9 / 18
当然あなたが幼馴染の令嬢と不倫していることは知っています。ですが責めません。わたくしには責める資格がありませんから
第二話 責めない理由
しおりを挟む
カトリーヌはアントーニオのことを愛していなかった。興味さえなかった。
カトリーヌはアントーニオのもとへ向かうマリアの後ろ姿を見ながら昔のことを思い出していた。
(婚約した当初はドキドキしていたのよね。パーティーで初めて見かけた時にこんな素敵な人がいるのかと驚いたんでしたっけ。十二歳のわたしは若すぎたのね、婚約者というだけで素敵に見えるだなんて)
カトリーヌはしばらくしてから魔法訓練中の塔へ向かった。
それは不倫を問い詰めるためではない。
(なぜだか漏れてくる音や声を聞きたくなってしまうのよね。自分でも不思議。別にそれを聞いて興奮するわけでも、嬉しいわけでも、ましてや怒りが湧いてくるわけでもないのに。本当に不思議だけれど、感情の変化がないのに盗み聞きがやめられないのよね……)
カトリーヌは結婚当初からこの習慣を続けている。
*****
マリアが塔から帰ってきた。
空の色の綺麗なドレスに乱れは一切なく、相変わらずその綺麗な令嬢を引き立てていた。
「お疲れ様、マリアさん。とてもスッキリとした顔をしていますわ」
カトリーヌは笑顔でマリアに話しかけた。
「やはり魔力は定期的に放出しないといけませんからね」
マリアは来た時にも言っていた言い訳を繰り返していた。
その顔はとてもスッキリとした、爽やかな表情だった。カトリーヌにはそう見えていた。
アントーニオは無意識にしていることがある。
マリアとの行為が行われた日は命より大切な我が子を抱きしめることがないのだ。
カトリーヌはそのことにかなり前から気付いていた。
(あの人は、子供たちが自分の父親が母親以外の女性を抱いたことを嫌がるとでも思っているのかしら。別に気にしなくてもいいのに)
カトリーヌはアントーニオのその習慣を無意味なものだと感じていた。
(子供たちに罪悪感を感じたところで、別にあなたの本当の子ではないのに)
アントーニオはその事実を知らない。
カトリーヌはその後もアントーニオの不倫を問い詰めることをしなかった。
なぜならば、自分に不倫している事実を責める資格がないことを誰よりも知っているからである。
アントーニオはその命が尽きるまで子供たちを自分の命より大切にしていた。
=== 完 ===
カトリーヌはアントーニオのもとへ向かうマリアの後ろ姿を見ながら昔のことを思い出していた。
(婚約した当初はドキドキしていたのよね。パーティーで初めて見かけた時にこんな素敵な人がいるのかと驚いたんでしたっけ。十二歳のわたしは若すぎたのね、婚約者というだけで素敵に見えるだなんて)
カトリーヌはしばらくしてから魔法訓練中の塔へ向かった。
それは不倫を問い詰めるためではない。
(なぜだか漏れてくる音や声を聞きたくなってしまうのよね。自分でも不思議。別にそれを聞いて興奮するわけでも、嬉しいわけでも、ましてや怒りが湧いてくるわけでもないのに。本当に不思議だけれど、感情の変化がないのに盗み聞きがやめられないのよね……)
カトリーヌは結婚当初からこの習慣を続けている。
*****
マリアが塔から帰ってきた。
空の色の綺麗なドレスに乱れは一切なく、相変わらずその綺麗な令嬢を引き立てていた。
「お疲れ様、マリアさん。とてもスッキリとした顔をしていますわ」
カトリーヌは笑顔でマリアに話しかけた。
「やはり魔力は定期的に放出しないといけませんからね」
マリアは来た時にも言っていた言い訳を繰り返していた。
その顔はとてもスッキリとした、爽やかな表情だった。カトリーヌにはそう見えていた。
アントーニオは無意識にしていることがある。
マリアとの行為が行われた日は命より大切な我が子を抱きしめることがないのだ。
カトリーヌはそのことにかなり前から気付いていた。
(あの人は、子供たちが自分の父親が母親以外の女性を抱いたことを嫌がるとでも思っているのかしら。別に気にしなくてもいいのに)
カトリーヌはアントーニオのその習慣を無意味なものだと感じていた。
