Over Rewrite Living Dead

きさらぎ冬青

文字の大きさ
上 下
384 / 453
【2020/05 葬列】

《第4週 金曜日 昼》

しおりを挟む
起きると、先生からメッセージが入っていた。
「お母さんに話しつけといたから。長谷お母さんの連絡先も知ってるんだって?来るなら事前に直接連絡くれって言ってたよ」
昼休憩になってからおれは連絡してみた。コールが数回鳴った所で先生のお母さんが出た。
「はーい」
「あ、あの、突然すみません…長谷ですけども」
一度訪問しているのに未だ恐縮仕切っているおれにお母さんはざっくり「玲さんの鍵でしょ」と言った。そして続けて「何か頼まれたの?」と訊いてきた。
「いえ、ちょっと諸事情有りまして、おれが今住んでいる物件に住み続けるの危ない感じなので、退避させていただくことになりまして」
「それは玲さんのせいで?何か、例の件でご迷惑おかけしてる感じ?」
おれは全力で否定した。高校時代の部活のコーチにストーキングされている可能性があって、と言うとお母さんは暫く考えているようだった。少し間があって、慎重におれに質問を重ねる。
「それは、卒業してからずっと?最近?」
「わからないんです。もしかしたらおれが気づかなかっただけで、ずっとだったのかもしれないですし」
「原因は心当たりある?」
「あります…」
そこまで訊くとお母さんは今日すぐにでも取りに来るようにと言ってくれた。但し、それと同時に、先生の家に住むことで先生の抱えている問題でおれに累が及ぶ可能性があることを懸念しているとも言った。
「それは、どういう面でですか?先生が関わってた人たちのことですか」
「それもそうだけど、それだけじゃなくて…そもそもフラストレーションの発散の仕方自体に問題がある人だから」
おれは胸の奥を刺されるような感覚に襲われた。それはおれも同じだ、自覚している。
「あの人達とのつながりが切れたところで、玲さんが他に発散できる方法が見いだせなければ、また同じことになると思ってるの」
「具体的にはどういうことですか」
そう言うとまたお母さんは少し考えて、慎重に話し始める。
「玲さんのピアスは、ハルくんが開けたもの…開けさせたものだって知ってる?」
背中から首筋まで、ざわりと体表の細かい毛が逆立ち、寒くなる感じがした。
先生のピアス。おれが知っている限り、舌と左右の胸、性器の先2つ、そして今はつけていないけど耳にもホールがあったような気がする。合計すると、10箇所くらい。
「そうやって、またハルくんにピアッシングさせるようになるかもしれないし、新たに自分を痛めつけてくれる人を探すかもしれない。…可愛がってくれる人は他にも居たけど、可愛がってくれるだけじゃ満足できないんだと思う」
可愛がってくれる人…お母さんはあの先輩のことを言ってるんだろうか。
「すみません、あの、実は、退避させていただくってさっき言いましたけど、一時的なものじゃなくて、同棲させていただくんです。でもおれは、先生を痛めつけるようなこと、多分出来ないです」
「…じゃあ、次につらい思いをするのは長谷くんになるかもしれないってこと?」
そうなのかな、どうしよう。
「かもしれないです…でも、おれはそれまでのこと全部忘れて、先生と一緒になりたいです」
おれが戸惑いながら言うと、お母さんは一言「わかった」と言った。
「長谷くんこんなに話してて大丈夫?まだ仕事してる時間でしょう?あとはうちでゆっくり話しましょう、わたしも訊きたいことも話したいこともあるから」
そうだ、早めに戻ってロッカーにちゃんと仕舞ってからにしないとまた叱られる。
こないだは見つかったのが飯野さんだからそれで済んだだけだし、最初会議室で調書読ませてくれたのも飯野さんが権限行使して特別にだったみたいだし、飯野さんにお目溢ししてもらってばかりだ。飯野さんが直接出向かない現場や課内でやったらそれこそ普通に処分食らうだろうし、飯野さんに迷惑をかけてしまう。
おれはお母さんにお礼を言って通話を切った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

熱のせい

yoyo
BL
体調不良で漏らしてしまう、サラリーマンカップルの話です。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

処理中です...