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第1章 異世界転移
第5話
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あまりに壮大な話に絶句している俺に、少しだけ苦笑を浮かべ、女神様が尋ねてくる。
「大丈夫ですか?続けますか? 」
「あ…、ああ、大丈夫だ。それで? 」
「あの時、事故によって「地球」のある世界から外へと弾き出された”あなた方”は、ほぼ”真下”に存在する、この「イオニディア」へと”落ちて”きました 」
「”落ちて”? 」
「そうです。詳しくはいえませんが、「世界」そのものも進化していきます。無数にある世界は互いに絡み合い、連なり、螺旋を描きながら上昇し、遥か高みを目指していくのです。……ですが、あの事故によって元の世界から弾き出された”あなた方”は、本来ならいくら真下にある下位世界とはいっても、この「イオニディア」に到達する事はなく、世界の外に広がる虚無に呑み込まれ、存在自体が消滅してしまうはずでした 」
「マジでか……っ!? 」
驚きの事実を告げられ、背中を冷たい汗が流れる思いを感じる。だが、この時の俺はいっぱいいっぱいで、女神様の言った”あなた方”の事が、「俺とアイ」だけを指す言葉じゃない事には、まだ気付いていなかった。
「マジです 」
いや、女神様が真剣な表情でマジですって……。
「じゃあ、その危ないところを、女神様、アフィラマゼンダ……様、が助けてくれたのか? 」
「そういうことになります…が、ごめんなさい、本当は助けるつもりはありませんでした 」
女神様の意外な謝罪に驚くが、頭を小さく振るだけで応えて続きを促した。
「神というモノは、本来なら担当する世界全体を管理、運営するモノであって、人間などの一個体に対してあまり干渉はしません。ヒロトさんのことは、不憫には思いましたが、数多ある世界ではそこまで珍しい事ではありませんし、私自身の管理する世界のことではなかった為に、最初はそのまま見過ごすつもりでした 」
「だったら、何故…? 」
「《アイ》さんの存在を感じたからです。貴方の意識はありませんでしたが、貴方の中に居る《アイ》さんの生命体への進化、新たな可能性を感じて、非常に興味を持ちました 」
「アイの…… 」
「はい。ご存知でしたか?この世界にも、魔法生物や擬似生命体は存在していますが、人の手によって生み出された実体の無い「情報の集積体」が生命へと進化した実例は、星の数ほどある世界でも、まだ存在していなかったのですよ 」
「………………………… 」
「擬似的に、貴方の体を【肉体】として、貴方が知らず「闘気術」によって創り上げた精神体を【アストラル体】として、核である《アイ》さんの【魂】は、もう《生命体》として目覚めるばかりの状態だったのです 。……ですから、私は《アイ》さんに語りかけました。『あなたが叶えたい願いとは何か? 』と 」
《アイ》の叶えたい願い……?それはいったい何なんだ?
