々に徐々に引きつっていく。
「ヒロトよ…、お主いったい何匹の竜を仕留めたのじゃ……? 」
次々と積み上がり、今や小さな山と化したプテラゴンの肉塊を呆然と見つめながら、さっきとは打って変わった平坦な声で聞いてきた。
「えーと、確か30匹だったかな?まあ、本当に苦労したよ。もう次々と俺目掛けて”降って”来やがるからさ~、ちょっとばかり頭に来てバラバラにし過ぎちまった感じだが、食うなら問題ないだろ? 」
「「「「「…30匹!?」」」」」
「ヒロト様…、あなたはどこまで… 」
「……素敵……… 」
何だろう?レイナルドさんとセイリアが後ろで何かを言ってるみたいだが?
「ふ、ふはははははははははははっ!良し!良し!! ヒロトよ、まさかこれ程の兵だったとは! 未だ未熟者の頃だったとはいえ、儂とレイの二人で漸く一匹を仕留めた”竜”を、よもや30匹も狩っていたとはな!? 気に入った!気に入ったぞ!! ふはははははははははははっ!!!! 」
楽しくて堪らない、といった感じで爺さんは一頻り笑うと、大声でまだ呆然としたままの家臣団に命を下した。
「何をしておるか!皆の者、里の者も呼び寄せて、竜を解体致すぞ!早うせい! 」
「は、は!! 仰せのままに! 」
最初こそぎこちなかったものの、直ぐに立ち直り、一斉に動き出す武士団。使用人達は屋敷の外へと走り、急遽、プテラゴンの大解体ショーが始まった!
この里は、違法奴隷商人達からダークエルフや珍しい種族の獣人達を護る為、隠蔽魔法によって隔離されている。その為、この里は基本自給自足の生活だ。
よくある支配階級の貴族とかとは違い、この里の武士達は戦国時代前後の武士のように、戦の時などの非常時以外は他の農民と同じように畑を耕して生活を送っている。
また、これだけは予想通りだったが、やはりエルフ族は弓を使うことに長けていて、大変狩りも得意らしい。里人達は貴重な動物性のタンパク源として、里内を流れる川で魚を、森に分け入っては鳥や獣を狩っているそうだ。
しかし、この森は辺境にあり、奥に行けば行くほど生息する魔獣は強くなっていく。
そこで、強い魔獣が増えすぎないように”間引き”の意味合いも含めて、定期的に武士団が森へと赴き、修練と軍事訓練を兼ねた「狩り」を行っているそうだ。
その為か、解体に集まった人員の全てが手慣れていて、人海戦術のお陰もあってか、ものの一時間もかからず解体は終わり、今はそのまま庭先を使用して大小様々な肉が焼かれていて、屋敷の中には美味しそうな、香ばしい匂いが立ち込めていた。
そのままでもかなり美味い肉だったが、なんとダークエルフ達は味噌や醤油を造っていて、それらの調味料を使用したプテラゴンの肉はとてつもなく美味かった。
『マスター!私、次は”お味噌”のお肉が食べたいです!! 』
アイもかなり気に入ったようで、早く早くと子供のように要求してくる。
『美味いか、アイ?』
俺は”味噌”味の焼肉串に齧りつきながら、声には出さずにアイへと話しかける。
『はいっ、とっても!早くマスターと二人で一緒にお食事がしたいです! 』
そうだな、今は俺の感覚デバイスで味覚なんかを共有しているだけだが、早く本当に、アイ自身の口で美味しいものを食べさせてやりたいな………。
始めはさっぱり盛り上がらなかった宴会だったが、そこは「強いは正義」ノリの秀真武士団、プテラゴンの肉を肴に今度こそ大いに盛り上がり、お姫様を助け、大量の竜を仕留めた俺に対して、今度は過剰なまでの親愛を示し出した。
その結果が冒頭の”アレ”である。始めはレイナルドさんくらいしかお酌をしてくれる人はいなかったのだが、その後は来るわ来るわ、まるで昔の某ロボットアニメの『星に関係したアダ名の黒い三人組』の必殺技の無限ループように、次から次へと酒を注ぎにやって来て、当初の厳しい視線からは解放されたものの本当に参った。
