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【2020/05 冀求】
《第4週 金曜日 夜》②
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「ああ、これは事故ですね。一応歩けるようにはなったんですが、今もこうやって装具をつけているんですよ。希望の仕事にはこの状態だと戻るのが難しくて、客として世話になってたこの業界に来たんです。こういうとこは障害がある人にも優しいんで」
スラックスの裾を捲って、装具を見せてくれた。そうか、もしかして、それで前の仕事を辞めたんだろうか。
「そうでしたか…あと、シノさん、前はコーヒーチェーンの上位の店員さん、いわゆるブラックエプロンだったんですよね?」
「ああ、ブログに書いたことありましたね。よく覚えてらっしゃいますね。そうなんです、なので、今の仕事ではとにかくお金貯めておいていつか自分のお店持ちたいと思ってます。実家も祖父母の代までは商売してたんで、その元店舗のスペース使って家族でなんかできないかなって思って」
やっぱりそうなのか。でも、目標を持って前向きに今の仕事しているのはすごいな。ちゃんと運営会社があって表向きは会社員なんだろうけど、あまり外聞のいい仕事ではないだろうに。でも目的があって割り切って働けるほうがいいというのはやはりそうだと思う。
「やっぱり、目標とか楽しみがないと働けないですよね、わかります」
「そうなんですよ、仮名しか存じ上げないのでそうお呼びしますが、フジカワさんも何かそういう、目標とかおありなんですか」
語りかけるシノさんの目は穏やかで優しい。
「正直、おれは逃げるように就職して、仕事自体を自分のまずいところ見ないように逃げ場にしてきたんで、そこまでは。でも、この先…本物の藤川先生に迷惑かけたくないとは思っています」
「それはそれで立派な目標だと思いますよ。あ、そろそろ休憩時間終わるので戻っていいですかね」
そうだ、一旦席を立ったのに引き止めてしまっていた。
「すみません、どうぞ戻ってください。本当、ありがとうございました」
「いえいえ、どうか本物の藤川さんと末永くお幸せに。スマホ、充電しときましたから返信してあげてください」
店を出てすぐ右折して去っていくのを見届けたあと、おれはスマートフォンのロックを解除して、届いているメッセージを確認するよりも早く、今まで利用してたホテルや店の情報を全て消した。
そして、藤川先生からのメッセージを確認する。仕事が終わってから何度も送ってくれていたのに、ごめんなさい先生。あんな自棄起こして挙げ句スマホをラブホに忘れて仕事終わってから店のスタッフさんから返してもらいました、なんて言えない。
ほんとはもう、そういう隠し事はしたくない。でも言うの怖い。少なくとも同棲がパーになるような、リスクがありそうなことは今はまだ言いたくない。先生が知ってどんな反応するのかわからない。先生はおれと違って思考も感情も単純じゃないし。
とりあえず「疲れて昨日はなんだかんだずっと寝てしまってました、ごめんなさい。今日は日勤のみで定時に上がりました。用事が終わったのでこれから帰ります」と送った。既読にならないのは、先生は多分まだ仕事しているからで仕方がないと思う。
おれも席を立って外に出た。さっき来るときに乗った品97系統のバスの品川駅高輪口行きに乗車して戻る。やはり疲れが抜けきっていないのか、座れた途端鞄を抱きかかえて終点まで寝入ってしまった。
混雑を避けて自宅まで歩いて戻ったら、少し早いけど寝てしまってもいいと思えるくらいの時刻にはなっていた。おれは食事も摂らずシャワーも浴びず、部屋着に着替えてスマホとモバイルバッテリーを充電ケーブルに挿してそのまま寝た。
スラックスの裾を捲って、装具を見せてくれた。そうか、もしかして、それで前の仕事を辞めたんだろうか。
「そうでしたか…あと、シノさん、前はコーヒーチェーンの上位の店員さん、いわゆるブラックエプロンだったんですよね?」
「ああ、ブログに書いたことありましたね。よく覚えてらっしゃいますね。そうなんです、なので、今の仕事ではとにかくお金貯めておいていつか自分のお店持ちたいと思ってます。実家も祖父母の代までは商売してたんで、その元店舗のスペース使って家族でなんかできないかなって思って」
やっぱりそうなのか。でも、目標を持って前向きに今の仕事しているのはすごいな。ちゃんと運営会社があって表向きは会社員なんだろうけど、あまり外聞のいい仕事ではないだろうに。でも目的があって割り切って働けるほうがいいというのはやはりそうだと思う。
「やっぱり、目標とか楽しみがないと働けないですよね、わかります」
「そうなんですよ、仮名しか存じ上げないのでそうお呼びしますが、フジカワさんも何かそういう、目標とかおありなんですか」
語りかけるシノさんの目は穏やかで優しい。
「正直、おれは逃げるように就職して、仕事自体を自分のまずいところ見ないように逃げ場にしてきたんで、そこまでは。でも、この先…本物の藤川先生に迷惑かけたくないとは思っています」
「それはそれで立派な目標だと思いますよ。あ、そろそろ休憩時間終わるので戻っていいですかね」
そうだ、一旦席を立ったのに引き止めてしまっていた。
「すみません、どうぞ戻ってください。本当、ありがとうございました」
「いえいえ、どうか本物の藤川さんと末永くお幸せに。スマホ、充電しときましたから返信してあげてください」
店を出てすぐ右折して去っていくのを見届けたあと、おれはスマートフォンのロックを解除して、届いているメッセージを確認するよりも早く、今まで利用してたホテルや店の情報を全て消した。
そして、藤川先生からのメッセージを確認する。仕事が終わってから何度も送ってくれていたのに、ごめんなさい先生。あんな自棄起こして挙げ句スマホをラブホに忘れて仕事終わってから店のスタッフさんから返してもらいました、なんて言えない。
ほんとはもう、そういう隠し事はしたくない。でも言うの怖い。少なくとも同棲がパーになるような、リスクがありそうなことは今はまだ言いたくない。先生が知ってどんな反応するのかわからない。先生はおれと違って思考も感情も単純じゃないし。
とりあえず「疲れて昨日はなんだかんだずっと寝てしまってました、ごめんなさい。今日は日勤のみで定時に上がりました。用事が終わったのでこれから帰ります」と送った。既読にならないのは、先生は多分まだ仕事しているからで仕方がないと思う。
おれも席を立って外に出た。さっき来るときに乗った品97系統のバスの品川駅高輪口行きに乗車して戻る。やはり疲れが抜けきっていないのか、座れた途端鞄を抱きかかえて終点まで寝入ってしまった。
混雑を避けて自宅まで歩いて戻ったら、少し早いけど寝てしまってもいいと思えるくらいの時刻にはなっていた。おれは食事も摂らずシャワーも浴びず、部屋着に着替えてスマホとモバイルバッテリーを充電ケーブルに挿してそのまま寝た。
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