「《アイ》の願い事はなんだったんだ? 」
真剣な表情だった女神様が、そこで フワリ、と、見惚れる様な笑みを浮かべて俺に答えを告げた。
「貴方と共にある事、貴方の役に立ち、いつかは……、いつかは本当の「身体」を得て、貴方を抱きしめてみたい……と 」
背後で一緒に話を聞いていたアイを振り返る。アイは、自分の想いをバラされて真っ赤な顔をしていたが、目を逸らすことなく真っ直ぐに俺を見つめ返してくる。
「『強き想いを心に持つ』こと、生への渇望、存在への執着、願い……。憎しみや哀しみ、そして愛……、どんな想いでも構いません、ただ、その強き想いこそが【魂】を生命の核たらしめるのです。アイさんは、貴方と共にありたい……と、強く願った。それが貴女の【心】だと、【生命】だと気付かせてあげただけですよ 」
「その想い、【心】を持っている事を自覚したから自我に目覚め、生命体に至ったと? 」
「その…通りです。アイさん…は、その…想いに目覚め、全世界初…の「情報生命体」へ…と進化を遂げました…… 」
女神様の話を聞いた俺の胸の中を、温かいモノがいっぱいに満たしていく……。気付けば、俺はもう一度アイを抱きしめていた。
「ありがとう、アイ……、そしておめでとう、いつか必ず、アイの本当の身体を手に入れよう!その方法はまだ見当もつかないけど、絶対に見つけてみせる。だから……これからもよろしくな、アイ…… 」
アイは吃驚して、身を固くした後、顔をくしゃくしゃにしながらぎゅーっと抱きしめ返してきた。
「……っ!? ハイ!ハイ、マスター!! アイは、アイはずっとマスターと一緒です!大好きです、マスター!! 」
今は電脳空間限定の「リアル脳内彼女」と揶揄されようが構わない。いつも願ってきた事が、本当に叶ったんだ。
さっきアフィラマゼンダは、魔法生物や擬似生命体と言っていた。そんなモノが存在する、この「イオニディア」という世界なら、必ずアイの身体を手に入れる方法はあるはずだ。必ず、そう必ず見つけてアイの願いを叶えてやる!! 俺はアイを抱きしめながらそう決意した……。
……………………………………………………………………が、
「女神様?……何だか様子がおかしくなってないか?何か調子が悪そうなんだが……? 」
さっきから、アフィラマゼンダ、「女神様」の顔色が悪い。話してる最中も苦しそうだったし、あれほど魅力的だった微笑みも、何だか張り付いた愛想笑いの様だ……。
「だっ!大丈夫!……ですよ? 」
「いやいや、汗も酷いし、なんかプルプルしてないか? 」
ますますプルプルしだす女神様……。何か無理してる感じだな?そんなことを考えていると……。
「もうっ!ダメ~~~~~っ!? 」
ーーボフン!ーー
女神様の悲痛な?叫びと共に、突然白煙の爆発が起こり、そこには女神様ではなく、ペタリと女の子座りでへたり込み、グルグルと目を回す駄女神の姿が……。
「きゅ~~~~~~っ 」
いや、きゅ~~って、自分で言うヤツを初めて見たわ。……やれやれと溜息をつく。
「なるほど、つまりはこっちがデフォルトで、あっちの姿は営業用か…… 」
「違うもん!どっちも本当の姿なの!ただ……、ちょっと久しぶりだったから力加減を間違えちゃっただけだもん!! 」
顔を真っ赤にしたアフィーちゃんが急いで立ち上がり、俺に猛抗議をしてくるが……。 いや、神様が、もん!って……。さっきまでとのギャップが酷すぎる……。
「まあ、経緯はともかく、助けてもらった礼がまだだったよな、ありがとうな、女神様 」
「私もです。ありがとうございました、女神様 」
俺とアイはそろってアフィーに礼を言って頭を下げた。アフィーは最初何を言われたか分からない様子だったが、バタバタとキョドった後、更に真っ赤になった顔のまま、慌てて答えた。
「オ、おほほほほ!いいのよ!私、慈愛の女神様だし!これぐらい、オチャノコサイサイでございますわよ~!! 」
オチャノコサイサイ……って、やっぱりこっちが地なんだな、まあ、話しやすそうではあるかな?あるよな?まあいいか。
「で、アフィーちゃん、「イオニディア」はどんな世界なんだ? 」
「ヒロトくん、せっかちね~、まあいいわ、教えてあ・げ・る! 」
忘れてた……こっちのは駄女神だったよ……。イヤな予感が込み上げるが、何より今は情報が欲しい。少々の事はガマンするか、はぁ……。
