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【2020/05 営巣】
《第5週 火曜日 午後》⑥
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その後、立て続けに検査に回されていたご遺体が戻ってきて、再び先生とおれは現場での検死や検査した内容を基に書面を作成した。それから引き取りに来られた縁者の方の対応をして引き渡してから、おれは先生が用意してくれたタクシーで現場に戻った。
うちの組織犯罪係、本店の一課四課の人々は既に撤収済みで、飯野さんも既にいなかった。
残っていた捜査係の人らと、あと他の現場が終わって鑑識係でも古株の人も数名応援に来てくれていたので一緒に現場を検め、いろいろなことを教わった。これまで持ってたけど使い方がわからないままだった道具や資材の使い方も知った。
飯野さんは、おれが先生と出ていって、直接捜査に関わる人間以外を帰したあと「笹谷はあてにならん。学歴ばかり立派で肩書が先についてきたってビビって現場で使えなきゃクソだ」怒っていたのだそうだ。
本当ならおれを伴って笹谷さんが指揮を執るべきなのに、単独でまだ撮影とか読像やってる新人送り込むなんて、いったいアイツ何を考えているんだと。
そして同時に、おれについて「あれは筋が良いからドンドンついて教えてやってくれ」とも言っていたと聞かされた。
古株の人のうちのひとり、志田さんにも作業後「実際、きみ向いていると思うよ」と褒められ、なんだか照れくさかったけど、嬉しい。
志田さんは先生や大石先生と同じくらいの年齢の人なので、先生と面識あるか尋ねると、幾度も一緒に仕事していて、同じ年代なので先生の子供時代の事件のことも知っていて、「あんな目に遭って、何を思ってあの仕事に就こうと思ったのか思うと、なんか色々考えちゃうよな」と目線を落として話していた。
家主さんや清掃業者さんに当面の現場の保存をお願いして全て終わり、志田さん含め他の人が次々車で戻る中、おれは坂の多いこの街を必死に自転車を漕いで署まで戻った。
係の部屋に入ると、先に戻っていた人たちが後処理をしながら談笑していたが、係長の笹谷さんが居ない。尋ねると、飯野さんと別室だという。
さっきの志田さんの言っていたことが頭の中で蘇り、書類だけ持って鞄は自席の椅子に置き、階段を駆け下りて教えてもらった会議室に向かう。
部屋の扉越しに笹谷さんが飯野さんにこってり絞られているのが聞こえた。
性急にノックしてそのまま応答も待たずに飛び込み、飯野さんに頭を下げる。
「あ、あの、い、飯野さん、おれ、結局先生と現場離れちゃったから、あのあとの見分すっぽかしちゃって、本当にすみませんでした…おれしか鑑識から行ってないのに…でも、あの、帰りにちゃんとやってきたんで…」
「いや、違う。お前は悪くない。戻ってろ」
「え、でも…」
おれの声を遮って、飯野さんは構わず笹谷さんに問い質す。
「そもそもおれは笹谷、お前に来いと、ホトケさんの搬出があるから誰か居れば連れて来いって言ったんだ。なんで新人の長谷ひとりに越させた。他に課員居なかったわけじゃないだろ」
「…いえ、その時は、わたしと長谷だけで…」
「だったら一緒に来ればいいだろ。そもそもなあ、単独でイチ鑑識係員が動くとか普通にないだろよ。それにまだ撮影とか読像くらいしかさせてないのに、新人ひとり放り込んでどうするつもりだった。何考えてんだ」
「それは…」
口ごもっていた笹谷さんが、その後に続けて出した言葉があまりに衝撃的だった。
「飯野さんが可愛がってるんだから、飯野さんが面倒見たらいいじゃないですか」
「はぁ!?」
そして更にそれに続いて出た言葉がおれに突き刺さった。
「下手に二人で行動して、なんかあったら嫌なんで」
うちの組織犯罪係、本店の一課四課の人々は既に撤収済みで、飯野さんも既にいなかった。
残っていた捜査係の人らと、あと他の現場が終わって鑑識係でも古株の人も数名応援に来てくれていたので一緒に現場を検め、いろいろなことを教わった。これまで持ってたけど使い方がわからないままだった道具や資材の使い方も知った。
飯野さんは、おれが先生と出ていって、直接捜査に関わる人間以外を帰したあと「笹谷はあてにならん。学歴ばかり立派で肩書が先についてきたってビビって現場で使えなきゃクソだ」怒っていたのだそうだ。
本当ならおれを伴って笹谷さんが指揮を執るべきなのに、単独でまだ撮影とか読像やってる新人送り込むなんて、いったいアイツ何を考えているんだと。
そして同時に、おれについて「あれは筋が良いからドンドンついて教えてやってくれ」とも言っていたと聞かされた。
古株の人のうちのひとり、志田さんにも作業後「実際、きみ向いていると思うよ」と褒められ、なんだか照れくさかったけど、嬉しい。
志田さんは先生や大石先生と同じくらいの年齢の人なので、先生と面識あるか尋ねると、幾度も一緒に仕事していて、同じ年代なので先生の子供時代の事件のことも知っていて、「あんな目に遭って、何を思ってあの仕事に就こうと思ったのか思うと、なんか色々考えちゃうよな」と目線を落として話していた。
家主さんや清掃業者さんに当面の現場の保存をお願いして全て終わり、志田さん含め他の人が次々車で戻る中、おれは坂の多いこの街を必死に自転車を漕いで署まで戻った。
係の部屋に入ると、先に戻っていた人たちが後処理をしながら談笑していたが、係長の笹谷さんが居ない。尋ねると、飯野さんと別室だという。
さっきの志田さんの言っていたことが頭の中で蘇り、書類だけ持って鞄は自席の椅子に置き、階段を駆け下りて教えてもらった会議室に向かう。
部屋の扉越しに笹谷さんが飯野さんにこってり絞られているのが聞こえた。
性急にノックしてそのまま応答も待たずに飛び込み、飯野さんに頭を下げる。
「あ、あの、い、飯野さん、おれ、結局先生と現場離れちゃったから、あのあとの見分すっぽかしちゃって、本当にすみませんでした…おれしか鑑識から行ってないのに…でも、あの、帰りにちゃんとやってきたんで…」
「いや、違う。お前は悪くない。戻ってろ」
「え、でも…」
おれの声を遮って、飯野さんは構わず笹谷さんに問い質す。
「そもそもおれは笹谷、お前に来いと、ホトケさんの搬出があるから誰か居れば連れて来いって言ったんだ。なんで新人の長谷ひとりに越させた。他に課員居なかったわけじゃないだろ」
「…いえ、その時は、わたしと長谷だけで…」
「だったら一緒に来ればいいだろ。そもそもなあ、単独でイチ鑑識係員が動くとか普通にないだろよ。それにまだ撮影とか読像くらいしかさせてないのに、新人ひとり放り込んでどうするつもりだった。何考えてんだ」
「それは…」
口ごもっていた笹谷さんが、その後に続けて出した言葉があまりに衝撃的だった。
「飯野さんが可愛がってるんだから、飯野さんが面倒見たらいいじゃないですか」
「はぁ!?」
そして更にそれに続いて出た言葉がおれに突き刺さった。
「下手に二人で行動して、なんかあったら嫌なんで」
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