何人ものダークエルフにお酌をされ、返盃し………がようやくひと段落ついて、内心ホッとしていたところに”その男”はやって来た。
ダークエルフにしては厳つい顔、その顔に斜めに走る大きな刀疵…。そう、先程俺と一悶着あった「タテワキ」その人である。
タテワキはやや仏頂面のまま、無言で酒の入った徳利を差し出してくる。それがどういう事なのかなど聞く必要もなく、俺もまた無言で盃を差し出した。
「タテワキ様、まだ何かヒロト様に文句でもお有りなのですか! 」
恩人に対して「黒幕」のレッテルを貼ろうとした事がまだ腹に据えかねるのか、セイリアが隣の席から『ガルルルッ!』と唸らんばかりの表情で噛み付いてきた。
そこで初めて、フッと表情を苦笑いにしたタテワキは声を漏らした。
「姫様。そう、この年寄りを苛めんで下され。先程の事は、ただただ某の不覚、きちんと詫びをするべく、恥を忍んで参ったので御座る 」
そこでタテワキは俺の方に向き直り、両拳を床に付けて頭を下げた。
「『クーガ・ヒロト』殿、先程は大変失礼つかまつった。これ程の兵と見抜けなんだは我が身の不覚。どうか赦して下され 」
顔を上げ、真っ直ぐに俺の目を見て謝罪の言葉を告げた。その目には全くの濁りもなく、真摯な思いだけが見て取れた。
注がれた酒を一息に飲み干して滴を払い、その盃をタテワキへと差し出す。
「『タテワキ』さん、肉は美味かったかい? 」
「は!? あ、いや。忝ない、大変美味で御座った 」
始め、何を言われたのか分からなかったのだろう、俺の問いに目を白黒させながら、肉の礼と感想を答えるタテワキ。
「じゃあ、もういいよ。気にしないでくれ 」
「いやいや!拙者は大勢の前でヒロト殿を貶めたのですぞ!? それは本来なら赦される事では御座らん!御屋形様はああ言っておられたが、拙者をヒロト殿の気の済むようにして頂いても構わん!! 」
「そうか、アンタの気持ちはよく分かった。なら…、 」
そう言いながらタテワキの持っていた酒の徳利を取り上げて、半分無理やりに差し出した盃を持たせる。その盃へと酒を注ぎ、仕草だけで飲め、と促した。
タテワキは、暫し躊躇したものの、盃を一気に煽るように飲み干した。
「俺の気の済むようでいいんだったよな?なら、これで『手打ち』だ 」
「いや、しかし!」
「いいんだよ。それに赦すも何もアンタは何もやってないしな。爺さん達が言っただろ?『余興じゃ!』ってな。だからもう気にしないでくれ 」
仏頂面をやめ、ニッと笑いながら、もう一度盃に酒を注いでやる。そして、なおも言い募ろうとするタテワキを制して口を開く。
「それにな、アンタは何も間違っちゃいない。自分で言うのもなんだが、確かに俺は怪しすぎる。俺がアンタでも同じ事をするさ 」
片目を瞑り、少し戯けながらそう言うと、やっと表情を弛めてタテワキは二杯目の酒を飲み干した。
「姫様、ヒロト殿、改めて謝罪をさせて頂きたい。…これ程の器、疑った事こそ間違いで御座った。赦して下され… 」
「タテワキ様……… 」
厳しかった表情を消して、笑みを浮かべるセイリア。
「だからもういいって、タテワキさん。…ところで、一つだけ気になってて、聞きたかった事があるんだが? 」
「何で御座ろう?拙者に分かることなら、何でもお答えさせて頂こう 」
今度は俺へと返盃して、酒を注ぎながらタテワキのおっさんが答える。
「じゃあ、遠慮なく。『クーガ』って何だ? 」
ーーガチャンッ!ーー
注いでいた手元を狂わせて、盃に徳利をぶつけてしまった。おとととと………何だよ危ない!?