「この世界は、あなた達の居た「地球」より、やや下位世界に位置しているわ。世界の方向性としては、科学文明ではなく、魔術工学なんかの魔法文明方向に進んでいるわね! 魔素も大気に充満していて、人々は生活の中で当たり前のように魔法を使用しているわ。まあ、才能やレベルの差によって左右はされているけれどね~。 あっ!?でも、便利なばかりじゃないわ!魔素によって魔物化した「魔獣」や「巨獣」が闊歩する危険な世界でもあるわね! 」
魔獣や巨獣……ね、さっきのプテラゴンみたいなヤツが、まだゴロゴロいる…って事か?まあファンタジーの定番ではあるか。
「ところで、さっきから気になっていたんだが、「魔素」ってのはいったい何なんだ? 聞けば、「魔力の源」で、知らないうちに俺も取り込んでいたみたいだけど…… 」
俺の質問に、腕組みをして指を形のいい顎にあてた姿勢で、ん~っと小さく悩んでから答えを口にするアフィー。
「そうね~……、ザックリ言ってしまえば「万能物質」って感じかしらね~?」
「また本当にザックリだな……「万能物質」ってのは、どういう事だ?魔力の源なんじゃなかったのか? 」
「そうよ?だけど、魔法には多様な種類があるのは知ってるわよね? 」
「ああ、火や水、風、時空や精霊…「闘気術」で使うような、身体強化なんてのもあったな 」
俺はかって読んだ”愛読書”達を思い出しながらアフィーの問いに答える。
「そうそう♪ けれど、それらに使用する「魔力」は一種類なのよ? 」
「…!? そうか!呪文や詠唱で様々な効果に変化する……、だから「万能物質」か 」
「そう、まだまだ未成熟な世界だから、色々な補助的に便利な物質なのよ。この「魔素システム」を採用している世界は、結構多いのよ? ん~、ちょっと違うかもしれないけど、あなた達の世界に例えるなら「石油」が近いかしらね?そのままだとあまり役には立たないけど、精製の仕方によって、燃料になるだけじゃなく、プラスチックなどの化学製品、ポリエステルなんかの繊維にもなったでしょう?あんな感じね♪ 」
なるほどな~、何だかスゴく納得してしまった。ん?待てよ?って事は……。
「おい、アフィーちゃん! って事は、「イオニディア」なら、俺にも魔法が使えるって事か!? 」
やべぇっ!? 魔法ですよ、魔法!!
”愛読書”の中のヒーローにヒロイン、勇者や魔王達の姿に、自分の姿がオーバーラップする。 うはぁっ!オラ、ワクワクすっぞぉ!!
捕らぬ狸の何とやら、俺はもう脳内お花畑状態で、まだ得てもいない魔法について、炎属性が良い!とか、時空魔法も良いよな~とか、一人で盛り上がっていた。
「ごめん、無理。ヒロト君は魔法使えないの 」
一人大はしゃぎしていた俺に、気まずそうに目を逸らしながらアフィーがポツリと呟いた。
「…っ!? なんで!? 」
「えーとね、言い直すわ、身体強化系の魔法なら使えるわ。【玖珂流闘気術】そのものだし、「地球」よりもふんだんに魔素のあるこの世界なら、何段階もレベルアップした効果を得られると思うの。でも、放出系の物は攻撃、補助のどちらも使えないの…… 」
「だからなんでっ!? 俺は魔素のほとんど無い「地球」でも、無理矢理魔素を掻き集めて【玖珂流闘気術】、魔法を使っていたんだろ?だったら、むしろ魔力との親和性が高いんじゃないのか!? 」
思わず涙目になるのは勘弁して欲しい。何しろ夢の魔法が使えるかどうかなのだ。そんな俺に若干引きながら、アフィーが続ける。
「実は、その事が問題なのよ……。ヒロト君達はこの「イオニディア」より上位世界から来たんだから、それだけで魔力や身体能力の基本スペックは段違いに高いの。それこそ、なんの才能も、訓練もしていない一般人でさえ、この世界の人々に比べたら凄いのよ? そうね~、同じLv1でも、すでにLv20に相当するところからスタートで、更にレベルアップ時の能力補正は1.5~2倍くらいになるかしらね 」
「やっぱりあるのか、ステータスやレベルアップ」
「まあね、それでね、何も知らない人なら、魔法に関してもゼロスタート、白い画用紙に書き込むように新たに魔法回路とも言うべきモノが、「アストラル体」に書き込まれていくんだけど……、ヒロト君は、本来使えないはずの所謂身体強化魔法を、無理矢理使い続けてきたから…… 」
