Over Rewrite Living Dead

【2020/05 居場所】

《第4週 日曜日 午後》⑭

で、そんなこんなでおれは絶対に新村と接触しない、作業場と離れた、通用口近くの別室での作業と相成った。あ～あ、週末でまだ大学に報告上がってないから今はまだいいけど、あんな顛末のあとでこれじゃあ見立先生と緒方先生怒るだろうなあ。週明けたらおれクビかもしんない。どうしよ。
いや、別に教員辞めたところで仕事が無くなるわけじゃないし、仕事無くなったところで食い詰めることはないけど、警察も出入りしてるところでそんなことしちゃったから、最悪暴行とか傷害で逮捕起訴とかなるかもしれない。そっちのほうがまずい。警察官と同棲してる人間が逮捕とか有り得ないでしょ、長谷にも恥かかせちゃう。
言われた事自体は抗議するに値することだが、ヘッドロックして蹲ってるところを安全靴で顔面を蹴り上げて転がして、更に蹴り回して唾吐きかけるのはどう考えてもダメでしょ。「どこでそんなこと覚えたんだ」って、そりゃあ「ヤクザのところだよねえ…」ってなるでしょ。ダメだ、言い逃れができん。
お縄にかかる覚悟はしておかないと。先輩に連絡しといたほうがいいかなあ。お母さんにはなんて言おう、呆れるだろうな。ハルくんはめちゃくちゃ笑いそうだし一生ネタにするだろうな。南には真顔で説教されそう。娘の縁談にも支障出そうだし、やっぱおれ辞退したほうがいいだろうな。
通りがかりに止めてくれた先生、警察関係の方に「作業優先だから詳しくは後で」と伝えて現行犯逮捕は回避してくれた現場まとめてる先生にも、小林さんをお預けしたチームの皆さんにも、小林さんにもご迷惑をかけてしまった。
ちなみに新村は遺体を搬送してきた消防が戻るついでに付近の病院に搬送されて行ったという。そのままこの現場からは去ってもらうことにしたそうだ。この非常時のクソ忙しい時に消防や現地の病院にまで迷惑がかかった。おれもこの現場からは途中離脱になるだろう。
半分ほど湯が溜まった浴槽に浸かりながら、グルグル考えているが、やっちまったものは仕方がない。
おれは持ち込んだスマートフォンのロックを解除して通知を見た。一日放置していただけに連絡は勿論、ニュースなんかもたくさん表示されている。
例の件は…一通り実行犯は捕まったと書かれているが、ふみの名前は出ていない。それどころか片岡の関与していたグループの内部抗争やヤラカシが明らかになってきて、直人さんの件に絡んだ他の人間が捕まったり消されたりしてる。まだ完全収束は見えていないようだ。離脱して下手に都内に戻るのも怖い。思わずクソでかい溜息が出る。
一通りニュースに目を通し終え、今度は自分に来ている連絡を確認する。
お母さんから送られてきている写真、この夜景、食卓テーブル、食器やカトラリー、全部見覚えがあるものだ。そして、沢山の花で飾られケーキがお供えされた仏壇には、直人さんの写真。グラスを寄せて乾杯している手はお母さんと由美子さんとゆかちゃんだ。手の形や肌感やネイルですぐわかった。
「え、…なんでお母さん、其処に居るの…」
今すぐ電話かけて訊きたいけど、もう夜も遅い。気になって眠れない（かもしれない）じゃないか。
ハルくんからは特に何もない。そりゃそうだ、週末は泊まり込みだし感染症の騒動でそれどころじゃないだろうし、お母さんの動向も知らないだろう。
残っている通知はすべて長谷のものだった。模様替えの様子を送ってくれていた。そして、うちの近所や近隣の街を散策したのか、見慣れた風景がおれとは違う視点で撮られて送られてきている。こうして見ると早く帰りたいけど、帰るに帰れない。どうしよう、本当に。
これからどうなるのかな。いや、どうするのかなあ、おれ。