「は!? 御存知ないのかっ!? 」
「知らないから聞いてるんじゃないか 」
「しかし、先程は『クーガ流』と!」
驚きに目を瞠り、尋ねてくるタテワキのおっさん。
「ああ、それ嘘 」
「はあっ!? 」
「俺の名前は「玖珂 大翔」ここ風に名乗るなら「ヒロト・クガ」かな?だから、俺の流派は「クガ流」だ。よく似てるが「クーガ」じゃない。 セイリアさん、最初に会った時にそう名乗ったよな? 」
急に話を振られたセイリアは少し慌てたようだが、その事をしっかりとタテワキに伝えた。
「あ、はい!あの時間違い無く「玖珂 大翔」様だと名乗られました 」
「………………では、何故先代様は『クーガ流』と….? 」
信じられない、という表情で聞き返してくるおっさん。
「たぶんだけど…、そう言った方が皆んなが混乱して”面白い”とでも思ったんじゃないか?あの爺さんの性格だと 」
「「…っ!? 」」
俺の予想を聞いて、何故かセイリアまで驚きの表情で固まってしまった?
ーーはぁぁぁぁぁぁ……っ!ーー
更に目を見開いた後、今度は瞑目し、肺の中の空気を全て吐き出すかのように息を吐くタテワキのおっさん。
「………まったく、お年を召して少しは落ち着かれたかと思えば…!?昔からどれだけ儂やレイめが苦労して来たと!! そもそも……… 」
うわ!?何だかブツブツ言い始めたぞ!何か地雷を踏んじまったか? どうやらこの人もレイナルドさんと同じように、爺さんに振り回されてきた人みたいだな………。
可哀想に………。
『マスター!私、もう一回お醤油のお肉が食べたいです!! 』
アイ、ちょっとマイペース過ぎない!?
驚きに目を瞠った後、目を細めウットリと呟くセイリア。
周りを見渡せば、武将ダークエルフ達もプテラゴンの焼肉串を手にして、ただただ無言で口を動かして肉を味わっていた。
ーーモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグ……ーー
あの後、爺さんやレイナルドさんが食べたがった事、アイのリクエストもあって、せっかくなら…と、里の全員に行き渡るように、15~16匹分のプテラゴンの肉を出してやった。
さすがに何十トンもの肉塊を大広間の中で出す訳にはいかないので、
「爺さん、そんなにレアな食材なら、他の人達にも食わせてやりたいし、持っている肉を何匹か提供するよ。ただ、結構な量になるから、何処か広い場所を貸して欲しいんだけど? 」
爺さんは、何匹もあると聞いて少し驚いたようだが、里の皆にも振る舞いたいという俺の言葉に嬉しそうに笑う。
「ほう!?この頸だけでも大したモノじゃというのに、まだ他にも狩ったというのか!…じゃが良いのか?アイテムボックスに入れておけば腐ることは無いし、王都にでも持って行けば相当の稼ぎになるのじゃぞ? 」
「まあまあ、いいじゃねぇか爺さん。『袖触れ合うも他生の縁』って言うだろう?美味いモノを大勢で食えばもっと美味いのさ。だろ? まあ、皆が腹一杯食べる事は出来ないだろうが、良い酒の肴にはなるだろうさ。だから一緒に食おうぜ、爺さん!」
爺さんは、ニマッと笑う俺の言葉に目を細め、うむ、と一つ頷くと、広間の家臣達に声をかけた。
「皆の者、喜べ!ヒロトより、最高の酒の肴、『竜の肉』を貰うたぞ!貴重な食材ゆえ、心して食うが良い!! 」
「「「おぉっ!?ヒロト殿!ありがとう御座います!!!!」」」
さっきまでの態度とは全然違い、めちゃくちゃ良い笑顔で礼を言ってくる家臣団………。
まったく調子のいい奴らだなぁ………。でもまあいいか!そんな事より肉だ、肉!何だかんだで、あんまり食えてなかったから、今頃になって腹が減ってきたよ。
『おっ肉、おっ肉♪ 』
アイもお待ちかねだしな!
