Over Rewrite Living Dead

きさらぎ冬青

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【2020/05 冀求】

《第4週 木曜日 朝》②

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午前中、医師側は搬入があるまで地元医師団からそれまでの引き継ぎを受けたり、連携の流れの確認やミーティングが主で直接新村くんと話す機会はなかった。歯科チームは仕事が違うので別途ミーティングだったからだ。
しかしそれが終わるとやはりいそいそと近づいてきて、空いている椅子を引っ張って小林さんの向かいに座った。
「藤川先生、小林さん、今日からよろしくお願いしますね」
幸い、こちらもミーティングが終わってそれぞれ分散して準備や記録を確認したりしていたので、周囲には他の組織の人間は居ない。
おれが「断る」と宣言すると、二人揃って『え』と目を剥いて俺を見た。
「緒方先生からは一応知った者同士チームでやってみてほしいって来てたけど、お前、自分がやったこと知られないで済むと思ってるのか?絶対にないと保証がない限りおれは性的虐待の被害に遭った者としてお前を許すわけにはいかないし、小林さんに接近接触することを許すわけにもいかない。その点と、災害現場の混乱に乗じた性犯罪は何処でも起こりうることと、災害対応に因るメンタルの乱れで誰もがそういった過ちは起こすリスクも孕んでいること、男女問わず性的に被害者加害者どちらにもなりうることも踏まえて例の件はこちらのミーティングでも話させてもらった。おれが院生時代から災害援助に度々呼ばれたり、見立先生や緒方先生から指示されて送り込まれてるのは検死のためだけではなく、精神科医心理学者としての支援も求められてのことだ。指示役の先生にはそっちのチームにも申し送って共有してくれるよう依頼した。そもそも、もうお前それでうちで博士入り拒否されて出てって同門ではないんだから業務上の連携以外でおれらと絡む必要ないだろ。どう動くかは歯科チーム内で都度自分で確認して動いてくれ。特にこういう場では、うちに居た頃のようないい加減な態度で取り組んでもらっては困る。来たからには心して掛かれ」
小林さんは先程のミーティングで、おれが話をしたあと「やはりこういう場所に女性が入るのは良くないんですかね」と言ったが、「そういうことではない。此処には地域の日赤から看護師も集まってくる。おれだと頼りにならないと思うなら仕事の流れを憶えたら彼女らを頼って一緒に動いてくれてもいい。とにかく災害現場では一人になる時間を作ってはいけない」と話した。
新村くんは予想通り、本性を出した。目に怒りを滲ませ、睨みつけながら低いトーンで言い返す。
「は?あんただって体売って誰彼かまわずオトコ落として寝てんじゃん、手段が違うだけでおれと変わんねえだろホモ野郎」
「おれはおれの意思でそうしている。相手におれから強要したことはない。批判は覚悟でやってる、誰にそれを非難される筋合いもない。そもそも目的も手段も違う、一緒にするな。それにおれはもうそういうことはしない。何かあったら東大の先輩に元検事の弁護士いるからそこ通して普通に刑事告訴するからそのつもりで居な」
おれが立ち上がり、ご遺体が到着し消防隊員と思われる一団が集まっている搬入口に向かうと、小林さんも後に続いてついてくる。向けられる怒りに満ちた目線を背中に感じ、小林さんに声をかけた。
「嫌な目線感じるだろ、あいつうちに居たときはヘラヘラしてたけどあれが本性だよ。名誉教授の見立先生が現役だったとき、先生の前じゃ猫かぶってたけど、直の指導医のうちの緒方先生や先輩やおれに指摘や批判されると同じ目を向けてきてた。おれと同じく小林さんも自閉傾向があるから気づきにくかったと思うけど、あいつ当時から小林さんの体舐めるように見てることもあったし本当に気をつけて」
改めて言うと、小林さんは「わかりました」と言った。
そして、早足でおれに追いついて、横に並ぶと「でも、あの、藤川先生はどうやって自分の自閉傾向に気づいたり、それによる弱点を克服したんですか」とおれの顔を覗き込んで訊いてきた。
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