Over Rewrite Living Dead

きさらぎ冬青

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【2020/05 葬列】

《第4週 金曜日 昼》

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起きると、先生からメッセージが入っていた。
「お母さんに話しつけといたから。長谷お母さんの連絡先も知ってるんだって?来るなら事前に直接連絡くれって言ってたよ」
昼休憩になってからおれは連絡してみた。コールが数回鳴った所で先生のお母さんが出た。
「はーい」
「あ、あの、突然すみません…長谷ですけども」
一度訪問しているのに未だ恐縮仕切っているおれにお母さんはざっくり「玲さんの鍵でしょ」と言った。そして続けて「何か頼まれたの?」と訊いてきた。
「いえ、ちょっと諸事情有りまして、おれが今住んでいる物件に住み続けるの危ない感じなので、退避させていただくことになりまして」
「それは玲さんのせいで?何か、例の件でご迷惑おかけしてる感じ?」
おれは全力で否定した。高校時代の部活のコーチにストーキングされている可能性があって、と言うとお母さんは暫く考えているようだった。少し間があって、慎重におれに質問を重ねる。
「それは、卒業してからずっと?最近?」
「わからないんです。もしかしたらおれが気づかなかっただけで、ずっとだったのかもしれないですし」
「原因は心当たりある?」
「あります…」
そこまで訊くとお母さんは今日すぐにでも取りに来るようにと言ってくれた。但し、それと同時に、先生の家に住むことで先生の抱えている問題でおれに累が及ぶ可能性があることを懸念しているとも言った。
「それは、どういう面でですか?先生が関わってた人たちのことですか」
「それもそうだけど、それだけじゃなくて…そもそもフラストレーションの発散の仕方自体に問題がある人だから」
おれは胸の奥を刺されるような感覚に襲われた。それはおれも同じだ、自覚している。
「あの人達とのつながりが切れたところで、玲さんが他に発散できる方法が見いだせなければ、また同じことになると思ってるの」
「具体的にはどういうことですか」
そう言うとまたお母さんは少し考えて、慎重に話し始める。
「玲さんのピアスは、ハルくんが開けたもの…開けさせたものだって知ってる?」
背中から首筋まで、ざわりと体表の細かい毛が逆立ち、寒くなる感じがした。
先生のピアス。おれが知っている限り、舌と左右の胸、性器の先2つ、そして今はつけていないけど耳にもホールがあったような気がする。合計すると、10箇所くらい。
「そうやって、またハルくんにピアッシングさせるようになるかもしれないし、新たに自分を痛めつけてくれる人を探すかもしれない。…可愛がってくれる人は他にも居たけど、可愛がってくれるだけじゃ満足できないんだと思う」
可愛がってくれる人…お母さんはあの先輩のことを言ってるんだろうか。
「すみません、あの、実は、退避させていただくってさっき言いましたけど、一時的なものじゃなくて、同棲させていただくんです。でもおれは、先生を痛めつけるようなこと、多分出来ないです」
「…じゃあ、次につらい思いをするのは長谷くんになるかもしれないってこと?」
そうなのかな、どうしよう。
「かもしれないです…でも、おれはそれまでのこと全部忘れて、先生と一緒になりたいです」
おれが戸惑いながら言うと、お母さんは一言「わかった」と言った。
「長谷くんこんなに話してて大丈夫?まだ仕事してる時間でしょう?あとはうちでゆっくり話しましょう、わたしも訊きたいことも話したいこともあるから」
そうだ、早めに戻ってロッカーにちゃんと仕舞ってからにしないとまた叱られる。
こないだは見つかったのが飯野さんだからそれで済んだだけだし、最初会議室で調書読ませてくれたのも飯野さんが権限行使して特別にだったみたいだし、飯野さんにお目溢ししてもらってばかりだ。飯野さんが直接出向かない現場や課内でやったらそれこそ普通に処分食らうだろうし、飯野さんに迷惑をかけてしまう。
おれはお母さんにお礼を言って通話を切った。
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