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【2020/05 居場所】
《第4週 日曜日 午後》⑩
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「ううん、多分、アキくんはその過程の中で、自分の身に起きたことを自分の力で整理して乗り越えたかったんだと思う。それと…実はアキくんのお父さんが、そっちの人なの。わたしたちの影響は、特にないはず」
わたしは、精神科のお医者さんの家の子だからなのだと思っていた。だからその後医学部に進んだのもそのためだと思っていた。でも結局最終的になったのが法医学教室の先生で、一体何がどうなってそこに行き着いたのか未だよくわからない。
「でも、じゃあなんで医学部に」
「心理学では、自分が追及したい疑問が解決しなかったし、治療者として役に立つにも手段が足りないとは言ってたの。それで、精神医学とか脳の研究をする研究医になりたいって」
「それが何故、法医学に?」
「そこはね、教えてくれないの」
玲さんはおそらくずっと、成人女性である故さくらさんやわたしにはずっとある種の警戒とそれに伴う緊張を持っているし、家を離れた時点から家族に対して一線を引いている。自分の中に留めて言わないでいることも、きっと多くある。
「それよりね、東大の受験が終わってお祝いしようって家に呼んだ時、わたしどうしようかと思ったわ。元々が偏食だったのもあるけど食も細くて、それが家を出てからひどくなって、だから食べさせたくて月イチ呼んでたというのもあったのね。それが最後一年、特に追い込みに入るようになってから更にひどくなってたみたいで。でも、家に入って暮らしぶりまで見ているわけじゃないから興信所の報告には上がってこないしわからないじゃない。只でさえ華奢だったのが窶れてたの。それこそ最初に英一郎さんが初めて病院で対面したときみたいだって言うくらい」
うちに初めて連れてこられたときにも、確かに直人さんが好きそうな華奢な子だなとは思ったけど、そのときはそこまで、心配になるほどの痩せ具合ではなかった気がする。それこそ合格後にご家族が食べさせたり、或いは本人も入学後に食べるように努めていたからなのだろうけど。
それよりもわたしは、プレイとは関係がないと思われる不審な傷の多さが気になっていた。爪の周りのささくれを始めに、ひどいものは指先まで皮膚が毟られていたり、唇が不自然に腫れていたりして。手首の内側につけられた細い赤い線とかも痛々しくて。
「それと、家に居た頃はなかったんだけど…自分を直接傷つけるというか。男の人を引っ張り込むようなこともそうだけど、傷が増えて」
「やっぱりそうなの?わたしも、最初妙に傷が多いなとは思ってたのよ」
自分で自分を追い込んだり傷つけたりすることでは足らなくなったのが、それ以降だったのだろう。時間の問題だったのかも知れない。その年のうちには危ないところに出入りして、映像や写真が流出して、翌年にはウリ専に入って、良くない意味で噂が立って耳に入って、直人さんの専属になって店を辞めている。其の辺りはもう知っているはずだ。
「さくらさんって呼んでもいい?さくらさんは、玲さんが何のために自分を傷つけるようになったのかとか、精神科医としてなんとなくわかる部分はあったの?」
「ええ、まあ、それなりには。でも、本人に直接訊いたことはないし、本人が助けを求めてこない限り、治療を望まない限り手は出せないなと思ってた。何せもう、わたしたちはアキくんのことに関しては無力感でダメになりかけてたし、一緒に暮らすハルくんのこともあったから」
「じゃあ、体を売るようになったのかとか、そういうことは」
「それも同じ。わからないわけじゃない、でも直接的に手は出せなかった。」
わたしは、精神科のお医者さんの家の子だからなのだと思っていた。だからその後医学部に進んだのもそのためだと思っていた。でも結局最終的になったのが法医学教室の先生で、一体何がどうなってそこに行き着いたのか未だよくわからない。
「でも、じゃあなんで医学部に」
「心理学では、自分が追及したい疑問が解決しなかったし、治療者として役に立つにも手段が足りないとは言ってたの。それで、精神医学とか脳の研究をする研究医になりたいって」
「それが何故、法医学に?」
「そこはね、教えてくれないの」
玲さんはおそらくずっと、成人女性である故さくらさんやわたしにはずっとある種の警戒とそれに伴う緊張を持っているし、家を離れた時点から家族に対して一線を引いている。自分の中に留めて言わないでいることも、きっと多くある。
「それよりね、東大の受験が終わってお祝いしようって家に呼んだ時、わたしどうしようかと思ったわ。元々が偏食だったのもあるけど食も細くて、それが家を出てからひどくなって、だから食べさせたくて月イチ呼んでたというのもあったのね。それが最後一年、特に追い込みに入るようになってから更にひどくなってたみたいで。でも、家に入って暮らしぶりまで見ているわけじゃないから興信所の報告には上がってこないしわからないじゃない。只でさえ華奢だったのが窶れてたの。それこそ最初に英一郎さんが初めて病院で対面したときみたいだって言うくらい」
うちに初めて連れてこられたときにも、確かに直人さんが好きそうな華奢な子だなとは思ったけど、そのときはそこまで、心配になるほどの痩せ具合ではなかった気がする。それこそ合格後にご家族が食べさせたり、或いは本人も入学後に食べるように努めていたからなのだろうけど。
それよりもわたしは、プレイとは関係がないと思われる不審な傷の多さが気になっていた。爪の周りのささくれを始めに、ひどいものは指先まで皮膚が毟られていたり、唇が不自然に腫れていたりして。手首の内側につけられた細い赤い線とかも痛々しくて。
「それと、家に居た頃はなかったんだけど…自分を直接傷つけるというか。男の人を引っ張り込むようなこともそうだけど、傷が増えて」
「やっぱりそうなの?わたしも、最初妙に傷が多いなとは思ってたのよ」
自分で自分を追い込んだり傷つけたりすることでは足らなくなったのが、それ以降だったのだろう。時間の問題だったのかも知れない。その年のうちには危ないところに出入りして、映像や写真が流出して、翌年にはウリ専に入って、良くない意味で噂が立って耳に入って、直人さんの専属になって店を辞めている。其の辺りはもう知っているはずだ。
「さくらさんって呼んでもいい?さくらさんは、玲さんが何のために自分を傷つけるようになったのかとか、精神科医としてなんとなくわかる部分はあったの?」
「ええ、まあ、それなりには。でも、本人に直接訊いたことはないし、本人が助けを求めてこない限り、治療を望まない限り手は出せないなと思ってた。何せもう、わたしたちはアキくんのことに関しては無力感でダメになりかけてたし、一緒に暮らすハルくんのこともあったから」
「じゃあ、体を売るようになったのかとか、そういうことは」
「それも同じ。わからないわけじゃない、でも直接的に手は出せなかった。」
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