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【2020/05 葬列】
《第4週 金曜日 朝》②
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「あ、そういえば」
「そう、あれはさ、多分、気づかせてくれたのは外の世界というか、外の世界で教えてもらったり知った色んなものだと思うんだよね。守られて好きなことだけ没頭してられる環境自体は有り難かったけど」
思い切り暈したけど、気づかせてくれたのは外の世界というか、おれが大検や大学受験に集中するために藤川の家を出て、それらを終えて本格的に逸脱し始めてからだ。それも、直人さんに出会ってからだ。
人様には言えないような事情での不慮の死でひっそり送られるなり、消息不明の末ひっそり戸籍上から消えるのを望んでいたのは自分だった。そのために直人さんのところに辿り着くまでにも只々無駄に危ない目にも遭ってた。
直人さんには期待していたし、その分「あくまでもプレイであって、そういう願望に応えてくれる訳ではない」という事実を突きつけられてがっかりしたし、虚しくもなった。本来の目的が果たされないことに失望しておれは連絡を怠ったり約束を破ることも増えた。
それでも直人さんはおれが来ることを待ってて、知っていること、学んでいることを話すとそれを喜んで聴いてくれた。そして、おれがそれまでの人生で興味を持ってこなかったことに触れる機会を与えてくれていた。
呼び出されて行ったらプレイ自体はなしで、行ったことのない場所に、見たことがないものを見せに連れて行ってくれることもあって。そういう時は決まってふみが居て、そこで普段おれに冷たい顔ばかりしてるふみが楽しそうにしているのを見るのも好きだった。
ユカちゃんが読ませてくれた漫画や小説、由美子さんが居る時に居間で流している所属俳優の出ているドラマや映画から、それまでよくわかっていなかった「人はどんな時にどのような反応をするのか」「どう感じて何故そういう事を言うのか」「こういう事を伝えるためにそういう顔や仕草をする」というのを徐々に知り、判るようになった。
これによって言葉にしないでも意識的に人は人に様々な配慮をして暮らしていることも知ったし、非言語の要素を使いこなせれば思っていること全てを言葉にする必要はないことも知った。
あと、いろいろなフィクションの中で恋愛模様を見るうちに、自分がそれまでに他者に抱いてきた「好き」の感情が、「愛」なのか「憧れ」なのか「ときめき」なのか「甘え」なのか「性的欲望」なのか、自分が如何にそれらを混同していたのか知って、わからなくなった。
そして、学校で講義を受け、調べたやレポートを重ねていくうち更に、自分の情動とか自分を駆り立てた性的衝動もまた脳の防御反応や内分泌といった身体機能に左右されているに過ぎないことを知り、更にわからなくなった。
自分が実の父に抱いていた感情は何だったのか、そういう感情を持った自分を母はどう思っていたのか、母の中にいた赤ちゃんに持っていた複雑な感情は何だったのか、優明に会って生まれた感情はなんと呼べばいいのか。
「なんで自分ばかり」とか「あの子ばかりずるい」という嫉妬の感情に囚われた人間に突如奪われ失ったものや、その時の自分の感情や混乱した記憶をどう処理すればいいのか、どう思えばいいのか。
そういうものは、当たり前だけどどんな物語にも文献にも明確な答えはなくて、おれは考える中でポツポツと蘇ってくる記憶に、只々起きたことを改めて追認させられていくばかりで、追いつめられていった。
それに伴って自分の容姿に対する嫌悪感や恐怖も蘇ってきて、自傷も再発して、食べたり眠ったりが厳しくなっていったし、それらの苦痛から逃れるために直人さんとのプレイに依存した。
そんな状態なのに院進して、「犯罪被害に因って自分のようになる人間を減らしたい」と入学してきて熱心に(というかしつこく)質問しに来てたおれを受け入れ根気よく面倒見てくれてた先生に師事したが、最終的にストップを掛けられた。
「そう、あれはさ、多分、気づかせてくれたのは外の世界というか、外の世界で教えてもらったり知った色んなものだと思うんだよね。守られて好きなことだけ没頭してられる環境自体は有り難かったけど」
思い切り暈したけど、気づかせてくれたのは外の世界というか、おれが大検や大学受験に集中するために藤川の家を出て、それらを終えて本格的に逸脱し始めてからだ。それも、直人さんに出会ってからだ。
人様には言えないような事情での不慮の死でひっそり送られるなり、消息不明の末ひっそり戸籍上から消えるのを望んでいたのは自分だった。そのために直人さんのところに辿り着くまでにも只々無駄に危ない目にも遭ってた。
直人さんには期待していたし、その分「あくまでもプレイであって、そういう願望に応えてくれる訳ではない」という事実を突きつけられてがっかりしたし、虚しくもなった。本来の目的が果たされないことに失望しておれは連絡を怠ったり約束を破ることも増えた。
それでも直人さんはおれが来ることを待ってて、知っていること、学んでいることを話すとそれを喜んで聴いてくれた。そして、おれがそれまでの人生で興味を持ってこなかったことに触れる機会を与えてくれていた。
呼び出されて行ったらプレイ自体はなしで、行ったことのない場所に、見たことがないものを見せに連れて行ってくれることもあって。そういう時は決まってふみが居て、そこで普段おれに冷たい顔ばかりしてるふみが楽しそうにしているのを見るのも好きだった。
ユカちゃんが読ませてくれた漫画や小説、由美子さんが居る時に居間で流している所属俳優の出ているドラマや映画から、それまでよくわかっていなかった「人はどんな時にどのような反応をするのか」「どう感じて何故そういう事を言うのか」「こういう事を伝えるためにそういう顔や仕草をする」というのを徐々に知り、判るようになった。
これによって言葉にしないでも意識的に人は人に様々な配慮をして暮らしていることも知ったし、非言語の要素を使いこなせれば思っていること全てを言葉にする必要はないことも知った。
あと、いろいろなフィクションの中で恋愛模様を見るうちに、自分がそれまでに他者に抱いてきた「好き」の感情が、「愛」なのか「憧れ」なのか「ときめき」なのか「甘え」なのか「性的欲望」なのか、自分が如何にそれらを混同していたのか知って、わからなくなった。
そして、学校で講義を受け、調べたやレポートを重ねていくうち更に、自分の情動とか自分を駆り立てた性的衝動もまた脳の防御反応や内分泌といった身体機能に左右されているに過ぎないことを知り、更にわからなくなった。
自分が実の父に抱いていた感情は何だったのか、そういう感情を持った自分を母はどう思っていたのか、母の中にいた赤ちゃんに持っていた複雑な感情は何だったのか、優明に会って生まれた感情はなんと呼べばいいのか。
「なんで自分ばかり」とか「あの子ばかりずるい」という嫉妬の感情に囚われた人間に突如奪われ失ったものや、その時の自分の感情や混乱した記憶をどう処理すればいいのか、どう思えばいいのか。
そういうものは、当たり前だけどどんな物語にも文献にも明確な答えはなくて、おれは考える中でポツポツと蘇ってくる記憶に、只々起きたことを改めて追認させられていくばかりで、追いつめられていった。
それに伴って自分の容姿に対する嫌悪感や恐怖も蘇ってきて、自傷も再発して、食べたり眠ったりが厳しくなっていったし、それらの苦痛から逃れるために直人さんとのプレイに依存した。
そんな状態なのに院進して、「犯罪被害に因って自分のようになる人間を減らしたい」と入学してきて熱心に(というかしつこく)質問しに来てたおれを受け入れ根気よく面倒見てくれてた先生に師事したが、最終的にストップを掛けられた。
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