「で、何処に出せばいいんだ? 」
「おお、そうであったな、そこの庭先でええじゃろう、そこに頼むぞ 」
大広間に面した見事な庭を指差して、プテラゴンを出す場所を指定する爺さん。
「こんな綺麗に手入れをされた庭に出していいのか?まだ血抜きだってしてないし、結構量があるから、庭が酷い事にならないか? 」
「気にするでない!血抜きは水魔法の応用ですぐに出来るし、どれほどの量かは知らぬが大丈夫じゃ! 」
早く出せ、とばかりに催促してくる爺さん。大丈夫か?
「本当にココでいいんだな? 」
「心配せんでも大丈夫じゃ!勿体ぶらんと早うせんか!! 」
逆ギレされた!? よっぽど早く食いたいんだな………。仕方ない、後から文句言うなよ?
ソワソワしてる爺さん(子供かっ!?)を連れて、縁側に出たところでアイに声をかける。
『仕方ない、アイ、15~16匹分ほど出してやってくれ 』
『おっ肉!おっ肉!お~に~く~♪ おっに…!? あっ!はい、マスター! 』
さっきからずっと『お肉ソング』歌ってたのか…!? まあ、味覚に目覚めたばっかりだしなぁ…。
苦笑しながら庭に向かって右手を伸ばすと、次々とプテラゴン達の残骸が庭先に積み上がっていく。……次々と、そう…次々と。
ーーズンッ!ドサッ!ドササッ!ズウンッ………!ーー
期待に胸を膨らませ、満面の笑顔だった爺さん達の顔が、徐々に徐々に引きつっていく。
「ヒロトよ…、お主いったい何匹の竜を仕留めたのじゃ……? 」
次々と積み上がり、今や小さな山と化したプテラゴンの肉塊を呆然と見つめながら、さっきとは打って変わった平坦な声で聞いてきた。
「えーと、確か30匹だったかな?まあ、本当に苦労したよ。もう次々と俺目掛けて”降って”来やがるからさ~、ちょっとばかり頭に来てバラバラにし過ぎちまった感じだが、食うなら問題ないだろ? 」
「「「「「…30匹!?」」」」」
「ヒロト様…、あなたはどこまで… 」
「……素敵……… 」
何だろう?レイナルドさんとセイリアが後ろで何かを言ってるみたいだが?
「ふ、ふはははははははははははっ!良し!良し!! ヒロトよ、まさかこれ程の兵だったとは! 未だ未熟者の頃だったとはいえ、儂とレイの二人で漸く一匹を仕留めた”竜”を、よもや30匹も狩っていたとはな!? 気に入った!気に入ったぞ!! ふはははははははははははっ!!!! 」
楽しくて堪らない、といった感じで爺さんは一頻り笑うと、大声でまだ呆然としたままの家臣団に命を下した。
「何をしておるか!皆の者、里の者も呼び寄せて、竜を解体致すぞ!早うせい! 」
「は、は!! 仰せのままに! 」
最初こそぎこちなかったものの、直ぐに立ち直り、一斉に動き出す武士団。使用人達は屋敷の外へと走り、急遽、プテラゴンの大解体ショーが始まった!