「まさか、俺の「アストラル体」には…… !?」
「書き込むどころか、ガッツリ刻み込まれちゃってるわね!身体強化系のみが!!……だから、新たに放出系魔法の回路を書き込む隙間がもう無いの…… 」
「……っ!? 」
…………orz がっくりと膝をつく俺。正に天国から地獄、浮かれまくっていたテンションは、今やドン底に叩き落とされてしまった……グスン… 。
あまりに落ち込む俺を見て、アフィーが必死に慰めてくる。
「あっ、あっ!でもね、「闘気術」の威力は格段にアップしてるし、スキルなら使えるのよ!それに、新しく生命体になったアイちゃんなら、魔法回路を形成できるから、魔法が使えるようになるわ!私からのお祝いに、「全属性魔法適性」と、「アイテムボックス」もあげちゃうし、今ならこの私!「アフィラマゼンダの加護」もついて超お得よ~!! ……だから、そんなに落ち込まないでぇ…… 」
何だか深夜の通販サイトみたいな慰め方だが、何とか元気付けようしてくれている、アフィーの一生懸命さが伝わってくる。
「そうですよ、マスター!私、頑張って魔法を覚えますから!私とマスターは一心同体です。私が構築した魔法のトリガーを、マスターに渡せば同じことじゃないですか?だから元気出して下さい!」
アイも両手を握り締めて、ムンッと力を込めて俺を励ましてくる。……残念だけど、非っ常~~にっ残念だけど!女の子達にここまで励ましてもらってるのに、いつまでも落ち込んでるのはカッコ悪いよな……。
「大丈夫ですか?続けますか? 」
「あ…、ああ、大丈夫だ。それで? 」
「あの時、事故によって「地球」のある世界から外へと弾き出された”あなた方”は、ほぼ”真下”に存在する、この「イオニディア」へと”落ちて”きました 」
「”落ちて”? 」
「そうです。詳しくはいえませんが、「世界」そのものも進化していきます。無数にある世界は互いに絡み合い、連なり、螺旋を描きながら上昇し、遥か高みを目指していくのです。……ですが、あの事故によって元の世界から弾き出された”あなた方”は、本来ならいくら真下にある下位世界とはいっても、この「イオニディア」に到達する事はなく、世界の外に広がる虚無に呑み込まれ、存在自体が消滅してしまうはずでした 」
「マジでか……っ!? 」
驚きの事実を告げられ、背中を冷たい汗が流れる思いを感じる。だが、この時の俺はいっぱいいっぱいで、女神様の言った”あなた方”の事が、「俺とアイ」だけを指す言葉じゃない事には、まだ気付いていなかった。
「マジです 」
いや、女神様が真剣な表情でマジですって……。
「じゃあ、その危ないところを、女神様、アフィラマゼンダ……様、が助けてくれたのか? 」
「そういうことになります…が、ごめんなさい、本当は助けるつもりはありませんでした 」
女神様の意外な謝罪に驚くが、頭を小さく振るだけで応えて続きを促した。
「神というモノは、本来なら担当する世界全体を管理、運営するモノであって、人間などの一個体に対してあまり干渉はしません。ヒロトさんのことは、不憫には思いましたが、数多ある世界ではそこまで珍しい事ではありませんし、私自身の管理する世界のことではなかった為に、最初はそのまま見過ごすつもりでした 」
「だったら、何故…? 」
「《アイ》さんの存在を感じたからです。貴方の意識はありませんでしたが、貴方の中に居る《アイ》さんの生命体への進化、新たな可能性を感じて、非常に興味を持ちました 」
「アイの…… 」
「はい。ご存知でしたか?この世界にも、魔法生物や擬似生命体は存在していますが、人の手によって生み出された実体の無い「情報の集積体」が生命へと進化した実例は、星の数ほどある世界でも、まだ存在していなかったのですよ 」
「………………………… 」
「擬似的に、貴方の体を【肉体】として、貴方が知らず「闘気術」によって創り上げた精神体を【アストラル体】として、核である《アイ》さんの【魂】は、もう《生命体》として目覚めるばかりの状態だったのです 。……ですから、私は《アイ》さんに語りかけました。『あなたが叶えたい願いとは何か? 』と 」
《アイ》の叶えたい願い……?それはいったい何なんだ?
