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【2020/05 冀求】
《第4週 木曜日 夜》②
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「でも、おれが戻ったら長谷うちに引っ越すでしょ、そしたら毎日おれ家に居るよ」
わざと意地悪くそっけなく言うと、寂しそうな、心細そうな声がした。
「そうなんですけど、そうじゃなくて、今です…」
なんだろう、何かあったんだろうか。
「どうした」
声をかけるも、長谷は何も答えない。
「ごめん、いろいろ引っ掻き回したまま遠くに来ちゃって。大学戻れるかどうか正直わかんないし、今後もおれの身が安全だとも限らないし、おれのが他の関係してた男切れるのかとか、不安だし嫌だろ?降りるなら降りてもいいよ」
「違うんです、いいんですそれは、覚悟はある程度してます。降りません。只…おれが、おれの中で整理つけられていないことがあって、先生に言えてないこともいっぱいあって、それを、整理するために先生に話す時間がほしくて」
あれ、もしかして、今まで長谷ひとりで持ち堪えていた何かが、おれのせいで壊れかかってんのかな。
後先考えないで動く割に、長谷のほうがおれなんかより全然真面目だし、ちょっと良くない兆候かも。
「長谷は、おれに、自分のこと言わないよね。…前にさ、おれが上乗っかったときちょっとパニック起こしかけてさ、怖かったの?って訊いたら今度ちゃんと話しますって言ってたけど、まだ聞いてないし」
また長谷は黙ってしまった。
飲み終わったゼリーのパウチを潰してゴミ箱に投げたけど、うまいこと入らずに結局充電ケーブルが抜けないように気をつけながら体を起こして拾って、改めてゴミ箱に入れる。
「長谷はおれのことは知ろうとして、乱れた交際まで知った上で受け入れようとしてくれたんだし、言っていいんだよ、なんでも」
やや暫く沈黙が続いて、やがて長谷の方から話し始めた。
「先生、おれが、先生が居ない間に浮気したって言ったら、風俗にまた頼りましたって言ったら、なんて言いますか」
「おれが居ないのが耐え難かったなら、その時必要だったならいいじゃない。でもおれは勝手な人間だから、自分も似たようなことしてんのに、目の前で急に言われたら誂っちゃうかもね。…寂しくなって使っちゃった?」
できるだけ優しく言うと、泣き出してしまいそうな、少し震えた声で長谷が「ごめんなさい」と言ったのが聞こえた。
「ジムで、見つかりたくない人に見つかっちゃって、パニックになっちゃって…忘れたくて」
あぁ、余計なこと頭から追い出すにはうってつけの行為だからなあ。
「いいよ、それはおれもそうだったし、わかるから」
泣き出しそうな声だなと思っていたら、おれの答えに安心したのか、電話の向こうですすり泣くのが聞こえてきた。
「おれ、先生が、おれが、先生のこと色々探ってたとき、厳しい言い方はしたけど、やめろとは言わなくて、だから自分のことも話したかったけど、いつ、何から、何処から話せばいいのかわからなくて」
途切れ途切れ言う声に耳を傾ける。大きい体格の割に首が長くて喉が細い、穏やかな声が更に小さく細く、少年の声のように響く。
「長谷が話したいタイミングで、話したいことから話していいよ、おれは全部聞くよ」
おれはその後長谷が泣き止むまで、只じっと待った。
5分ほどして、ようやく気持ちが少し落ち着いたのか、ジムで遭遇したのは、部活のコーチだった人だと告白した。
高校入学時一目惚れしてその人を待ち伏せたら襲われ、その後引退まで関係や金銭を強要されて、最終的に進路を失う結果を招いたこと。母親がそれを切掛に家庭を捨てて入信していたカルトに身を寄せてしまったこと。
そして、警察官になったのはその件があって進路変更せざるを得なかった為に父親が動いてくれたお陰であること、家族とバラバラになったことで父親が荒れた末、病に倒れたことも。
わざと意地悪くそっけなく言うと、寂しそうな、心細そうな声がした。
「そうなんですけど、そうじゃなくて、今です…」
なんだろう、何かあったんだろうか。
「どうした」
声をかけるも、長谷は何も答えない。
「ごめん、いろいろ引っ掻き回したまま遠くに来ちゃって。大学戻れるかどうか正直わかんないし、今後もおれの身が安全だとも限らないし、おれのが他の関係してた男切れるのかとか、不安だし嫌だろ?降りるなら降りてもいいよ」
「違うんです、いいんですそれは、覚悟はある程度してます。降りません。只…おれが、おれの中で整理つけられていないことがあって、先生に言えてないこともいっぱいあって、それを、整理するために先生に話す時間がほしくて」
あれ、もしかして、今まで長谷ひとりで持ち堪えていた何かが、おれのせいで壊れかかってんのかな。
後先考えないで動く割に、長谷のほうがおれなんかより全然真面目だし、ちょっと良くない兆候かも。
「長谷は、おれに、自分のこと言わないよね。…前にさ、おれが上乗っかったときちょっとパニック起こしかけてさ、怖かったの?って訊いたら今度ちゃんと話しますって言ってたけど、まだ聞いてないし」
また長谷は黙ってしまった。
飲み終わったゼリーのパウチを潰してゴミ箱に投げたけど、うまいこと入らずに結局充電ケーブルが抜けないように気をつけながら体を起こして拾って、改めてゴミ箱に入れる。
「長谷はおれのことは知ろうとして、乱れた交際まで知った上で受け入れようとしてくれたんだし、言っていいんだよ、なんでも」
やや暫く沈黙が続いて、やがて長谷の方から話し始めた。
「先生、おれが、先生が居ない間に浮気したって言ったら、風俗にまた頼りましたって言ったら、なんて言いますか」
「おれが居ないのが耐え難かったなら、その時必要だったならいいじゃない。でもおれは勝手な人間だから、自分も似たようなことしてんのに、目の前で急に言われたら誂っちゃうかもね。…寂しくなって使っちゃった?」
できるだけ優しく言うと、泣き出してしまいそうな、少し震えた声で長谷が「ごめんなさい」と言ったのが聞こえた。
「ジムで、見つかりたくない人に見つかっちゃって、パニックになっちゃって…忘れたくて」
あぁ、余計なこと頭から追い出すにはうってつけの行為だからなあ。
「いいよ、それはおれもそうだったし、わかるから」
泣き出しそうな声だなと思っていたら、おれの答えに安心したのか、電話の向こうですすり泣くのが聞こえてきた。
「おれ、先生が、おれが、先生のこと色々探ってたとき、厳しい言い方はしたけど、やめろとは言わなくて、だから自分のことも話したかったけど、いつ、何から、何処から話せばいいのかわからなくて」
途切れ途切れ言う声に耳を傾ける。大きい体格の割に首が長くて喉が細い、穏やかな声が更に小さく細く、少年の声のように響く。
「長谷が話したいタイミングで、話したいことから話していいよ、おれは全部聞くよ」
おれはその後長谷が泣き止むまで、只じっと待った。
5分ほどして、ようやく気持ちが少し落ち着いたのか、ジムで遭遇したのは、部活のコーチだった人だと告白した。
高校入学時一目惚れしてその人を待ち伏せたら襲われ、その後引退まで関係や金銭を強要されて、最終的に進路を失う結果を招いたこと。母親がそれを切掛に家庭を捨てて入信していたカルトに身を寄せてしまったこと。
そして、警察官になったのはその件があって進路変更せざるを得なかった為に父親が動いてくれたお陰であること、家族とバラバラになったことで父親が荒れた末、病に倒れたことも。
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