この里は、違法奴隷商人達からダークエルフや珍しい種族の獣人達を護る為、隠蔽魔法によって隔離されている。その為、この里は基本自給自足の生活だ。
よくある支配階級の貴族とかとは違い、この里の武士達は戦国時代前後の武士のように、戦の時などの非常時以外は他の農民と同じように畑を耕して生活を送っている。
また、これだけは予想通りだったが、やはりエルフ族は弓を使うことに長けていて、大変狩りも得意らしい。里人達は貴重な動物性のタンパク源として、里内を流れる川で魚を、森に分け入っては鳥や獣を狩っているそうだ。
しかし、この森は辺境にあり、奥に行けば行くほど生息する魔獣は強くなっていく。
そこで、強い魔獣が増えすぎないように”間引き”の意味合いも含めて、定期的に武士団が森へと赴き、修練と軍事訓練を兼ねた「狩り」を行っているそうだ。
その為か、解体に集まった人員の全てが手慣れていて、人海戦術のお陰もあってか、ものの一時間もかからず解体は終わり、今はそのまま庭先を使用して大小様々な肉が焼かれていて、屋敷の中には美味しそうな、香ばしい匂いが立ち込めていた。
そのままでもかなり美味い肉だったが、なんとダークエルフ達は味噌や醤油を造っていて、それらの調味料を使用したプテラゴンの肉はとてつもなく美味かった。
『マスター!私、次は”お味噌”のお肉が食べたいです!! 』
アイもかなり気に入ったようで、早く早くと子供のように要求してくる。
『美味いか、アイ?』
俺は”味噌”味の焼肉串に齧りつきながら、声には出さずにアイへと話しかける。
『はいっ、とっても!早くマスターと二人で一緒にお食事がしたいです! 』
そうだな、今は俺の感覚デバイスで味覚なんかを共有しているだけだが、早く本当に、アイ自身の口で美味しいものを食べさせてやりたいな………。
始めはさっぱり盛り上がらなかった宴会だったが、そこは「強いは正義」ノリの秀真武士団、プテラゴンの肉を肴に今度こそ大いに盛り上がり、お姫様を助け、大量の竜を仕留めた俺に対して、今度は過剰なまでの親愛を示し出した。
その結果が冒頭の”アレ”である。始めはレイナルドさんくらいしかお酌をしてくれる人はいなかったのだが、その後は来るわ来るわ、まるで昔の某ロボットアニメの『星に関係したアダ名の黒い三人組』の必殺技の無限ループように、次から次へと酒を注ぎにやって来て、当初の厳しい視線からは解放されたものの本当に参った。
何人ものダークエルフにお酌をされ、返盃し………がようやくひと段落ついて、内心ホッとしていたところに”その男”はやって来た。
ダークエルフにしては厳つい顔、その顔に斜めに走る大きな刀疵…。そう、先程俺と一悶着あった「タテワキ」その人である。
タテワキはやや仏頂面のまま、無言で酒の入った徳利を差し出してくる。それがどういう事なのかなど聞く必要もなく、俺もまた無言で盃を差し出した。
「タテワキ様、まだ何かヒロト様に文句でもお有りなのですか! 」
恩人に対して「黒幕」のレッテルを貼ろうとした事がまだ腹に据えかねるのか、セイリアが隣の席から『ガルルルッ!』と唸らんばかりの表情で噛み付いてきた。
そこで初めて、フッと表情を苦笑いにしたタテワキは声を漏らした。
「姫様。そう、この年寄りを苛めんで下され。先程の事は、ただただ某の不覚、きちんと詫びをするべく、恥を忍んで参ったので御座る 」
そこでタテワキは俺の方に向き直り、両拳を床に付けて頭を下げた。
「『クーガ・ヒロト』殿、先程は大変失礼つかまつった。これ程の兵と見抜けなんだは我が身の不覚。どうか赦して下され 」
顔を上げ、真っ直ぐに俺の目を見て謝罪の言葉を告げた。その目には全くの濁りもなく、真摯な思いだけが見て取れた。
注がれた酒を一息に飲み干して滴を払い、その盃をタテワキへと差し出す。
「『タテワキ』さん、肉は美味かったかい? 」
「は!? あ、いや。忝ない、大変美味で御座った 」
始め、何を言われたのか分からなかったのだろう、俺の問いに目を白黒させながら、肉の礼と感想を答えるタテワキ。
「じゃあ、もういいよ。気にしないでくれ 」
「いやいや!拙者は大勢の前でヒロト殿を貶めたのですぞ!? それは本来なら赦される事では御座らん!御屋形様はああ言っておられたが、拙者をヒロト殿の気の済むようにして頂いても構わん!! 」
「そうか、アンタの気持ちはよく分かった。なら…、 」