「《アイ》の願い事はなんだったんだ? 」
真剣な表情だった女神様が、そこで フワリ、と、見惚れる様な笑みを浮かべて俺に答えを告げた。
「貴方と共にある事、貴方の役に立ち、いつかは……、いつかは本当の「身体」を得て、貴方を抱きしめてみたい……と 」
背後で一緒に話を聞いていたアイを振り返る。アイは、自分の想いをバラされて真っ赤な顔をしていたが、目を逸らすことなく真っ直ぐに俺を見つめ返してくる。
「『強き想いを心に持つ』こと、生への渇望、存在への執着、願い……。憎しみや哀しみ、そして愛……、どんな想いでも構いません、ただ、その強き想いこそが【魂】を生命の核たらしめるのです。アイさんは、貴方と共にありたい……と、強く願った。それが貴女の【心】だと、【生命】だと気付かせてあげただけですよ 」
「その想い、【心】を持っている事を自覚したから自我に目覚め、生命体に至ったと? 」
「その…通りです。アイさん…は、その…想いに目覚め、全世界初…の「情報生命体」へ…と進化を遂げました…… 」
女神様の話を聞いた俺の胸の中を、温かいモノがいっぱいに満たしていく……。気付けば、俺はもう一度アイを抱きしめていた。
「ありがとう、アイ……、そしておめでとう、いつか必ず、アイの本当の身体を手に入れよう!その方法はまだ見当もつかないけど、絶対に見つけてみせる。だから……これからもよろしくな、アイ…… 」
アイは吃驚して、身を固くした後、顔をくしゃくしゃにしながらぎゅーっと抱きしめ返してきた。
「……っ!? ハイ!ハイ、マスター!! アイは、アイはずっとマスターと一緒です!大好きです、マスター!! 」
今は電脳空間限定の「リアル脳内彼女」と揶揄されようが構わない。いつも願ってきた事が、本当に叶ったんだ。
さっきアフィラマゼンダは、魔法生物や擬似生命体と言っていた。そんなモノが存在する、この「イオニディア」という世界なら、必ずアイの身体を手に入れる方法はあるはずだ。必ず、そう必ず見つけてアイの願いを叶えてやる!! 俺はアイを抱きしめながらそう決意した……。
……………………………………………………………………が、
「女神様?……何だか様子がおかしくなってないか?何か調子が悪そうなんだが……? 」
さっきから、アフィラマゼンダ、「女神様」の顔色が悪い。話してる最中も苦しそうだったし、あれほど魅力的だった微笑みも、何だか張り付いた愛想笑いの様だ……。
「だっ!大丈夫!……ですよ? 」
「いやいや、汗も酷いし、なんかプルプルしてないか? 」
ますますプルプルしだす女神様……。何か無理してる感じだな?そんなことを考えていると……。
「もうっ!ダメ~~~~~っ!? 」
ーーボフン!ーー
女神様の悲痛な?叫びと共に、突然白煙の爆発が起こり、そこには女神様ではなく、ペタリと女の子座りでへたり込み、グルグルと目を回す駄女神の姿が……。
「きゅ~~~~~~っ 」
いや、きゅ~~って、自分で言うヤツを初めて見たわ。……やれやれと溜息をつく。
「なるほど、つまりはこっちがデフォルトで、あっちの姿は営業用か…… 」
「違うもん!どっちも本当の姿なの!ただ……、ちょっと久しぶりだったから力加減を間違えちゃっただけだもん!! 」