(子供たちに罪悪感を感じたところで、別にあなたの本当の子ではないのに)
アントーニオはその事実を知らない。
カトリーヌはその後もアントーニオの不倫を問い詰めることをしなかった。
なぜならば、自分に不倫している事実を責める資格がないことを誰よりも知っているからである。
アントーニオはその命が尽きるまで子供たちを自分の命より大切にしていた。
=== 完 ===
14
お気に入りに追加
274
あなたにおすすめの小説
公爵令嬢は愛に生きたい
拓海のり
恋愛
公爵令嬢シビラは王太子エルンストの婚約者であった。しかし学園に男爵家の養女アメリアが編入して来てエルンストの興味はアメリアに移る。
一万字位の短編です。他サイトにも投稿しています。
【完結】婚約破棄中に思い出した三人~恐らく私のお父様が最強~
かのん
恋愛
どこにでもある婚約破棄。
だが、その中心にいる王子、その婚約者、そして男爵令嬢の三人は婚約破棄の瞬間に雷に打たれたかのように思い出す。
だめだ。
このまま婚約破棄したらこの国が亡びる。
これは、婚約破棄直後に、白昼夢によって未来を見てしまった三人の婚約破棄騒動物語。
初夜に前世を思い出した悪役令嬢は復讐方法を探します。
豆狸
恋愛
「すまない、間違えたんだ」
「はあ?」
初夜の床で新妻の名前を元カノ、しかも新妻の異母妹、しかも新妻と婚約破棄をする原因となった略奪者の名前と間違えた?
脳に蛆でも湧いてんじゃないですかぁ?
なろう様でも公開中です。
馬鹿王子にはもう我慢できません! 婚約破棄される前にこちらから婚約破棄を突きつけます
白桃
恋愛
子爵令嬢のメアリーの元に届けられた婚約者の第三王子ポールからの手紙。
そこには毎回毎回勝手に遊び回って自分一人が楽しんでいる報告と、メアリーを馬鹿にするような言葉が書きつられていた。
最初こそ我慢していた聖女のように優しいと誰もが口にする令嬢メアリーだったが、その堪忍袋の緒が遂に切れ、彼女は叫ぶのだった。
『あの馬鹿王子にこちらから婚約破棄を突きつけてさしあげますわ!!!』
(完結)私の夫は死にました(全3話)
青空一夏
恋愛
夫が新しく始める事業の資金を借りに出かけた直後に行方不明となり、市井の治安が悪い裏通りで夫が乗っていた馬車が発見される。おびただしい血痕があり、盗賊に襲われたのだろうと判断された。1年後に失踪宣告がなされ死んだものと見なされたが、多数の債権者が押し寄せる。
私は莫大な借金を背負い、給料が高いガラス工房の仕事についた。それでも返し切れず夜中は定食屋で調理補助の仕事まで始める。半年後過労で倒れた私に従兄弟が手を差し伸べてくれた。
ところがある日、夫とそっくりな男を見かけてしまい・・・・・・
R15ざまぁ。因果応報。ゆるふわ設定ご都合主義です。全3話。お話しの長さに偏りがあるかもしれません。
【完結】強制力なんて怖くない!
櫻野くるみ
恋愛
公爵令嬢のエラリアは、十歳の時に唐突に前世の記憶を取り戻した。
どうやら自分は以前読んだ小説の、第三王子と結婚するも浮気され、妻の座を奪われた挙句、幽閉される「エラリア」に転生してしまったらしい。
そんな人生は真っ平だと、なんとか未来を変えようとするエラリアだが、物語の強制力が邪魔をして思うように行かず……?
強制力がエグい……と思っていたら、実は強制力では無かったお話。
短編です。
完結しました。
なんだか最後が長くなりましたが、楽しんでいただけたら嬉しいです。
婚約解消と婚約破棄から始まって~義兄候補が婚約者に?!~
琴葉悠
恋愛
ディラック伯爵家の令嬢アイリーンは、ある日父から婚約が相手の不義理で解消になったと告げられる。
婚約者の行動からなんとなく理解していたアイリーンはそれに納得する。
アイリーンは、婚約解消を聞きつけた友人から夜会に誘われ参加すると、義兄となるはずだったウィルコックス侯爵家の嫡男レックスが、婚約者に対し不倫が原因の婚約破棄を言い渡している場面に出くわす。
そして夜会から数日後、アイリーンは父からレックスが新しい婚約者になったと告げられる──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる