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【2020/05 居場所】
《第4週 日曜日 午後》⑥
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収容先に面会に行ったとき「気づいてあげられなくて、助けてあげられなくてごめんなさい」と誤った時、ゆかは「社長のせいじゃないです、これは自分が無知で弱かったせいです」と言った。それに対し、助けを求められなかったのは弱さなんかじゃないと、その時のわたしは言ってあげることもできずにいた。
だからわたしはその代わりに何度も必死に面会に通い「其処を出たらうちに置いてあげるから来なさい」と、ゆかが折れるまで何度も言った。ゆかが表情をあまり表に出さないのも、自分を責めるようなことを言うのも、助けを求められないのも、どうしてなのかは詳しく聞いたことはない。
根底にこの子が祖母のもとに置いていかれた原因にあるような気がして、この子をもう独りにさせてはいけないと思い、必死だった。
そうやって連れてきたはいいものの、うちにいる子がゆかと文鷹二人だった頃は家の中が賑やかになることはなかった。二人とも真面目だし必要以上に関わろうとせずなかなか打ち解けなかったから。けど、そこに玲さんが加わったことで二人はそれぞれの性格や表情を見せるようになった。
プレイ以外の時間は自分の立場もお構いなしにマイペースに人の家で寛ぎ、あれやこれやと人に気安く頼む玲さんに最初ゆかは眼を丸くしていたけど、あの適度に砕けた軽い物言いに慣れてくると歳が近いこともあってかいい関係を築いていた。
文鷹も玲さんが来たことでようやく、わたしたちの前で年相応の男の子の顔をするようになったし、玲さんのおかげである種の頑なさが解れたような気がした。
やがてケーキを食べ終えてゆかが片付けに行ったのと入れ違いに客人が戻ってきた。まだ目の縁がほんのりと赤い。
「突然ごめんなさい。もう少し、玲さんの話をしてもいい?」
そう言うと、改めて此処まで話していたことを踏まえて本音を漏らした。「治療者以上になれなかった」といったけど、実際にはわたしたちは治療者としても駄目だったと。そして「わたしたちの家は玲さんの居場所にはなり得なかった」というのは、玲さんにとって結局心理的に安全な場所ではなかったからだと。
治療者として大きなミスを2つ犯した。1に玲さんの記憶を失わせたこと、2に玲さんの記憶を戻そうとしたこと。この2つが混乱と逸脱を招いたのは間違いないと思っている、極力玲さんの望む通りにして償う外はない。だから知っていても咎めることをしなかったのが現実だと語った。
「こんなこと、人に話したのは初めてよ。英一郎さんももう話せないし、これはわたしの中だけに留めて墓場まで持っていこうと思ってた」
そう言うと、それまでと違う寂しそうな表情をした。
救出されてきて体力を徐々に取り戻してようやく操作に協力して供述していく中、そして旦那様の英一郎さんが治療にあたる中でそのストレスに耐えられなくなった玲さんから記憶がロストした時、英一郎さんは帰宅するなり声を上げて泣いていたという。
玲さんが家に来てしばらくして、今度は記録を基に事件前の良かった頃の記憶をできるだけ戻せないかアプローチしたものの、玲さんにとっては生まれ育った家庭或いは両親の間や周囲に自分のせいで齎された緊張が常にあって「良かった頃」がそもそもとても少なかった。
また、女性の存在に言い表せない怖れがあることで、安全なはずの家が再び玲さんにとっては安全に欠けるものである状態が続いた為思うように治療はできなかった。
夫婦はそれぞれ他の仕事を進めたり、只できる限り玲さんにとってできるだけ暖かい家庭になるよう保つのに必死だったという。
だからわたしはその代わりに何度も必死に面会に通い「其処を出たらうちに置いてあげるから来なさい」と、ゆかが折れるまで何度も言った。ゆかが表情をあまり表に出さないのも、自分を責めるようなことを言うのも、助けを求められないのも、どうしてなのかは詳しく聞いたことはない。
根底にこの子が祖母のもとに置いていかれた原因にあるような気がして、この子をもう独りにさせてはいけないと思い、必死だった。
そうやって連れてきたはいいものの、うちにいる子がゆかと文鷹二人だった頃は家の中が賑やかになることはなかった。二人とも真面目だし必要以上に関わろうとせずなかなか打ち解けなかったから。けど、そこに玲さんが加わったことで二人はそれぞれの性格や表情を見せるようになった。
プレイ以外の時間は自分の立場もお構いなしにマイペースに人の家で寛ぎ、あれやこれやと人に気安く頼む玲さんに最初ゆかは眼を丸くしていたけど、あの適度に砕けた軽い物言いに慣れてくると歳が近いこともあってかいい関係を築いていた。
文鷹も玲さんが来たことでようやく、わたしたちの前で年相応の男の子の顔をするようになったし、玲さんのおかげである種の頑なさが解れたような気がした。
やがてケーキを食べ終えてゆかが片付けに行ったのと入れ違いに客人が戻ってきた。まだ目の縁がほんのりと赤い。
「突然ごめんなさい。もう少し、玲さんの話をしてもいい?」
そう言うと、改めて此処まで話していたことを踏まえて本音を漏らした。「治療者以上になれなかった」といったけど、実際にはわたしたちは治療者としても駄目だったと。そして「わたしたちの家は玲さんの居場所にはなり得なかった」というのは、玲さんにとって結局心理的に安全な場所ではなかったからだと。
治療者として大きなミスを2つ犯した。1に玲さんの記憶を失わせたこと、2に玲さんの記憶を戻そうとしたこと。この2つが混乱と逸脱を招いたのは間違いないと思っている、極力玲さんの望む通りにして償う外はない。だから知っていても咎めることをしなかったのが現実だと語った。
「こんなこと、人に話したのは初めてよ。英一郎さんももう話せないし、これはわたしの中だけに留めて墓場まで持っていこうと思ってた」
そう言うと、それまでと違う寂しそうな表情をした。
救出されてきて体力を徐々に取り戻してようやく操作に協力して供述していく中、そして旦那様の英一郎さんが治療にあたる中でそのストレスに耐えられなくなった玲さんから記憶がロストした時、英一郎さんは帰宅するなり声を上げて泣いていたという。
玲さんが家に来てしばらくして、今度は記録を基に事件前の良かった頃の記憶をできるだけ戻せないかアプローチしたものの、玲さんにとっては生まれ育った家庭或いは両親の間や周囲に自分のせいで齎された緊張が常にあって「良かった頃」がそもそもとても少なかった。
また、女性の存在に言い表せない怖れがあることで、安全なはずの家が再び玲さんにとっては安全に欠けるものである状態が続いた為思うように治療はできなかった。
夫婦はそれぞれ他の仕事を進めたり、只できる限り玲さんにとってできるだけ暖かい家庭になるよう保つのに必死だったという。
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