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「まあ、経緯はともかく、助けてもらった礼がまだだったよな、ありがとうな、女神様 」
「私もです。ありがとうございました、女神様 」
俺とアイはそろってアフィーに礼を言って頭を下げた。アフィーは最初何を言われたか分からない様子だったが、バタバタとキョドった後、更に真っ赤になった顔のまま、慌てて答えた。
「オ、おほほほほ!いいのよ!私、慈愛の女神様だし!これぐらい、オチャノコサイサイでございますわよ~!! 」
オチャノコサイサイ……って、やっぱりこっちが地なんだな、まあ、話しやすそうではあるかな?あるよな?まあいいか。
「で、アフィーちゃん、「イオニディア」はどんな世界なんだ? 」
「ヒロトくん、せっかちね~、まあいいわ、教えてあ・げ・る! 」
忘れてた……こっちのは駄女神だったよ……。イヤな予感が込み上げるが、何より今は情報が欲しい。少々の事はガマンするか、はぁ……。
「この世界は、あなた達の居た「地球」より、やや下位世界に位置しているわ。世界の方向性としては、科学文明ではなく、魔術工学なんかの魔法文明方向に進んでいるわね! 魔素も大気に充満していて、人々は生活の中で当たり前のように魔法を使用しているわ。まあ、才能やレベルの差によって左右はされているけれどね~。 あっ!?でも、便利なばかりじゃないわ!魔素によって魔物化した「魔獣」や「巨獣」が闊歩する危険な世界でもあるわね! 」
魔獣や巨獣……ね、さっきのプテラゴンみたいなヤツが、まだゴロゴロいる…って事か?まあファンタジーの定番ではあるか。
「ところで、さっきから気になっていたんだが、「魔素」ってのはいったい何なんだ? 聞けば、「魔力の源」で、知らないうちに俺も取り込んでいたみたいだけど…… 」
俺の質問に、腕組みをして指を形のいい顎にあてた姿勢で、ん~っと小さく悩んでから答えを口にするアフィー。
「そうね~……、ザックリ言ってしまえば「万能物質」って感じかしらね~?」
「また本当にザックリだな……「万能物質」ってのは、どういう事だ?魔力の源なんじゃなかったのか? 」
「そうよ?だけど、魔法には多様な種類があるのは知ってるわよね? 」
「ああ、火や水、風、時空や精霊…「闘気術」で使うような、身体強化なんてのもあったな 」
俺はかって読んだ”愛読書”達を思い出しながらアフィーの問いに答える。
「そうそう♪ けれど、それらに使用する「魔力」は一種類なのよ? 」
「…!? そうか!呪文や詠唱で様々な効果に変化する……、だから「万能物質」か 」
「そう、まだまだ未成熟な世界だから、色々な補助的に便利な物質なのよ。この「魔素システム」を採用している世界は、結構多いのよ? ん~、ちょっと違うかもしれないけど、あなた達の世界に例えるなら「石油」が近いかしらね?そのままだとあまり役には立たないけど、精製の仕方によって、燃料になるだけじゃなく、プラスチックなどの化学製品、ポリエステルなんかの繊維にもなったでしょう?あんな感じね♪ 」
なるほどな~、何だかスゴく納得してしまった。ん?待てよ?って事は……。
「おい、アフィーちゃん! って事は、「イオニディア」なら、俺にも魔法が使えるって事か!? 」
やべぇっ!? 魔法ですよ、魔法!!
