Over Rewrite Living Dead

きさらぎ冬青

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【2020/05 冀求】

《第4週 木曜日 朝》⑨

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「引き渡しまでの安置所と、ご遺族のためのお部屋に向かう通路で見つけました。それらの部屋の中もあやしいと思います。これまでにもそういうことってありましたか」
「まあ、なんとかして撮ろうとするやつは居るね。…仕掛けたのがこの中で仕事している人間だったらどう炙り出すかだな、警察に任せるしかないか…でも許可を得て此処に居る人間だったらこういうの何の罪にできるんだろうな」
長谷に訊きたいことが増えていく。
やだな、いや、知りたいし別に嫌ということはないんだけど、仕事の話じゃなくて、もっと他愛のないこと話したい。
書斎の片付け途中のまま来ちゃったことだとか、いつ引っ越してくるのかとか、これからのことも話したい。
おれと居ないときの長谷は、どうしているんだろう。
出会う前の長谷は、どんなふうに時間を過ごしていたんだろう。
「とりあえず、通常通り清拭消毒して外観の撮影やタグ付けや記録を済ませてしまったほうがいいですよね、教えて下さい」
ぼんやり思っている間に小林さんは説明した内容に忠実に準備を進めている。おれはまだ検査のために採取していなかった物があるので先にそれを済ませてほしいと伝え、口腔内や鼻腔内をスワブで拭い容器に収めてから検査技師に引き渡してもらった。
そこに先程の看護師さんが戻ってきて、近場の総合病院でCT撮影受け入れの了承がとれたと報告をくれた。清拭するためのものや、記録や撮影するのに必要なものを小林さんと共に用意してくれるよう頼んだ。
二人で物品を用意して戻り、ご遺体を清拭している間、おれは撮影用のカメラと照明機器を準備しながら長谷のことを思い出していた。鑑識一年生がやる現場の撮影係ってどんな感じなんだろう。
前はカメラなんかいじったり写真を撮っていると、自然と取扱を教えてくれた実の父のことが無意識のうちに蘇ってくる事が多かったのに、今は無意識に長谷のことを思い出している。
「やばいな、疲れてんのかな」
おれがボソッと言うと、小林さんが振り向いた。
「寧ろ、藤川くんが疲れていないことってあるんですか」
まあ、小林さんは疲れていない状態のおれは確かにあまり見たこと無いかもしれない。仕事仲間だからそりゃあそうだろうだけど。
でも、言われてみれば、疲れていない状態の、何もしてない状態の自分自身って記憶が一時無くなって寸断して以後、あったかな。
「疲れてるかどうかの自覚自体が曖昧だからなあ」
機材を置いて、記録用紙や取り付けるタグに記入を進め、改めて小林さんに説明しながら記録を見せたりした。
上半身上半身全体の全体を撮るためには脚立に登る必要もあったが、小林さんは自分の膝より高いところに上がるのが怖いと言うほどの高所恐怖症で、ごく普通の階段も嫌いという人なのでそれはおれが代わりにやった。
「おれが肉ダメなのと同じくらい、小林さん高いとこダメだよね」
「だって…高いとこ登るって言わなかったじゃないですか…ううう…」
一重ながら大きくてとろんとした目の奥の黒目が潤んでいる。流石におれは泣くほどではないので小林さんの高所恐怖症のほうが強烈かもしれない。
それでも、しょぼしょぼしながらも小林さんは特徴になるパーツや体の各部位を丁寧に撮影し、記録を作成し、業務を全うした。
CT撮影も小林さんと看護師さんで行ってもらうことにして、再び毛布に包んだご遺体を迎えのストレッチャーに乗せるとこまで手伝って見送り、おれは先程の不審な機材のことについて対応を協議しているであろう医師控室へ向かった。
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