そう言いながらタテワキの持っていた酒の徳利を取り上げて、半分無理やりに差し出した盃を持たせる。その盃へと酒を注ぎ、仕草だけで飲め、と促した。
タテワキは、暫し躊躇したものの、盃を一気に煽るように飲み干した。
「俺の気の済むようでいいんだったよな?なら、これで『手打ち』だ 」
「いや、しかし!」
「いいんだよ。それに赦すも何もアンタは何もやってないしな。爺さん達が言っただろ?『余興じゃ!』ってな。だからもう気にしないでくれ 」
仏頂面をやめ、ニッと笑いながら、もう一度盃に酒を注いでやる。そして、なおも言い募ろうとするタテワキを制して口を開く。
「それにな、アンタは何も間違っちゃいない。自分で言うのもなんだが、確かに俺は怪しすぎる。俺がアンタでも同じ事をするさ 」
片目を瞑り、少し戯けながらそう言うと、やっと表情を弛めてタテワキは二杯目の酒を飲み干した。
「姫様、ヒロト殿、改めて謝罪をさせて頂きたい。…これ程の器、疑った事こそ間違いで御座った。赦して下され… 」
「タテワキ様……… 」
厳しかった表情を消して、笑みを浮かべるセイリア。
「だからもういいって、タテワキさん。…ところで、一つだけ気になってて、聞きたかった事があるんだが? 」
「何で御座ろう?拙者に分かることなら、何でもお答えさせて頂こう 」
今度は俺へと返盃して、酒を注ぎながらタテワキのおっさんが答える。
「じゃあ、遠慮なく。『クーガ』って何だ? 」
ーーガチャンッ!ーー
注いでいた手元を狂わせて、盃に徳利をぶつけてしまった。おとととと………何だよ危ない!?
「は!? 御存知ないのかっ!? 」
「知らないから聞いてるんじゃないか 」
「しかし、先程は『クーガ流』と!」
驚きに目を瞠り、尋ねてくるタテワキのおっさん。
「ああ、それ嘘 」
「はあっ!? 」
「俺の名前は「玖珂 大翔」ここ風に名乗るなら「ヒロト・クガ」かな?だから、俺の流派は「クガ流」だ。よく似てるが「クーガ」じゃない。 セイリアさん、最初に会った時にそう名乗ったよな? 」
急に話を振られたセイリアは少し慌てたようだが、その事をしっかりとタテワキに伝えた。
「あ、はい!あの時間違い無く「玖珂 大翔」様だと名乗られました 」
「………………では、何故先代様は『クーガ流』と….? 」
信じられない、という表情で聞き返してくるおっさん。
「たぶんだけど…、そう言った方が皆んなが混乱して”面白い”とでも思ったんじゃないか?あの爺さんの性格だと 」
「「…っ!? 」」
俺の予想を聞いて、何故かセイリアまで驚きの表情で固まってしまった?
ーーはぁぁぁぁぁぁ……っ!ーー
更に目を見開いた後、今度は瞑目し、肺の中の空気を全て吐き出すかのように息を吐くタテワキのおっさん。
「………まったく、お年を召して少しは落ち着かれたかと思えば…!?昔からどれだけ儂やレイめが苦労して来たと!! そもそも……… 」
うわ!?何だかブツブツ言い始めたぞ!何か地雷を踏んじまったか? どうやらこの人もレイナルドさんと同じように、爺さんに振り回されてきた人みたいだな………。
可哀想に………。
『マスター!私、もう一回お醤油のお肉が食べたいです!! 』
アイ、ちょっとマイペース過ぎない!?
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他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
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友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
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パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
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勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
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