”愛読書”の中のヒーローにヒロイン、勇者や魔王達の姿に、自分の姿がオーバーラップする。 うはぁっ!オラ、ワクワクすっぞぉ!!
捕らぬ狸の何とやら、俺はもう脳内お花畑状態で、まだ得てもいない魔法について、炎属性が良い!とか、時空魔法も良いよな~とか、一人で盛り上がっていた。
「ごめん、無理。ヒロト君は魔法使えないの 」
一人大はしゃぎしていた俺に、気まずそうに目を逸らしながらアフィーがポツリと呟いた。
「…っ!? なんで!? 」
「えーとね、言い直すわ、身体強化系の魔法なら使えるわ。【玖珂流闘気術】そのものだし、「地球」よりもふんだんに魔素のあるこの世界なら、何段階もレベルアップした効果を得られると思うの。でも、放出系の物は攻撃、補助のどちらも使えないの…… 」
「だからなんでっ!? 俺は魔素のほとんど無い「地球」でも、無理矢理魔素を掻き集めて【玖珂流闘気術】、魔法を使っていたんだろ?だったら、むしろ魔力との親和性が高いんじゃないのか!? 」
思わず涙目になるのは勘弁して欲しい。何しろ夢の魔法が使えるかどうかなのだ。そんな俺に若干引きながら、アフィーが続ける。
「実は、その事が問題なのよ……。ヒロト君達はこの「イオニディア」より上位世界から来たんだから、それだけで魔力や身体能力の基本スペックは段違いに高いの。それこそ、なんの才能も、訓練もしていない一般人でさえ、この世界の人々に比べたら凄いのよ? そうね~、同じLv1でも、すでにLv20に相当するところからスタートで、更にレベルアップ時の能力補正は1.5~2倍くらいになるかしらね 」
「やっぱりあるのか、ステータスやレベルアップ」
「まあね、それでね、何も知らない人なら、魔法に関してもゼロスタート、白い画用紙に書き込むように新たに魔法回路とも言うべきモノが、「アストラル体」に書き込まれていくんだけど……、ヒロト君は、本来使えないはずの所謂身体強化魔法を、無理矢理使い続けてきたから…… 」
「まさか、俺の「アストラル体」には…… !?」
「書き込むどころか、ガッツリ刻み込まれちゃってるわね!身体強化系のみが!!……だから、新たに放出系魔法の回路を書き込む隙間がもう無いの…… 」
「……っ!? 」
…………orz がっくりと膝をつく俺。正に天国から地獄、浮かれまくっていたテンションは、今やドン底に叩き落とされてしまった……グスン… 。
あまりに落ち込む俺を見て、アフィーが必死に慰めてくる。
「あっ、あっ!でもね、「闘気術」の威力は格段にアップしてるし、スキルなら使えるのよ!それに、新しく生命体になったアイちゃんなら、魔法回路を形成できるから、魔法が使えるようになるわ!私からのお祝いに、「全属性魔法適性」と、「アイテムボックス」もあげちゃうし、今ならこの私!「アフィラマゼンダの加護」もついて超お得よ~!! ……だから、そんなに落ち込まないでぇ…… 」
何だか深夜の通販サイトみたいな慰め方だが、何とか元気付けようしてくれている、アフィーの一生懸命さが伝わってくる。
「そうですよ、マスター!私、頑張って魔法を覚えますから!私とマスターは一心同体です。私が構築した魔法のトリガーを、マスターに渡せば同じことじゃないですか?だから元気出して下さい!」
アイも両手を握り締めて、ムンッと力を込めて俺を励ましてくる。……残念だけど、非っ常~~にっ残念だけど!女の子達にここまで励ましてもらってるのに、いつまでも落ち込んでるのはカッコ悪いよな……。
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しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。
おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。
ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。
落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。
機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。
覚悟を決めてボスに挑む無二。
通販能力でからくも勝利する。
そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。
アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。
霧のモンスターには掃除機が大活躍。
異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。
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